お口の中の細菌は万病のもと 『口腔内フローラ』の重要性を説く!

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執筆:吉村 佑奈(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ


腸内細菌が形成する

「腸内フローラ」

はすでによく知られるようになりましたが、お口の中の

「口腔内フローラ」

についてはいかがでしょうか?

「齢」という漢字には「歯」という字が含まれているように、歯の健康は長寿に欠かせない要素で、全身の健康にも関わっています。

口腔内フローラの知識を得て適切なケアを実践し、健康維持に役立てましょう。

口腔内フローラとは

口の中には、およそ700種類もの細菌が存在しているといわれています。

これは生後に外部から入ってきた菌が口の中に定着したもので、こうした口腔内の細菌の集まりを「口腔内フローラ(口腔細菌叢)」と呼びます。

おもな生息場所は歯垢(プラーク)ですが、その他にも舌苔(ぜったい)や唾液の中に存在し、それぞれに異なる菌叢を形成しています。

私たちが普段食べるものにも細菌は含まれますが、口腔フローラとして定着できるのは歯や口腔粘膜にくっつくことができる細菌のみです。

子どものときに定着した細菌群がバイオフィルムを形成し、その後に外からやってくる細菌の定着を防いでいます。

口腔内フローラの役割とは?

唾液が口腔内を清潔に保つ自浄作用を持っていることはご存知でしょう。

唾液には抗菌物質や抗体などが含まれ、口の中に入ってくる細菌の発育を抑える働きをしています。

ですから、口腔内フローラを形成している細菌は、こうした物質に対する抵抗力を備え、うまく共存できている細菌であるといえます。

口腔内の常在菌のうち、とくにレンサ球菌を中心とした口腔内フローラが維持されていると、歯周病などの口腔疾患を防ぐことができるとされています。

つまり、宿主である私たちの健康にも寄与してくれるという意味です。

ところが適切な口腔ケアを怠ると、歯周病菌などが増殖し、害を及ぼすようになります。

口腔内フローラに存在する細菌は、個々の毒性は強くありません。

しかし、口腔ケアが不十分だと、プラークの上に外部からの細菌が定着できるようになり、病原性プラークに変化してしまいます。

そうすると、さまざまな細菌が複合的に作用して口腔環境が徐々に悪化し、虫歯や歯肉炎、歯周病などがゆっくりと進行していきます。

口腔感染症と全身疾患との関わり

こうした虫歯や歯周病などの口腔感染症は、腎臓病や糖尿病、動脈硬化や心臓血管障害といった全身疾患とも深く関わっていることが近年の研究からわかってきています。

最近では、食道がんと歯周病との関連を指摘する研究も発表されています。

というのも、私たちは毎日食べ物や飲み物と一緒に多くの口腔細菌を飲み込んでおり、それらの細菌は腸にも到達して腸内フローラのバランスにも影響を及ぼすのです。

どんなものを口にするかで私たちの免疫機能や健康は大きく左右されますが、それゆえに、消化器官の入り口である口腔の環境は、全身の健康に関わる大きな要因であるといえるでしょう。

一方、加齢などによる免疫力の低下など、その人自身の体調が歯周病などの口腔感染症の因子となっている点も見逃せません。

つまり、

口腔内フローラと全身の状態は相互に深く関係している

のです。

口腔内フローラを健全に保つには?

平均寿命がますます長くなっている現代において、健康寿命を延ばすためにも口腔の健康はとても重要です。

そのために日々できる口腔ケアを挙げてみます。

毎日のセルフケア

できれば毎食後、丁寧な歯みがきを習慣づけましょう。
ポイントは力を入れすぎず、歯ブラシを小刻みに動かすことです。
歯間フロスの活用もお勧めします。

定期的な歯科検診

歯石やプラークの除去など、普段自分ではできない専門的な口腔ケアを定期的に受けるようにしましょう。
虫歯の有無をチェックする機会にもなり、見つかれば早期治療につながりますので一石二鳥です。

唾液の分泌を促す

唾液は食べ物をよく噛む、人とおしゃべりする…などによって分泌が促されます。
加齢にともない唾液の分泌量は減少しますので、中高年の方はとくにこうした点を意識して行うとよいでしょう。


最近では、口腔内フローラを良好に保つことに着目した機能性表示食品などもあるようです。

また、病院における口腔ケアも、これまでは患者のQOL(生活の質)向上の一環として捉えられてきましたが、在院日数の短縮や使用する薬を減らす、などの効果があるという報告もみられます。

全身の健康と密接に関連している口腔内フローラは、生命の維持に直結していると言っても過言ではありません。

ぜひ今日から意識的にケアをしていきましょう。


<執筆者プロフィール>
吉村 佑奈(よしむら・ゆうな)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。某病院での看護業務を経て、現在は産業保健(働く人の健康管理)を担当

<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供