「新型コロナウイルス対策連絡会議」の設立について記者会見する日本野球機構(NPB)の斉藤惇コミッショナー(左)とサッカーJリーグの村井満チェアマン Photo:JIJI

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 3月2日午後、テレビに映し出された記者会見映像を目にして、不思議な感慨に包まれた。

 NPB(日本プロ野球機構)コミッショナーと、Jリーグのチェアマンが、新型コロナウイルス対策において連携をするとのことで、肩を並べて会見を行っている。「その程度のことで驚くのはおかしい」と笑われるだろうが、その程度のことが、これまでほとんどあり得なかったのだ。だから、私にはまるで日本スポーツ界に深く存在していた「ベルリンの壁」が崩壊した瞬間にも見えた。

「Jリーグ百年構想」には
野球が一切入っていない不思議

 多くの識者やスポーツ愛好家たちは、Jリーグが創設時から提唱している日本スポーツの将来ビジョン「Jリーグ百年構想」を支持しているだろう。地域に根差した統合型スポーツクラブの創設と充実を実現する、ジュニア年代からの育成システムを確立するといった展望が記されている。

 サッカーやテニス、スカッシュ、ボートなど、複合的なスポーツ施設を併設し、クラブハウスが地域の社交場にもなっているヨーロッパのスポーツクラブを手本にしたもの。それが日本の各地にできたら、そりゃ楽しいだろうね、人生が充実するだろうね、と感じるビジョンだからだ。

 けれど、私はこの「Jリーグ百年構想」、それにJリーグ各チームが本拠地ですでに創設している統合型スポーツクラブにリアリティーを感じられずに来た。なぜなら、その構想やクラブの中に、野球は一切、入っていないからだ。それだけを見れば、「百年後、日本にはもう野球が存在しないだろう」と予言し、野球なき後のスポーツを展望しているように感じられる。

 実際、1993年のJリーグ発足以来、サッカーと野球の人気は逆転し、ジュニアの競技人口などもサッカーが野球を上回るようになって久しい。1990年時点では、サッカーが日本一の人気スポーツの座を得るとは、ほとんどの人が想像できなかった。同時に、野球人気に陰りが生じ、キャッチボールもできない少年が過半数を占めるなど、誰が本気で想像しただろう。でもいまや、「100年後には野球はなくなっているかもしれない」と言われて、「そうかもね」とうなずく人が少なからずいるのが現実だ。

 それでもまだ、野球少年だった私は、野球の消滅までは信じていない。日本人の心の中には野球への愛が生き続けるだろうし、野球は日本人の思いに強く響く競技性を持っていると信じている。だから、野球抜きに語られる「Jリーグ百年構想」はあまりにも失礼。正視する気になれないというのが、正直な思いだった。

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