郊外のロードサイドに出店するブロンコビリー。週末には駐車場がいっぱいになる(撮影:今井康一)

「お席にご案内する前に、新商品の紹介をさせてください」。6月初旬、都内にあるステーキハウス「ブロンコビリー」の店舗を訪れたところ、ホール案内係の若い男性スタッフがいきなりそう切り出した。このスタッフが強調したのは、「ウルグアイ産牛肉」の魅力だった。

説明が終わってようやく席に着くと、通常のグランドメニューのほかに、ウルグアイ牛のステーキをアピールするシートも置かれていた。ブロンコビリーが目下、ウルグアイ牛の展開に力を入れていることは明白だった。

19年ぶりに輸入解禁

1978年に名古屋市で「ブロンコ」として発祥したブロンコビリーは、炭で焼いたステーキや季節ごとのサラダバーなどを看板商品に、高級路線を打ち出してきた。5月20日時点で国内に136店舗を構え、地盤の中部地区を中心に現在は関東圏や関西圏へも出店を進める。

このブロンコビリーは5月27日、南米・ウルグアイ産の牛肉を使用した商品の販売を開始した。ウルグアイ牛を使用するのは、国内の外食チェーンでは初めて。2000年に口蹄疫が発生して以来、輸入が禁止されていたウルグアイ牛だが、今年に入り19年ぶりに輸入が解禁されたため、ブロンコビリーが真っ先に取り扱いを始めた。

「これまでたくさん牛肉を食べ比べてきたが、ウルグアイ産は赤身がギュッと詰まっていて驚いた」。ブロンコビリーの竹市克弘社長は、そう語る。

日本から見てちょうど地球の裏側、南アメリカ大陸に位置するウルグアイは、歴史的にスペインやイタリアからの移民が多く、人口に占める白人の比率が88%に上る。牛肉の消費がさかんで、1人当たりの年間消費量は58.2キログラムと日本人の約10倍だ。

日本で消費量の多い北アメリカやカナダの牛は、短期間で身体を大きくするため「フィードロット」と呼ばれる肥育場で柵に囲い込まれ、運動を制限される。肥育ホルモン剤を投与され、穀物飼料を食べて育つ。そうした北米の牛と比べると、ウルグアイの牛1頭から食肉になる重量は3割ほど少ないという。


2カ月かけて冷蔵船で熟成されたウルグアイ産牛肉を持つ竹市克弘社長(右)(撮影:尾形文繁)

国土の88%が草原というウルグアイでは、牛は放牧されて牧草を食べて育つ。日本と同じ温暖湿潤気候だが、夏の平均気温は22〜23℃で、北海道の札幌や函館と同程度の冷涼な気候だ。エサとなる「ライグラス」という牧草の栄養価が高く、それを食べて育った牛の品質もよい。

放牧されて育つため運動量は比較的多く、そのため赤身の部分が多い。低脂質で高タンパク質の赤身肉は、昨今の健康志向の高まりで人気が上昇している。ただ、北アメリカ産などと比べてやや固いのも事実で、実際に来店して食べた高齢の顧客からは、そうした率直な意見も寄せられているようだ。

安価というメリット

その一方で、価格面でのメリットは大きい。今回、ブロンコビリーが発売したウルグアイ牛のサーロインステーキは、150グラム1598円(税込み、以下同)から。5センチほどの厚切りで、炭焼きで提供される。オーストラリアなど他国産を使用したリブロースステーキは150グラム2138円からとなっており、ウルグアイ牛はそれより500円程度安い。

同社の古田光浩取締役は「オーストラリア産と比べて関税は12%ほど高いが、それを加味してもウルグアイ牛の仕入れ価格は安い。伝統的に牛肉を食べてきた国なので、低コストで生産できる仕組みを構築しているようだ」と話す。カナダやニュージーランド産牛肉はTPP発効で関税が低くなったが、その分需要が殺到し、結果的に「トータルの仕入れ価格は、今までとあまり変わらない」(ほかの外食チェーン関係者)という。

発売から1週間を経て、ウルグアイ牛の売れ行きはまずまずだという。それにしても、2月に日本の農林水産省がウルグアイ牛の処理施設を指定し、そこからわずか3カ月で販売を開始するのはスピード感がある。

5月20日に記者発表会を控えながら、冷蔵船で50〜60日熟成されて日本に到着した牛肉を社長など会社幹部が試食したのは、わずか9日前の5月11日のこと。「企画が先行していたが、もし試食してダメならば商品化しない」(竹市社長)と、いわば“賭け”のようなスケジュールで進行していた。

そこまでして、ウルグアイ牛の商品化を「急いだ」のはなぜか。

背景には、既存店売上高の落ち込みがある。ブロンコビリーは2018年10月から既存店売上高が6カ月連続で前年同月を割っている。2019年に入ってからはより深刻で、毎月8〜13%の減収が続く。同社は当初、今2019年12月期について営業利益27.3億円(前期比5.1%増)の増益計画だったが、4月の時点で早々に下方修正し、同24.3億円(前期比6.4%減)の減益見通しとした。


ブロンコビリーは近年、急速に店舗網を拡大してきた。2014年末の85店から、97店、108店、119店、135店と毎年1割以上のペースで店舗を増やした。全店を直営で運営するため、採用をかなり強化している。とはいえ新店をオープンすれば、既存店のスタッフを新店に回すことになる。その結果、既存店は経験の浅いスタッフが大半になり、接客やオペレーションの質が低下した。

加えて、2017年9月末に導入した平日限定の割安なランチメニューの効果が一巡。「肉ブーム」を受け、立ち食いステーキ業態などとの競争激化も逆風となった。

先陣を切った産地開拓

このような厳しい環境の中で、ブロンコビリーは既存店のテコ入れ策としてウルグアイ牛の投入を急いだ。ある競合のチェーンは、「話題になっているので調査・検討をしているが、ウルグアイ牛を全店に導入する体制を構築するにはコストがかかる。現時点では、導入に向けて動いていない」と静観する。ブロンコビリーがウルグアイ牛で成功を収めれば、他社も本格的に動きだす形になりそうだが、当分の間は先行者利益を得られそうだ。

新商品投入と同時に、メニューの仕組みも大きく変えた。従来はメインのステーキやハンバーグにサラダバーとご飯を含めたセットでの値段のみを提示していた。だが今回、サラダバーのみを432円、サラダバーとご飯(またはパン)、コーンスープのセットを540円にして別料金とした。「すべて込みの値段から単品価格にすることで、割高感を軽減した。健康意識の高まりから、ライスを食べない顧客が増えていることも考慮した」と、古田取締役は説明する。

【2019年6月7日10時50分追記】初出時の記事で料金の記載が間違っていました。お詫びの上、修正いたします。

ステーキ専門店の単一業態で運営するブロンコビリーが、先陣を切って産地の新規開拓に乗り出した意味は大きい。果敢な挑戦で、逆風をはね返すことはできるか。