「脱げない」と堂々言い切るフットカバー。果たしてその実力は?(写真提供:岡本)

いよいよ夏、外に出るだけで汗ばむ季節になってきた。仕事着にはクールビズやカジュアルが定着してきたが、足元はなかなか裸足にサンダルとはいかない。通気性のよくない革靴もせめて靴下だけは涼しくと、フットカバーを検討する人も多いかもしれない。

フットカバーとは、つま先と踵を覆う靴下の一種で、甲が広くあいた靴でもはみ出ない。パンプスを履く女性や、素足風に見せたい男性などに売れている。

今や100円均一ショップから大手アパレルメーカーまでさまざまな企業から販売されている定番品だが、異例のヒットとなっているのが、「脱げないココピタ」(350円、税別)という商品だ。

製造しているのは、国内の靴下売上高で首位(繊研新聞調べ)の岡本。2018年3月の発売からわずか2年で累計販売足数は2000万足を超えた。同社の従来品との比較では10倍の伸びとなったという。

9割が「脱げる」ことに不満を抱いていた

ヒットの秘密は、「すぐに脱げてしまう」という課題を解消したことにある。フットカバー経験者の中には、脱げてしまうものばかりと不満を感じた人も多いのではないだろうか。実際に岡本の調査でも、90%以上の人が「脱げてしまう」点が不満と回答。これは、長年業界の共通課題だった。


女性向けの一番人気は、シームレスの浅履きタイプ。パンプスからぎりぎりはみ出ない、かつ脱げない形だ(写真提供:岡本

フットカバーの登場は、2005年頃。当時、レギンスが大ブームとなっていた。レギンスは素足で靴を履くのが前提のファッションアイテムだが、その前提に抵抗感を抱く人は多く、足のべたつきやムレを防ぎつつパンプスも履けるデザイン性を両立するフットカバーは一躍人気に。2010年頃からは、パンツのロールアップやハーフパンツの流行から、浅履きの靴や素足風スタイルを楽しむ男性が増え、メンズ用の需要も伸びていった。

ところが、「普及とともに『すぐに脱げてしまう』という不満が多く寄せられるようになった」と、同社マーケティング本部婦人部の大林勇士さんは振り返る。

筆者もいろいろなメーカーのものを試してきたが、見事にどれも脱げる。歩行中に脱げて靴の中で丸まったフットカバーを履き直す作業は、何度も続くと結構なストレス。それでも暑い時期はなるべくストッキングを履きたくないし、素足で靴を履くのもイヤなのでフットカバーを使い続けて今に至る。


岡本マーケティング本部婦人部の大林勇士さん。2018年の「脱げないココピタ」発売時から同商品を担当している(写真提供:岡本)

これまでもたびたび「脱げにくい」と謳う商品は出てきたがブレイクするものはとくに現れなかった。需要がある割には課題が解決されない状況が続き、次第に「フットカバーは脱げるもの」という共通認識が消費者の間に広がっていったように思う。そんな中、「本当に脱げない!」とSNSなどで話題となったのが、同商品だった。

筆者と同じく「フットカバーはすべて即脱げる」という担当編集者とともにパンプスとスニーカーで試してみたが、確かに商品名のとおり、脱げない! 筆者は1時間の歩行でも脱げなかった。「脱げないフットカバーなどこの世にない」と思っていた私たちにとってこれは驚きの結果だった。

差別化を実現した「コの字型ストッパー」

この「脱げる」問題を解決するべく、同社が開発をスタートしたのは、2014年頃だという。「室内では脱げないのに靴を履くと脱げる」という声が多かったため、同社は「靴と靴下の関係性」に注目。製造現場の見学やヒアリングを行い、靴の製造工程を確認した。

すると、靴の踵部分は成型機で踵にしっかり沿うよう作られており、足が抜けないようになっていることがわかったという。とくに踵の両サイドをがっちり抑えつけており、踵の内側は滑り止め効果を発揮するような素材が使われている場合が多いことも判明した。


「脱げない」を実現した、特許取得の「コの字型ストッパー」(写真提供:岡本)

「ならば、靴内部の滑り止めよりも強く踵の両サイドをホールドできる形状のストッパーを作ればいいということになり、角度などを何度もテストをして『コの字型ストッパー』(特許取得)が開発された」と、大林さんは説明する。

そう、このありそうでなかった「コの字型」が差別化の肝なのだ。筆者も今まで踵にシリコンのストッパーが付いている商品をいくつも試してきた。ドット型、波型、ボーダー型などさまざまな形状があったが、どれも脱げてしまったのは踵を抑える力が弱かったことが原因の1つだったようだ。

ただ、「微調整に苦労した」と、大林さん。ストッパーの素材は一般的なフットカバーと同様にシリコンを採用しているが、本体の素材選定に難儀したという。素材によってコの字がフィットしない、フィットしても締め付けすぎる、逆に締め付けが弱いと脱げてしまうなど、素材とストッパーとの相性が大きな課題となった。

1000足以上を試作した結果、オリジナルのニット素材と薄手のカットソー素材(シームレスタイプ)を商品化した。ストッパーがきちんと機能するよう、素材によりストッパーの貼り方やサイズも微妙に変えている。

こうして完成した自信も背景に、ネーミングには大胆にも「脱げない」という言い切りの表現を採用した。


男性向けは、ニットの深履きタイプが売れている(写真提供:岡本)

しかし、消費者だけでなく取引先の間でも「フットカバーは脱げるもの」という固定観念が定着していたため、言葉だけでは商品の実力は伝わらないと考えた。そこで商談の際、マネキンの足に靴下を履かせ、実際に引っ張ってもらうことに。すると、取引先は脱げない威力を実感して一様に驚いたという。これをきっかけに、パッケージやPR動画にも商品を手で引っ張った様子を採用することにした。

さらに「マーケティング投資を積極的に行った。例えばテレビCMの全国展開は会社史上初の試み」と、大林さんは語る。

販路開拓にも注力した。「もともと靴下は商品を目にして初めて『ついで買い』する人が多い。CMを見て欲しいと思っても身近な場所になければ購入につながらないので、どこでも売っている状態を目指した」(大林さん)。

靴下類はGMS(総合スーパー)の靴下売り場などに置いてあるのが一般的だが、ドラッグストアやスーパーなどへも販路を拡大したという。最近筆者も近所のダイソーで目にした。

次のお悩み解決商品は?

開発開始から販売まで4年かけ、稼ぎ頭となった同商品。メインとなる購買層は40〜50代女性だが、20〜30代、メンズの販売も拡大している。

女性向けの人気1位は、パンプスなどに合うシームレスの浅履きタイプ、2位はスニーカーに合うニットの超深履きタイプ。男性向けは、ニットの深履きタイプが売れている。他のアパレル製品と同様、自粛要請の影響で一時的に売り上げは落ちたが、6月以降は回復基調にあるという。


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同社は70年以上、靴下を製造してきたが、1998年頃より「さまざまな種類を作って売り場に置く」スタンスから、「足元の悩みに応えるものを届ける」方針へシフトしたという。消臭機能にこだわり累計1100万足を売る「スーパーソックス」など、その方針は徹底している。

確かに一般的なフットカバーは「脱げる」以外にも、ストッパーのシリコンでかゆくなるといった別の不満も聞く。強力な消臭効果を期待する人も多いだろう。5本指タイプの同商品が欲しいと思っている人も一定数いそうだ。筆者は「親指部分の穴あき問題」の改善をお願いしたい。

今、コロナ禍を機に消費者は「自分にとって真に必要なもの」の線引きがよりシビアになっている。どの悩みに焦点をあてるのか、次なる商品も楽しみだ。