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200kmの航続距離をどう受け取るか

text:Steve Cropley(スティーブ・クロップリー)translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
キュートな見た目に充実した装備。良く作り込まれた、ホンダ初の量産電気自動車が「e」だ。何度かご紹介しているが、その評価は200kmという航続距離をどう受け取るかで変わる。

現在購入できる純EVとしては、航続距離が比較的短い。200kmという数字が、ホンダeの購買層と実際の利用条件に、大きな影響を与える。純EVの場合、高めに設定されがちな価格以上に、大きな要素だと思う。

ホンダeアドバンス(英国仕様)

ホンダeの英国価格は、政府の補助金を差し引いた状態で、ベースモデルが2万6000ポンド(348万円)。上級グレードのアドバンスを選択し、いくつかの有力オプションを追加すれば、3万ポンド(402万円)近くになる。

ホンダも、純EVにとって航続距離が話題の軸の1つなことは理解済み。シティカーとして、慎重に表現している。英国の平均的なドライバーの1日の通勤距離が、Eの航続距離の20%に留まることにも触れている。

つまり、郊外に住まう人が1週間通勤するのに、充分な距離を走れることになる。もしそれ以上の距離を走りたいなら、別のモデルを選んだ方が良い。あるいは、セカンドカーにするか。

一方で、ホンダeで見逃せないのが、くりっとした丸目のデザインと、ドライバーへの訴求力。シンプルでモダンなデザインは、1972年に登場したホンダ・シビックを彷彿とさせる。現在のコンパクトカーの中では、特にユニークなデザインに仕上がっている。

ドライバーの気持ちをくすぐる性格

ステアリングホイールを握れば、その他大勢の純EVとは異なることが、すぐにわかる。サスペンションは、スプリングが硬く減衰力の足りない、コンパクトなライバルEVとは違う。都市や通勤といった言葉以上の、ドライバーの気持ちをくすぐる性格がある。

ホンダがeで主張することは、クルマ好きなら理解できるだろう。全長は3.9m。小さいバッテリーの容量は35.5kWhだが、車重は軽い仕様なら1514kgに留まる。

ホンダeアドバンス(英国仕様)

航続距離の長い大きなバッテリーを与え、全長を200mm延ばすこともできる。すると車重は150kg重くなり、Eより価格帯が上の、別のモデルが生まれてしまう。

小さなバッテリーだから、充電時間も短い。急速充電器なら、20%の状態から80%まで30分で済む。家庭用の充電器でも、4〜5時間ほどで満充電にできる。充電口は、ボンネット上。タイプ2と呼ばれるソケットに対応する。

航続距離の範囲内で運転する限り、eは特別なコンパクトカーだと気づく。ホンダもそれを狙っているようだ。

前輪駆動の新しいフィットにも、ホンダはeと同様のバッテリーを搭載できたかもしれない。車高は高く、車内もやや広い。しかし、電気自動車専用の後輪駆動プラットフォームを新しく開発している。

前後の重量配分は50:50と良好。サスペンションはフロントがマクファーソン・ストラット式、リアがマルチリンク式を選んでいる。後輪駆動だから前輪の自由度が増し、小回りも効かせられる。ロンドンタクシーを上回る、最小回転直径8.6mを実現した。

車内はラウンジのように素敵な雰囲気

電気モーターは1基で、リアタイヤ間にマウントされている。ベースモデルは135psだが、試乗車のアドバンスは153psを発揮する。そのかわり車重も30kg増える。どちらも最大トルクは32.0kg-mと力強い。

0-100km/h加速は、アドバンスでは追加の馬力を活かし、ベースモデルを0.7秒縮める9.0秒だ。

ホンダeアドバンス(英国仕様)

ホンダeの小さなボディは、クルマとしての目的を示している。サイズは現行のミニと同等だが、全高は100mmほど高いから、車内空間は高さ方向でゆとりがある。

ドライビングポジションはやや姿勢を正す感じだが、前方視界は良好。リアシートへの乗り降りもしやすい。ホイールベースは2530mmあり、このクラスとしては最長の部類に入る。

リアシートの広さはほどほど。荷室は、モーターが搭載される都合でフロアが高く、広いとはいえない。

インテリアは、リビングのソファーのようなファブリックと、マット仕上げのウッドトリムで素敵な雰囲気だ。写真で見るよりずっと良い。まるで、どこかのラウンジのよう。

フラットな木目のダッシュボードの上には、合計5面のモニターがずらりと並ぶ。左右両端は、後方確認用。eは、鏡ではなくカメラの映像で、左右後方の映像をドライバーに見せてくれる。

ドライバー正面のモニターはメーター用で、運転に関わる情報を表示してくれる。残りのワイドなモニターはタッチ式で、12.0インチ2枚で構成。様々な表示に切り替えられるが、基本的にはナビやエアコン、インフォテインメント・システム用だ。

コンパクトカーと純EVの良いとこ取り

この2面のタッチモニターは、表示コンテンツの切り替えが可能。助手席の人が音楽を選んだり、ナビのルート設定をして、表示内容を左右で入れ替えることもできる。

音声認識システムも搭載し、「OK、ホンダ」と話しかければ、会話形式でのやり取りが可能。すべてに慣れるには1週間くらいは必要かもしれない。しかし、ホンダeの魅力となっていることも確かだと思う。

ホンダeアドバンス(英国仕様)

路上に走り出てみると、コンパクトカーと電気自動車の良いところが組み合わさり、ホンダeは本当に運転が楽しい。広いトレッドと、床下にバッテリーが収まる低い重心高のおかげで、安定性とボディロールの制御は、印象的なほどに優れている。

着座位置が高く、背もたれも起き気味だから、スポーティと呼べるほどではない。また人によってはコーナリング時に、シートのサイドサポートが足りないと感じることもあるだろう。

それでも、小さなステアリングホイールと小回りの良さ、比較的幅の狭いボディ、純EVらしい低速域での滑らかな速度制御の相乗効果は大きい。ホンダeを、素晴らしいコンパクトカーにまとめている。

都市部の混んだ道をキビキビと走り、狭い駐車スペースにスルリと収まる。アドバンスには、運転支援システムなどとあわせて、自動駐車システムも搭載。ほかのコンパクトカーでは見られないほどの、充実装備だといえる。

コンパクトカーの新しいドライビング体験

郊外の道に出ても、ホンダeの走りは良い。長いホイールベースと重心の低さ、短いオーバーハングのおかげで、このサイズのクルマとしては例外的に姿勢は安定している。ロードノイズや、路面からの衝撃吸収性も良好だ。

新しいホンダeは、ワンランク上の上質さを備え、コンパクトEVとしてのベンチマークを設定したといって良い。郊外の開けた道まで足が伸ばせなくても、気持ち良く都市部とその周辺を走れる。

ホンダeアドバンス(英国仕様)

ホンダeを運転すると、気持ちが高ぶる。車重1.5tのコンパクトカーとして、まったく新しいドライビング体験を与えてくれる。

ホンダが純EVへ一歩足を進めた、という衝撃も小さくない。ホンダ初の小さな量産電気自動車、e。新しい潮流の1つとして、一度ステアリングを握ってみる価値はある。

ホンダeアドバンス(英国仕様)のスペック

価格:2万8660ポンド(384万円/英国政府補助金適用後)
全長:2894mm
全幅:1752mm
全高:1512mm
最高速度:144km/h
0-100km/h加速:8.3秒
航続距離:201km
CO2排出量:0g/km
乾燥重量:1542kg
パワートレイン:シングル電気モーター
バッテリー:35.5kWリチウムイオン
最高出力:153ps
最大トルク:32.0kg-m
ギアボックス:1速オートマティック