österreichのアーティスト写真(Courtesy of パーフェクトミュージック)

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高橋國光によるソロプロジェクトösterreich(読み:オストライヒ)が遂に本格始動。昨年10月に行われた初ライブのメンバーでもある飯田瑞規(cinema staff)、三島想平(cinema staff/peelingwards)、鎌野愛、佐藤航(Gecko&Tokage Parade)、GOTO(DALLJUB STEP CLUB)、須原杏をレコーディングに迎え、4曲入りの『四肢』(CD盤にはCD盤先行収録の「ずっととおくえ」を含む5曲を収録)を完成させた。

österreichのデビューからは5年、the cabsとしてのデビューからは10年近くが経ち、シーンは大きく移り変わったが、それでも強い記名性と普遍性を感じさせる高橋國光の楽曲。その音楽的な成り立ちと、下の世代への影響力を紐解きながら、「ポップス」を志向する彼の現在地に迫った。

東京喰種』が終わったときに、「もうやめてもいい」くらいの気持ちでいた

―これまでに発表した2枚のシングル、『無能』と『楽園の君』はどちらもTVアニメ『東京喰種』の主題歌で、作者の石田スイさんとの関係性ありきでのリリースでしたよね。タイアップが付かないのは今回の『四肢』が初めてで、新しいマネジメントとともにリスタートとなるわけですが、昨年1年でどのような心境の変化があったのでしょうか?

高橋:『東京喰種』に関しては、確かに「石田が言ってくれたからやろうかな」っていう気持ちで。ここ5〜6年は、「音楽をやりたい」って気持ちより、「言われたからやる」とか「彼のためにやる」とか、そういう側面が強くて。

そういう中で、毎回ほぼ同じスタッフとかメンバーでやらせてもらってきて、「ちゃんと腰を据えてやってみたら?」って言われてたんですけど、毎回はぐらかしてきたんです。で、『東京喰種』が終わったときに、僕の中でもひと段落ついたから、「もうやめてもいい」くらいの気持ちでいたんですけど、「楽園の君」のアコースティックバージョンを作ることになって。

東京喰種トーキョーグール:re』”最終章”のEDテーマとして起用された、österreich「楽園の君」

―昨年リリースされた『東京喰種トーキョーグール AUTHENTIC SOUND CHRONICLE Compiled by Sui Ishida』のためですよね。

高橋:終わった気持ちでいたところに、それが入ってきちゃって、すっごいやりたくなかったんですよ。でも、やるしかなかったんで、ギリギリで仕上げて。そうなると「終わったけど、結局やってるな」みたいな感じもあったし、レコーディングの帰りに、お世話になってるエンジニアさんに「お前は絶対に音楽をやった方がいい」って、今までにないくらい熱めに言われて。そこで心境の変化もあったし、「嫌だな」って思ってたレコーディングも、やってみたら楽しかったんですよね。

なので、一人でももうちょっと音楽やってみようかなと思ったタイミングで、いろんなところから話が来たんです。今所属してる会社から「アイドルの曲を作ってくれ」とか、cinema staffから「共作しよう」とか。中でも決定的だったのがTKさんとのライブ。なので、去年1年はなにも考えずに、頼まれたら全部やるっていうスタンスで走り始めた感じです。

―やっぱり初ライブと、シネマとの共作、ツアーへの参加は大きかったですよね。

高橋:でも根本的には、俺の音楽に対しての熱量って、昔に比べると絶対落ちてると思うんですよ。歳取ったらみんなそうだと思うんですけど、初期衝動みたいなものはもうない。それをヒシヒシと感じてたから、その中でどうやって続けていくんだろうっていうのは去年1年ずっと考えて……人がいるからできるんだなっていうのはデカかったです。


Photo by Kana Tarumi

バンドをやってるような空気がずっとあって、すごく楽しくて。

―國光くんのnoteには、「今のösterreichはバンド」という記述もありますよね。

高橋:ライブのためにメンバーを集めるってなったときに、近しい人が多くなって、スタジオ入っても仕事仕事してないっていうか。バンドをやってるような空気がずっとあって、すごく楽しくて。ライブをやったときの達成感みたいなのも、「俺一人でやった」というより「みんなでやった」って気持ちが強くて、言ったら、文化祭みたいな感じっていうか。こういうのしばらく味わってなかったなって。その過程で、みんなで曲を作り上げたのもあるし、一人じゃなにもできない、バンドなんだなって体感しました。

―その過程で、音楽に対する熱量も取り戻していった?

高橋:いや、音楽は全然楽しくないんですけどね(笑)。局所的にすごく楽しい瞬間はあるんですけど、本質的なところで、音楽をすごく楽しめてるかっていうと、これは昔からですけど、そこまでなんですよ。死ぬほど楽しいって思うときもあれば、二度とやりたくねえって思うこともある。「じゃあ、なんでやってんだろう?」って考えると、上手く説明できなかったりもして……なんでなんですかね?

拍子はホントに出たとこ勝負でしかない。最近はABサビみたいな様式美をやってるつもり

―今の疑問を解き明かすためにも、österreichのベーシックについて聞いていきたいです。まずDTMでデモを作って、それをバンドに落とし込んでいくそうですが、基本的な曲の作り方を教えてもらえますか?

高橋:朝起きて、ニワトリを絞めて、生きとし生けるものすべてへの慈愛みたいなものを持つんです。で、魔法陣の中心に絞めたニワトリを置いて祈ると、フワッと光が射して、ニワトリがスッと消えていくと同時に、音符が書いてある紙が落ちてきて……。

―そういうのいいから(笑)。österreichの音楽はやっぱりリズムや構成が特徴的で、しかもただ変拍子とかポリリズムとかミニマルってだけじゃなくて、反復のようで裏側が変わってたり、そもそも構成的に戻ってこなかったり、絶えず変化している印象があるので、どうやって作ってるのかなって。

高橋:拍子はホントに出たとこ勝負でしかないし、できたものがたまたまそうだったってパターンがほとんどで。俺はわりと普通だと思ってます。構成も最近は結構普通っていうか、かなりポップスに寄せた、ABサビみたいな様式美をちゃんとやってるつもりなんですけど。

―確かに『無能』の頃に比べると、最近の曲はポップス的な様式美がありますよね。ただ、「とはいえ」っていう感じではあると思う。

高橋:まあ、そうですね。曲を作ってるときの記憶はほとんどないんです。嫌すぎて、つらすぎて(笑)。喜びとともに曲を作ってる記憶はあんまりないですね。

―じゃあ、曲を作っていて喜びを感じるのはどんな瞬間ですか?

高橋:いいメロディができたときとか、そういう単純なことかもしれない。いいコードとメロディのハマり方をしたなとか、そういう細かいところではあるんですけど。

迷ってる中でたまに正解にかする瞬間があって、その瞬間は楽しかったりする

―例えば、近しい人の名前を挙げてみると、ハイスイノナサの照井順政くんって建築が好きだったりして、作る曲にも構築美みたいなものがあるじゃないですか? そういう感覚って國光くんにもあるんですか?

高橋:たぶんですけど、照井さんは、それこそ建築と一緒で、最初に部品がバーッてあって、それがどう連なって曲ができるかってところまでが初期設定の段階からちゃんと見えてる。だから、それが考えた通り組み上がったことに対する喜びみたいなことがあるんだと思うんです。でも、僕は初期設定で最後まで見えてることがホントなくて、やってくうちにどんどん変わっちゃう。でも、そうやって迷ってる中でたまに正解にかする瞬間があって、その瞬間は楽しかったりします。

―迷いながら曲を作っていく中で、リズムなりコードなりメロディなり、ここはいつも時間をかける、もしくはかかってしまうのはどの部分ですか?

高橋:メロディですね。歌ものとしては、グッドメロディみたいなものをすごくやりたいんですけど、そこが結構コンプレックスで。理論的にメロディを分解していく手法もあって、プロの作曲家とかはそういうことをやってると思うんですけど、まずは元から賜った才能みたいな、根本的なセンスが重要だと思ってて。自分にはそれがないなって思わされる瞬間がめちゃくちゃあるんです。周りにいいメロディを書く人が多いからっていうのもあるんですけど、コンプレックスの裏返しでメロディはめちゃくちゃ時間かかるんですよ。

―でも、「楽園の君」を聴いたときは、やっぱりメロディセンスあるなって思いました。

高橋:あれはホントに珍しく、歌って作ったんです。鍵盤じゃなくて、鼻歌で作ったから、他の曲とはちょっと質感が違うのかもしれないですね。

Track1:swandivemori「飯田瑞規というボーカルをちゃんと使いたい気持ちが強くて」

―歌メロに対するトライは『四肢』の中にもいろいろな形で散りばめられてると思うので、1曲1曲聞かせてください。1曲目の「swandivemori」は、cinema staffの飯田くんのボーカル曲で、去年の夏頃に作った曲だそうですね。

高橋:直近でcinema staffの曲を三島と共作して、そのあとにösterreichでライブをやることになったので、その流れでベースを三島に頼んで、2曲くらい作ろうってなったんです。そのときに、cinema staffの共作と同じ手法をそのままやってみたいと思って。なので、三島もメロディに結構手を入れてて、2人で作った感じですね。

―大元は國光くんが作って、それを三島くんに投げて、お互いブラッシュアップしていったわけですよね。

高橋:あとはcinema staffと一緒にやらせてもらって、飯田瑞規というボーカルをそのまま呼ばせていただいたので、彼のボーカルをちゃんと使いたい気持ちが強くて。彼に合う曲調というか、開けた感じの曲がいいなって。cinema staffはそういう曲が上手いから、だからこそ三島に手伝ってもらったっていうのもあります。

―ある意味、「斜陽」と兄弟みたいな曲だと。あとこの曲はギターが全面に出ていて、noteには「何度目かわからないオルタナブームも再来してた」と書いてましたよね。

高橋:スマパンブームが来てました。もともと大好きで、一回ドラムが薬で抜けて、打ち込みでアルバム作ったじゃないですか? 前はあの辺りが好きだったんですけど、去年は初期のスマパンブームが来て、「ギターの音がデカいのやっぱりいいな」って、その影響はちょっとあるのかもしれない。

Track2:映画「やっぱり歌の力みたいなものがすごく好きなんだと思う」

―2曲目の「映画」は古い曲で、SoundCloudには別バージョンも上がっていますが、鎌野さんボーカルと今のバンドで仕上げた形ですね。

高橋:「映画」はもともと一人で作ってたときの曲なので、ちょっとパーソナルな感じなんです。でも、当時ポップスをやりたいと思ってたから、シンプルで、あんまりひねらずに、いいメロディといいフレーズでまとめた曲を作りたい欲があって。それを今に落とし込んだらこうなりましたっていう感じです。

―國光くんの思う「いいポップス」とは?

高橋:Mr.Childrenですね。やっぱり歌の力みたいなものがすごく好きなんだと思う。誰が聴いてもいいと思えるというか、ポップスというものの定義のひとつが普遍性じゃないですか? そこに対する憧れはめちゃめちゃあります。自分の作るものがどうしても変な感じになっちゃうのは薄々感じてて、ストレートに作ろうとしてもそこに辿り着けないから羨ましいし、ポップスメーカーというか、そうなりたいって気持ちはどこかにありますね。

Track3:きみを連れてゆく「いいメロディの真理みたいなものがあるのかなって研究して書き直しました」

―3曲目の「きみを連れてゆく」は今年に入ってから作った曲だそうですが、ポップスとしての完成度が非常に高い曲だと思います。

高橋:「きみを連れてゆく」は自分のプリミティブな洋楽への憧れみたいな、向こうのインディへの憧れみたいなものがすごく強いかなって。

―タイトルからして「Ill Take You Everywhere」だもんね。

高橋:Penfoldもそうだし、キンセラ、アメフト、オーウェンとか、そういうものへの憧れを今に落とし込んだらこうなりましたっていう。ただ、歌はどうしても日本人だから、日本人的なメロディになってると思うんですけど。

―ボーカルはシークレットになっていましたが、あみのずの紺野メイさんなんですよね。

高橋:TwitterでPeople In The Boxの弾き語りをしてる動画をたまたま見て、僕もピープル大好きだし、いい声だなって思って。最近は曲を作るときにボーカリストに当て書きすることが多くて、紺野さんの声だったらこういう曲調がいいと思ったんです。でも、最初に渡したデモに納得がいかなくて。

それで、いろんな曲を聴いて、「これが今の日本のポップスのメロディか」と思ったり、欅坂46の平手ちゃんの「角を曲がる」って曲がすごく良くて、いわゆる「アイドルポップス」とも違うから、こういう切り口もあるんだなって思ったり……。いいメロディのフォーマットというか、真理みたいなものがあるのかなって、頑張って研究して書き直しました。

―「今の日本のポップス」っていう意味だと、ヨルシカとかYOASOBIのことってどう思いますか? 彼らはボーカロイドの出身で、國光くんもデモではボーカロイドを使っているようですが。

高橋:僕がボーカロイドを使っているのはあくまでツールとしてなんですけど、彼らのことは天才だと思いますね。ホントすごいし、いろんなもののミックスの仕方が上手い。雑多なところから拾ってきてるけど、アウトプットの仕方がすごくまとまってて、新しい世代だなって。

バンドって自分のスキルを超えた曲は絶対作れない

―僕からすると、「きみを連れてゆく」は彼らにも通じるものを感じたんですよね。ちなみに、3月の自主企画でキタニタツヤくんと対バンしてたじゃないですか? 彼ももともとボカロPで、ヨルシカのサポートもやっていて、People In The Boxのファンらしいですけど、おそらくはthe cabsのファンでもあるのかなって。

高橋:対バンしたときはリスペクトがすごかったです。でも、すごくありがたいんですけど、当時と今の体感が違い過ぎるんですよね。ぶっちゃけそんなに売れてなかったし、当時の媒体は全然見向きもしてくれなくて……だから、不思議な感覚です。わかんないもんですね、人生って。

―ヨルシカのn-bunaくんもTKさんをリスペクトしていたり、彼らはその世代のバンドを聴いて育って、でも途中でボーカロイドに行って、今はその先でそれぞれの表現をしている人たちで。言ってみれば、國光くんはその中間の存在というか。

高橋:ボカロ文化の人たちと自分との決定的な違いって、演奏における不可能性が彼らにはないところで。バンドって自分のスキルを超えた曲は絶対作れないじゃないですか。the cabsでいうと、3人のスキルの中で最大限のものを作って、それを少しずつ更新していく作業が重要。でも、ボーカロイドとか打ち込みは最初から限界がなくて、なんでもできちゃう。だからこそ、たくさんの選択肢の中から選んでいくセンスが磨かれるんだと思うんです。それはネイティブの世代だからできることで、俺は時代的にギリギリバンド文化の人だから、肌感がちょっと違うというか、ああはなれねえなって。

Track4:動物寓意譚「みんなの演奏が入ったら豪華な曲になっちゃった」

―でも、國光くんの音楽にも不可能性は入っていて、今のメンバーだからこそバンドで再現できるって部分はあると思うから、そういう意味でもやっぱり中間なのかも。裏を返せば、今のボカロ以降の子たちが手にしている大衆性とかポップスとしての力はösterreichも内包していて、「きみを連れてゆく」にはそれを強く感じるし、4曲目の「動物寓意譚」にしてもそうだなって。これはいつ頃作った曲ですか?

高橋:「swandivemori」と同じくらい。リソースとしてあるものを全部使ってみようって気持ちがあって、「swandivemori」も「動物寓意譚」も、ギターとベースとドラムだけでホントは完結するんです。でも、バイオリンの杏さんとピアノのゲコくん(佐藤航)がいるから、「一回全部ブチ込んでみよう」って。「動物寓意譚」はそのリソースありきで作ろうと思った感じです。

―飯田くんと鎌野さんのボーカルの掛け合いと、後半のドラマチックな展開も印象的です。

高橋:歌メロはすごく時間かかったのを覚えてて、「いい加減決めてくれ」ってみんなに言われた曲ですね。この曲作ったとき、なに聴いてたかな……。

マネージャー:アレンジのときに「小林武史みたいなシンセ入れて」って話がありました。

―ミスチルからの影響?

高橋:どちらかというと、リリィ・シュシュのときの小林武史のシンセの入れ方というか。

―YEN TOWN BANDだ。

高橋:最初はそういうテンションだったんですけど、みんなの演奏が入ったら豪華な曲になっちゃったから、そこに引っ張られて、最後のアレンジも豪華になったというか。もうちょっとスッと終わっていく感じにしようと思ってたけど、壮大になって、でもこの感じもいいなって。

CD盤先行収録曲:ずっととおくえ「もともとこの曲は絶対小林くんが合うと思って」

―そうやってプレイヤーの熱量に引っ張られる感じも「バンド」っぽいですね。ただ、CD盤の先行収録曲として収録されている「ずっととおくえ」は唯一打ち込みの曲で、ボーカルにTHE NOVEMBERSの小林祐介くんが参加しているのも驚きました。

高橋:もともとこの曲は絶対小林くんが合うと思っていて、会社の人に「小林くんに歌ってほしいんです」って言ってたら、連絡を取ってくれて。「こういう気持ちでやってほしいんです」って文章を渡したら、快く受けてくれました。

―打ち込みで完結しているのは、イレギュラーなものという捉え方なのでしょうか?

高橋:いや、今後も全然あると思います。バンドミュージックも好きだけど、打ち込みの音楽も好きだし、最終的にいいものになるなら、手段はなんでもいいかなって。

脊髄で書いてる感じなんです。そんなに頭を使わないようにしてるというか

―最後に、歌詞の話も聞きたいんですけど……。

高橋:歌詞の話が一番難しいんですよね(笑)。歌詞はいちばん最後に書くんですけど、制作の中でいちばん楽だし、ホントに全然苦ではなくて。だからこそ、人に説明しづらいというか。

―楽と言っても、ぞんざいに扱っているわけではないということですよね。

高橋:いや、かなりぞんざいですよ(笑)。

―今回の4曲の歌詞を見ると、同じワードが使われていたり、連続性を感じるというか、4曲でひとつの物語を描いているようにも聴こえます。もう一度、ボカロ出身者の名前を出させてもらうと、ヨルシカとかYOASOBIはすごく物語を大切にしていて、風景が浮かぶ感じも含め、österreichと共通する部分があるように思うんですけど、國光くんは作家的にプロットを意識しているわけではない?

高橋:「ストーリーあるんですか?」とか「小説っぽい書き方ですね」ってすごく言われるんですけど、まったく意識してなくて、脊髄で書いてる感じなんです。そんなに頭を使わないようにしてるというか……嫌なんですよね。歌詞に関しては、頭を使ってすごく考えて書くことに対する危機感がめちゃくちゃあるんです。

―さっき「ぞんざいに扱ってる」って言ったのも、つまりは「頭を使って考える」ことを避けるために、あえてやっていることというか。

高橋:そうですね。なにかに規定されることが嫌なんだと思います。歌詞って本来なんでもアリじゃないですか。「なにを書いてもいい」がちょっとでも揺らぐのはすごく危ないなって。

―自分にも聴き手にもフィルターをかけてしまう危険性がありますよね。

高橋:それがすごく嫌なんだと思います。人によって受け取り方って違うから、想像力を削いじゃうのはめちゃくちゃ危ないなって……でも、自分が人の曲を聴くと、「これってどういうことなの?」って、本人に聞きたくなるんですけど(笑)。

曲もてんでバラバラだし、本質的には全然四肢じゃねえなって(笑)。

―じゃあ、僕も遠慮なく『四肢』というタイトルについて聞かせてください。SoundCloudには「幻肢」という曲も上がっていて、関連がありそうですね。

高橋:「幻肢」って言葉は、3年くらい前に自分の中で流行ってたんです。石田くんに「今の自分の状況を一言でたとえたらなんなの?」って言われて、ポロッと「幻肢」って言ったんですよ。「ないのに、あるように痛む」みたいな状況。本来痛まないはずの部位が痛んでる、みたいな感覚だって話をして、それからその言葉がずっと重くて。

でも、もうそうでもないというか。今はなにかやるってなったときに、サポートメンバーも、会社の人も、ライブハウスの人もいて、一緒にやってくれるから、ようやくまた別のベクトルで、自分でやっていけるかもって思って。そういうこともあって、今作はもともと4曲入りだし、『四肢』かなって。いろいろ考えたんですけどね。「ニワトリ絞め、魔法陣置き」とか(笑)。

―それちょいちょい出てくるね(笑)。ダブルミーニングでも受け取れるタイトルというか、「今は周りの人たちの存在が自分の四肢になってくれてる」とも受け取れるし、そういった人たちのおかげで、「自分自身の四肢を取り戻した」とも受け取れるなって。

高橋:でも矛盾があって、ホントの意味の四肢であれば、自分の思い通りに動くはずなんですけど、全然思い通りに動いてはないんですよね。曲もてんでバラバラだし、本質的には全然四肢じゃねえなっていうのもあって(笑)。

まあ、結果として、今回5曲を世に出せたっていう事実がいちばんありがたいし、重いなと思ってて。「やったからには、またやるしかないよね」って、自分に対するプレッシャーにもなるから、そういう意味でも、一枚出せて良かったです。作品性とかは、もうホントに聴く人に任せるというか。

―これまではひとつの作品ごとに「やりました」で終わっていたのが、今回は「やりました。またやります」というところまで思い描けてる。その差は大きいですよね。

高橋:やるしかないんで、やっていこうと思ってます。


österreich 『四肢』
<配信版>
2020年6月26日(金)配信開始
収録曲:
1. swandivemori
2. 映画
3. きみを連れてゆく
4. 動物寓意譚
配信リンク:https://linkco.re/RYFzPuQc

<CD盤>
2020年6月26日(金)公式通販にて受注開始
(※発送は7月中旬以降予定)
収録曲:
1. swandivemori
2. 映画
3. きみを連れてゆく
4. ずっととおくえ [CD盤先行収録曲]
5. 動物寓意譚
価格:2,000円(税別)
購入リンク:https://recomall.theshop.jp/categories/1448839

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