JR九州の新しい観光列車に、廃車になった新幹線の座席を再利用する案が浮上している(写真:tetsuo1338/PIXTA)

興味深い情報が飛び込んできた。JR九州が2020年秋に運行開始する観光列車「36ぷらす3」の座席に新幹線「800系」の座席が再利用される可能性があるのだ。

「36ぷらす3」は、JR九州の観光列車デザインを一手に引き受けてきた水戸岡鋭治氏が、今回もデザインを担当する。その車体は、1990年代に特急「つばめ」として活躍した「787系」がベースとなる。外観については11月21日にデザインが公開されたが、内装については、ビュッフェが設けられること以外は未発表。JR九州広報部は、「詳細が決まり次第お知らせします」(JR九州)としかコメントしていない。

廃車の800系座席を再利用?

しかし、気になる内装については、関係者によると客室内の座席を新造するという案のほかに、2016年4月14日の熊本地震で脱線し、廃車となった新幹線800系の座席を再利用する案が出ている。


JR九州が2020年秋から運行を開始する「36ぷらす3」のロゴと車両のイメージ(画像:JR九州)

熊本地震は熊本県益城町で震度7を観測。地震発生時、当該車両は回送列車として熊本駅から車両基地に向かう途中だった。6両すべてが脱線し、そのショックで台車が破損、車体に微妙なゆがみも生じた。製造から12年程度しか経過していなかったが、安全性を考慮して、廃車とした。

とはいえ、客室の状態には特段の問題はない。とくに800系の座席はJR他社の新幹線車両とは異なり、背面や手すりといったフレーム部分に不燃性の木材が使用されている。見た目が和風となり、デザイン性に優れるが、木材を選んだ理由はデザイン面だけではない。決め手となったのは「軽量化」だ。

九州新幹線には35パーミルの急勾配区間があり、登りきるために全車両にモーターが搭載されている。また、東海道・山陽新幹線の車両は、終着駅到着後の折り返し運転に際し、スタッフが手作業で座席の向きを変えているが、800系の座席には自動回転装置が設置されており、乗務員のスイッチ操作1つで、自動で回転できるようになっている。これらの理由から800系の車両の軸重はどんどん重くなってしまう。

【2019年12月9日12時30分追記】記事初出時、東海道・山陽新幹線の折り返し運転に際する記述に誤りがありましたので、上記のように修正しました。


九州新幹線800系の座席(記者撮影)

そのため、ほかの部品を軽量化して車両の重さを一定内に収める必要があった。「車内でいちばんたくさんあるものは座席。一つひとつの座席の重さを少しずつ軽くすれば、全体の軽量化につながるはず」と、800系開発当時、運輸部長を務めていたJR九州の青柳俊彦社長が振り返る。

この結果、採用されたのがプライウッドと呼ばれる合板だ。800系のデザイナーでもある水戸岡氏が「いい素材を使うとみんな丁寧に扱ってくれる」と言うとおり、「みなさんから大事に使っていただいています」(青柳社長)。キャリーバッグなどによる引っかき傷がつくこともあるが、丁寧にメンテナンスを施して、美しい状態を保っている。

新幹線700系のアルミも再活用

車両は廃車になったが、座席を捨ててしまうのはあまりにもったいない。787系は九州新幹線・鹿児島中央―新八代間が開業すると、特急「リレーつばめ」に生まれ変わり、新八代―博多間で新幹線の乗客を輸送した。その800系の座席が36ぷらす3に使われるとしたら、これはもう縁としかいいようがない。

水戸岡氏の新たな座席デザインを見てみたい気もするが、800系の座席の再利用には環境配慮という大義名分がある。多少のコスト削減効果もありそうだ。再利用といえども、水戸岡氏のことだから、座席にあっと驚くような改造を施すかもしれない。デザインやコストの観点からどちらが選ばれるか、興味津々だ。

廃車になった新幹線の部品再利用という点では、JR東海もユニークな取り組みを行う。2020年春までに東海道新幹線から引退する新幹線「700系」の車体に使用されていたアルミを再活用し、同年初夏に東京駅八重洲北口にオープンする専門店街「東京ギフトパレット」と周辺のコンコースの柱や天井などに使用するのだ。

「東海道新幹線ならではの上質感のある空間を演出したい」というのが、JR東海のコンセプト。アルミを使って、桜の花びらや「のれん」をイメージした装飾を施すという。

北陸新幹線の部品も気になるところだ。10月に日本を襲った台風19号の影響で千曲川が氾濫し、北陸新幹線の長野新幹線車両センターが冠水した。現地の浸水が解消された15日から点検を開始したところ、車両基地内に留置されていたJR東日本の新幹線E7系8編成と、JR西日本の新幹線W7系2編成の計10編成が客室内の床下まで水浸しになった。

調査の結果、修理は困難として廃車に。北陸新幹線・長野―金沢間の開業は2015年で、デビューからわずか数年しか走っていないのE7系とW7系が廃車とは、熊本地震で廃車になった800系以上にもったいない。800系のように座席を再利用してもよいのではと思えるが、客室内の状況を知る関係者によれば、「氾濫した水は必ずしもきれいではなく臭いももきつい。清掃すれば元に戻るというレベルではない」。

高価なグランクラスのシートも本革やウールを使っており、汚れに決して強いとはいえず、廃棄せざるをえないという。

せめて保存はできないか…

床下にはさまざまな電気機器が設置され、一度水に浸かった部品を再利用するのはリスクが高すぎる。台車もさびがひどいという。車両構体は再利用できるのではないかと思ったが、「新幹線の車両は外板と骨組みを一体化したダブルスキン構造を用いており、構体の間には隙間が多い。この隙間に汚水が入ってしまうと除去することはできない」(前述の関係者)。

結局、再利用が可能だとしても、車体の上部に設置されているLED表示装置やパンタグラフといった一部の部品に限られる。そもそも、車両の製造は車両基地ではなく、遠く離れた場所にある車両メーカーが行うため、取り外して新品同様に戻すコストや輸送コストを考えれば大したコスト削減にはつながらず、新しい部品を使うほうが手間がかからないという可能性もある。

それでも、これだけ人気のある新幹線車両を廃車するのは残念だ。車両の先頭部だけでも公園や幼稚園などで保存できれば、地域の人気者になることは間違いないと思われるのだが、いかがだろうか。