D2C(direct-to-consumer:直販)ブランドが大人気だ。エージェンシー側はD2Cの仕事を競うだけでなく、D2Cのニーズに特化したエージェンシーを作るところも出てきている。

そして、D2Cブランドやデジタルネイティブブランド側も成長するにつれて、社内チームのほかにエージェンシーと組むところが出てきている。

しかし、D2Cの創業者は自分でやりたがる傾向があり、社内チームからエージェンシーへの移行は傍目ほど簡単ではない。従来型のエージェンシーは、D2Cとの仕事はやっかいな頭痛の種になりかねないことに気づいてきている。

キンバ・グループ(The KIMBA Group)の共同創業者で、飲食料品、健康、男性アパレルなどのD2Cクライアントと仕事をしてきたレベッカ・ローゾフ氏は、「スタートアップの創業者の一部は、文字通りウェブサイトのGoogle AnalyticsをiPhoneで見て15分おきに再読み込みしている」とメールで教えてくれた。「そして、1日のトラフィックがすぐに増えていないとエージェンシーパートナーを非難するのだ」。

アナリティクスに目を光らせているのはそんなに驚くことではない。D2Cブランドは何においてもパフォーマンスマーケティングを実施するのが通常であり、その場合、マーケティングに使うお金と販売とを結びつけられるので、ブランド構築に支出する必要性がD2Cブランドにはなかなか理解されないことがある。D2Cに特化していない従来型のエージェンシーほど苦しい。エージェンシー側の話によると、自らマーケティングすることに慣れているばかりでなく、長期的な活動よりもFacebookやインスタグラム(Instagram)を重視するD2Cブランドもあるのだ。

この記事のためにインタビューしたエージェンシー幹部たちが教えてくれたのは、従来型マーケティングの価値を理解しない、自分たちでマーケティングすることに慣れている、短期で考える、通常と異なる支払い方法を要求する、すべて社内でやると主張してくるといったD2Cブランドの姿だけでない。エージェンシーと組む価値をわかってもらおうと努めているが、D2Cブランドはさまざまなパフォーマンスマーケティングエージェンシーにひどい目にあわされているという話もしてくれた。短期的にお金を得るために低い料金でD2Cの契約を勝ち取ってきたパフォーマンスマーケティングエージェンシーのせいで、D2Cブランドの信頼を得ることが難しくなっているのだ。

匿名のパフォーマンスマーケティング幹部は、「できないことを約束するひどい営業があまりに多く、エージェンシー側全般に対するブランドからの信頼が損なわれている」としたうえで、D2Cブランドは「エージェンシーの採用とリファラルの活用をもっとうまくできるようになる」必要があると語った。

短期契約を狙うエージェンシーによって、同業他社が苦しんでいる



エージェンシーとD2Cの専門家たちによると、手っ取り早くもうけようと待ち構えていたパフォーマンスマーケティングエージェンシーにひどい目にあわされたとの理由で、一部のD2Cブランドは従来型エージェンシーとの仕事も躊躇している。D2Cストラテジストのマルコ・マランディズ氏は、クライアントが短期のみのエージェンシーと組んだ結果、エージェンシーをあまり信頼しなくなるのを見てきたと語った。「価値の提供にフォーカスするのではなく、手っ取り早く大金が手に入る短期契約が中心のところだ」と、マランディズ氏。「その影響はほかのエージェンシーに波及しており(中略)ほかのエージェンシーを推薦しにくくなっている」と同氏は語った。

それもこれも、D2Cブランドの予算を手に入れようと近年、業界に参入しているパフォーマンスエージェンシーの興隆の結果だ。D2C関係者たちによると、そうしたエージェンシーのなかには、D2Cブランドとの契約を勝ち取るために市場平均よりもサービス料金を下げているところがある。

「料金を大幅に下げて、月決めで契約しようとしているエージェンシーがあきらかにいる」と、ローゾフ氏はいう。「そもそも月決めは危険信号だ。ブランドと組み、ビジネスニーズを把握してマーケティング目標を定めて実行するまでを1カ月以内にやる方法はない」。

デューデリジェンスの欠如



市場にあるこうした動向のために、エージェンシー(特に時間を必要とする従来型のエージェンシー)がD2Cブランドにできることの価値を証明するのが非常に難しくなっている。D2Cブランドは普通、大きなブランドのようにはエージェンシーを精査しないからだ。

D2Cブランドとエージェンシーが短期を重視するなら、エージェンシーの採用や契約をまとめる際のデューデリジェンス(投資やM&Aなどの取引の前に行われるの調査活動)は不十分なものになるだろうし、それがほかにも影響するだろう。大手ブランドにはエージェンシーをチェックする調達部門があるが、あるエージェンシー業界筋によるとD2Cブランドにはそれがない。調達部門を作るのではなく、D2Cブランドがよいエージェントのリファラルを活用して有力なところを把握するのが解決策になると、この業界筋は考えている。

マランディズ氏は「身元確認がきちんとされてない」と語る。「それにより有望な企業がほかのエージェンシーを信頼するのが難しくなっている」。

短期的な発想は、長期的にマイナス



エージェンシー業界筋たちによると、エージェンシーのサービスの有効性を本当にテストするにはそれなりの時間が必要になるが、D2Cブランドがそうした長期的な仕事をエージェンシーとやりたがらないところに、D2Cブランドの短期的発想とデューデリジェンスの欠如があらわれているという。D2Cブランドブランドは通常、確立されたブランドよりも販売指向が強い。どんな市場を狙うにせよ、本当に破壊的改革をするには早急に指数関数的な成長が必要なためだ。そのためエージェンシーがすぐに結果を出せないと、エージェンシーのサービスに資金を使うことが不安になることがある。

「獲得とリピート購入の世界からやってきたところに、会社の長期的な健全性のため、(問題を引き起こすかもしれない)短期主義の先に目を向ける必要があるといわれたらどうか」と、アメリカ広告業協会(4A’s)のエージェンシーマネジメント担当シニアバイスプレジデント、マット・カシンドーフ氏は語った。D2Cクライアントとの問題については、4A’sもエージェンシーから話を聞いているという。

問題はすぐに結果が出るかだけではない。D2Cブランドのなかには、販売重視で販売指向のマーケティングが当たり前になり、ブランドを構築する従来のマーケティングの価値がわからないところがある。「ブランド構築に使われるお金の分だけ、販売指向のマーケティングに使えたお金は減る」と、D2Cブランドとの難しさについてエージェンシーから聞いたことのある検索コンサルタントは語った。

しかし、一般論だが、顧客獲得に取り組むだけではD2Cブランドも長期的にはうまくいかず、従来型のエージェンシーはマーケティングミックスにテレビやインターネット配信(Over the top:OTT)を加えるなど、マーケティングを広げるようにD2Cブランドを説得する必要がある。「D2Cスタートアップは例外なく創造性の限界に達し、固定観念にとらわれて、マーケティングを客観的に新しくできなくなる」と、ローゾフ氏はいう。「そのようなブランドは、マーケティングのトレンド、ソーシャルメディアプラットフォーム、アドテクなど新しいものについていく社内リソースももっていない。コアビジネスでも専門分野でもないからだ」。

すべてを社内でやる



とはいえ、コントロール維持のため社内のマーケティング機能を拡充していくD2Cもあるだろう。エージェンシー側の情報筋によると、社内の販売志向マーケティングでブランドを構築できたD2Cブランドは無数にある。そうしたところはすべてのマーケティングを社内でできると考えるので、エージェンシーが自らの価値を証明するのは難しい。

一方で、パフォーマンスマーケティングエージェンシーのある幹部によると、すでにエージェンシーと仕事をしていながら、そうした機能は社内で運営していると主張するD2Cブランドもいる。この幹部が仕事をしているD2Cクライアントがそうなのだ。D2Cブランドがすべて社内でやっていると主張するのは、そうした機能があることが理由で、プロクター・ アンド・ギャンブル(The Procter & Gamble)やユニリーバ(Unilever)のようなところに買われたり売られたりする可能性があるからだ。

「D2Cブランドがエージェンシーと組んでいながら組んでいないと主張するのは、大きなテーマだ」と、この幹部。「そうするだけの理由がある。D2Cブランドが大きなブランドや持株会社に買収される際、そうした機能、つまりエージェンシー機能が決め手になることが多い。持株会社や買収側に、その機能に関する知識を共有できるというわけだ」と語った。

問題はエージェンシーが仕事の功績を認められるかどうかにとどまらない。D2Cブランドは端的に考え方がエージェンシーと違うので、両者をひとつにするのは難しいということになるおそれがある。

D2Cブランドとの難しさについてエージェンシー側から聞いている検索コンサルタントは、「路線がまったく違っており、文化的に合わないだろう」と語った。

Kristina Monllos (原文 / 訳:ガリレオ)