絶好調の業務スーパー。人気の秘密は、プライベートブランドにある(写真:業務スーパー提供)

「毎日がお買い得」をコンセプトに全国851店舗(2019年12月現在)を展開する「業務スーパー」。節約の味方の代表格として、存在感を放っている。

運営元である神戸物産の売り上げの9割を占める主力事業で、2019年も好調に推移。同年10月期の同社決算は連結売上高2996億円、純利益120億円と、ともに過去最高を記録した。

人気の理由は安さだけではない。4000点に及ぶ品ぞろえ、とくに全体売り上げの3割を占めるプライベートブランド(PB)商品にはユニークなものが多く、人気を博している。「このPB商品が弊社の利益の多くをまかなっています」と、同社の経営企画部IR・広報課長の花房篤史さんは話す。

ではいかにして、バラエティ豊かなPB商品が生まれているのか。取材をすると、次々と独自の仕組みが見えてきた。

「豆腐屋で豆腐だけを作るな」


店舗に並ぶ国内PB商品は、21の自社グループ工場で作られている(写真:業務スーパー提供)

まず、同社の大きな特徴は、独自の「製販一体体制」にある。製造・流通・販売と一貫して自社で手がけているため、中間業者を通さない分コストカットができる。

また、国内で製造するPB商品は21の自社グループ工場で作られているのだが、ここでの“オリジナリティと低価格を両立させる工夫”が興味深い。

例えば、「厚焼玉子」(137円税抜)は、卵に豆乳を加えることで材料費を節約しつつ、ふわふわ感を出すことに成功。「Ca鮭フレーク」(185円税抜)も、鮭の骨を一緒に混ぜることで材料費や廃棄費用を抑えると同時に、カルシウムがとれるという付加価値を加えた。

「自社グループ工場という利点を生かし、あえて加工度合いの高い商品を作っています。ペットボトル入りの水のように加工度合いの低いものは作りません」と、花房さんは説明する。

買収し、グループ化した工場の設備について驚きの活用法を編み出し、インパクトの強い商品を生み出した例も。


代表的なPB商品。牛乳の製造ラインを活用して誕生。牛乳パックにめいっぱい羊羹が納められている

それがテレビなどでもおなじみの「牛乳パックデザート」(178〜298円税抜)や「リッチチーズケーキ」(348円税抜)だ。前者は牛乳の、後者は豆腐の製造ラインを使って作られており、パッケージは牛乳や豆腐そのもの。いずれも女性開発担当者が発想したという。

とくに牛乳パックデザートは、「1リットルのようかんや杏仁豆腐をいったい誰が買うのか」と社内で議論になったそうだが、いざ発売してみたらYouTubeなどで取り上げられ大ヒット。

「とりあえずやってみなければわからないという風土がある」と、同社商品開発部部長の竹下厚二さんは話す。同社には、「豆腐屋で豆腐だけを作るな」という創業者・沼田昭二さんの言葉が浸透しており、13人の開発担当者たちは、安さだけではない驚きのある商品を意識して日々開発にあたっているという。

原材料も生産し、無駄なく使い切る


直営・契約の養鶏場で育てた鶏肉でPB商品を製造(写真:業務スーパー提供)

同社が原材料の生産も行っているのはご存じだろうか。群馬県と岡山県に直営・契約の養鶏場を持っているのだ。ここで育てた鶏を近くの自社グループ工場でさばいて加工し、当日か遅くとも翌日には一部店舗に届けている。

このチルド肉が「上州高原どり」(東日本エリア限定)と「吉備高原どり」(西日本エリア限定)のシリーズだ。例えばもも肉なら2kgで1500円(税抜)。新鮮な国産鶏を安価で買えると人気となっている。


新鮮なチルドの鶏肉も人気。写真は「吉備高原どり」(写真:業務スーパー提供)

さらにこの養鶏場経由で生産される原材料は、無駄なく使い切る。鶏肉をチキンカツなどさまざまな商品に加工するのはもちろん、鶏ガラもウインナーなどに混ぜている。定番人気の「徳用ウインナー」(1kg、460円税抜)が安い秘密はこうした製造システムにもあるのだ。

これら国内PB商品のほか、もう1つ大きなウリとなっているのが、輸入品だ。輸入先は約40カ国に上り、豊富なハラール商品など、ほかでは見つからない商品が多々ある。海外の約350の協力工場から商品を直接仕入れる形で中間マージンをカット。また、大きなコンテナにめいっぱい商品を積むことで輸送コストを下げるなどして低価格を実現している。

売り場を持っていることも強みだ。一般的なスーパーが個性的な商品の投入や大量輸入を行うと売れ残るリスクがあるが、同社は851店舗もの売り場があるため注文予測が立ち、過剰在庫や廃棄で悩むことが少ない。

ほかにも、効率化やコスト削減の話は尽きない。例えば、広告宣伝はウェブちらしのみ。製造ラインの自動化も早い時期から積極的に行ってきた。2016年に埼玉県に作ったパン工場でも、こねたパンのタネを型に入れる工程を自動化したという。

商品陳列の工夫も面白い。冷凍食品の什器と壁に並ぶ什器は商品を極力多く並べられるよう大きめに作ってあり、並びきらないものは段ボールのまま陳列。最小限の什器でコスト削減と作業効率アップを図っている。

店舗の立地もコスト重視で選ぶ。確かに店舗はどこも立地がいいとは言えない印象。それでも繁盛するのは、やはりPB商品が充実しているからか。

実際、筆者は「プロ好みのラップ30cm」(247円税抜)の機能性が気に入って以来、「ほかにもお宝があるかも」という期待から、若干不便な場所にあるにもかかわらず業務スーパーをチェックするようになった。

客層幅の拡大により売れ始めたPBも


店内に総菜や弁当を提供する「馳走菜」の展開も強化予定(写真:業務スーパー提供)

同社は1981年、兵庫県加古川市に開店した食品スーパー「フレッシュ石守」から事業をスタートした。その後、中国に自社工場を作り漬物やわさびなど日本食の製造を行い、国内外へ卸すように。この中で製造や商社的なノウハウ、製販一体のビジネスモデルを学んだ。

こうした経験を生かし、2000年に「業務スーパー」1号店をオープン。ロイヤルティーを仕入れの1%に抑えるなどスーパーの運営経験がなくても参入しやすいフランチャイズ体制を作り、出店を加速させていった。

同社が国内PB商品を手がけるようになったのは、2008年からだ。当時、中国の毒入り餃子事件が起きたことなどを受け、自ら商品を作って安全を担保しようという機運が社内で高まったことが契機になったという。リーマンショックが起きた時期でもあり、経営が傾いた食品工場を次々とグループ化していく形で、PB商品の開発を強化していったという。

客足が増え始めたのは、消費税が8%となった2014年頃。「牛乳パックデザート」など特徴的な商品を売り出したのもこの頃で、並行してSNSやメディアでも取り上げられる機会が増え認知度が上がっていった。


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当初、業者と一般客は半々だったが、今は一般客が9割を占めるように。とくに2019年はメディア露出の増加やタピオカ商品がヒットした影響により、客層が広がり、「輸入品では欧州の冷凍スイーツ類や有機ジャムなど、“業務スーパーにしてはさほど安くないがクオリティーの高い商品”も売れた」(花房さん)という。

客層の拡大を受け、今後は国内PB商品の品ぞろえをさらに拡充する方針だ。昨年発売した機能性食品「ファイバーゼリー(グレープフルーツ味)」(98円税抜)が健闘していることもあり、2017年に販売終了となったプロテインドリンクのリニューアル復活も検討しているという。このほか、ヴィーガン向け商品なども年内に発売するとのこと。健康志向や食にこだわりのある消費者も取り込むことができるのか、注目だ。

例年、国内の新PB商品は年間50商品を目標に投入を行う。目下の課題は、PB商品人気による欠品への対応で、工場設備や物流拠点の強化などを進めているという。また、今期は店内で総菜や弁当を扱う「馳走菜」の展開も加速させるという。業務スーパーが、消費者の高まる期待にどう答え続けていくのか、まだまだ目が離せない。