新幹線「あおば」「あさひ」が消えたそれぞれの事情 残り2往復「はやて」も消滅寸前?
新幹線の列車名20種類のうち、現在使われていないのは東北新幹線の「あおば」と上越新幹線の「あさひ」です。このふたつの列車名が消えた背景には、長野新幹線(北陸新幹線)の開業やJR東日本の方針変更などがありました。
通過駅の有無で分けていた新幹線の列車名
新幹線で使われた列車名は、2020年1月6日時点で20個(「Max○○」など補助的な名称を除く)。そのほとんどはデビューからいまに至るまで運行中ですが、東北新幹線「あおば」と上越新幹線「あさひ」は20年ほど前に廃止されました。上越新幹線「とき」も一時的に姿を消したことがあります。これらの列車名が消えた背景には、列車名の「分け方」に対する考え方の変化がありました。
かつて「あおば」「あさひ」で使われていた200系(画像:写真AC)。
1982(昭和57)年に東北新幹線が開業した際、途中駅を一部通過する速達タイプの列車は「やまびこ」、途中すべての駅に停車する各停タイプは「あおば」と命名されました。ただし「あおば」の運転区間はおもに上野〜仙台間で、仙台〜盛岡間は「やまびこ」が各駅に停車することで対応しています。
東北新幹線とほぼ同じころに開業した上越新幹線の列車は、速達タイプが「あさひ」、各停タイプが「とき」に。どちらの新幹線も通過駅の有無で列車名を分けていたわけです。
しかし1995(平成7)年、JR東日本は東北新幹線で「なすの」の運転を始めました。これは「あおば」のうち東京〜那須塩原間だけ走っていた列車の名前を変えたもの。「あおば」の名前の由来だった青葉城がある仙台を通らないため、那須塩原駅(栃木県那須塩原市)の北西側に広がる扇状地(那須野原)にちなんだ名前に付け直したといえます。
「行き先別」に変えたものの問題が発生
そして長野新幹線(北陸新幹線 高崎〜長野間)が開業した1997(平成9)年、JR東日本は同社が運営する新幹線の列車名を、通過駅の有無ではなく「行き先」によって分けることにしました。
「あさひ」消滅のきっかけになった東京〜長野間の「あさま」(2011年11月、恵 知仁撮影)。
東北新幹線は、東京〜仙台・盛岡間を走る列車が「やまびこ」に、東京〜那須塩原間の列車が「なすの」に統一され、これにより「あおば」がなくなりました。上越新幹線は、東京・越後湯沢〜新潟間の列車が「あさひ」に、東京〜高崎・越後湯沢間の列車が「たにがわ」に統一され、「とき」が消滅しました。
新幹線の列車名が廃止されたのは、これが初めて。当時のJR東日本は「いろいろな名前があって分かりにくいと利用者から苦情が寄せられていた」と説明していました(1997年7月26日付け朝日新聞東京朝刊)。できるだけ行き先ごとに統一することで、分かりやすくしようとしたのです。
ただ、列車名が整理された1997(平成9)年には、長野新幹線(北陸新幹線・高崎〜長野間)が開業。東京〜長野間の列車は「あさま」という名前が付けられました。
ここで問題が発生。長野新幹線「あさま」と上越新幹線「あさひ」は一字違いで、しかも東京〜高崎間は同じ線路を走ります。「間違えて乗車する利用客が後を絶たず、苦情が寄せられていた」といいます(2002年8月1日付け朝日新聞朝刊)。
「あさひ」の次に消えるのは?
それだけではありません。名前が廃止された「とき」は1962(昭和37)年、佐渡島に生息している鳥「トキ」にちなみ、上野〜新潟間を結ぶ在来線特急としてデビューした列車名を引き継いだものです。列車の「とき」が消滅したころ、佐渡では日本生まれのトキが絶滅の危機に瀕(ひん)していた一方、中国からもらい受けたトキの人工繁殖に成功し、新潟県では「とき」の復活を求める声が高まっていました。
現在の「はやて」でおもに使われているE5系(2011年11月、恵 知仁撮影)。
こうして営業上の課題と地元からの要望が相まって、JR東日本は2002(平成14)年のダイヤ改正で「あさひ」を「とき」に改称。これにより「あさひ」が消滅したのです。
それから20年近くが経過した現在、新幹線で廃止された列車名はありません。しかし、東北・北海道新幹線「はやて」は消滅の危機に瀕しています。
「はやて」は2002(平成14)年の東北新幹線・盛岡〜八戸間の延伸開業にあわせ、東京〜八戸間の速達列車としてデビュー。2010(平成22)年には八戸〜新青森間の延伸開業で、運転区間も東京〜新青森間に拡大しています。その一方で、2005(平成17)年には東京〜盛岡間の「やまびこ」のうち停車駅の少ない列車を全車指定席にして「はやて」に改称しており、「行き先別」の方針が少し崩れた格好になっていました。
2011(平成23)年には、東京〜新青森間を結ぶ速達列車「はやぶさ」がデビュー。「はやて」は「はやぶさ」に統合される形で徐々に数を減らし、定期列車は東北・北海道新幹線の盛岡・新青森〜新函館北斗間の2往復だけになりました。将来的には「あさひ」に続いて消滅することになるのでしょうか。