人類がコーヒーやビールを愛するのは「味ではなく心」の影響だという研究結果
by MabelAmber
食べ物や飲み物の好みが人によって違うということは誰もが知っていますが、それがなぜなのかは実はよく分かっていません。それでも、苦味に敏感な遺伝子を持つ人ほどコーヒーが好きな傾向があることなどが、味の好みと遺伝子に関する研究から、少しずつ分かってきました。しかし、2019年5月2日に科学誌Human Molecular Geneticsに掲載された最新の研究では、人が苦味や甘味を求めるのは味覚に関する遺伝子ではなく、精神状態に作用する遺伝子の影響だとされています。
https://academic.oup.com/hmg/advance-article-abstract/doi/10.1093/hmg/ddz061/5424254
Coffee and beer may not just be an acquired taste, but a genetic one • Earth.com
https://www.earth.com/news/coffee-beer-taste-genetic/
味の好みと遺伝子の関係についての研究を行ったのは、ノースウェスタン大学フェインバーグ医学院のマリリン・コルネリス博士らの研究グループです。研究グループは最初に、UKバイオバンクに登録された33万6000人を対象に、24時間中に摂取した飲み物の種類と量に関するアンケートを実施しました。
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そして、飲み物をコーヒー・紅茶・ビール・赤ワインといった「苦い飲み物」と、砂糖や人工甘味料入りの「甘い飲み物」に分類した上で、対象者の遺伝子データをゲノムワイド関連解析により分析。飲み物の好みと遺伝子の関係を調べました。その結果、苦い飲み物の好みと関係がある遺伝子座がアルコール飲料で4カ所、ノンアルコール飲料で5カ所、コーヒーで10カ所も発見されました。
コルネリス博士らを驚かせたのは、これらの遺伝子が味覚に関するものではなく、精神状態に作用する遺伝子だったことです。このことから、研究グループは「人は『気分』を良くしてくれるがために苦い飲み物を飲んでいるのであって、『味』が好きでコーヒーや苦いアルコール飲料を飲んでいるのはない」と結論しました。
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さらに、研究チームは甘い飲み物の好みと遺伝子の不思議な関係も発見しました。それは、「FTO遺伝子に特定の変異がある人は、砂糖入りの飲み物をよく飲んでいた」というものです。FTO遺伝子は「fat mass and obesity associated gene(脂肪と肥満関連遺伝子)」とも呼ばれ、太りやすさと関係があることで知られている遺伝子です。驚くべきことに、今回発見されたFTO遺伝子の変異型は、肥満リスクが低い人に良く見られるものでした。つまり、「太りにくい遺伝子を持っている人は甘い飲み物が好きだった」ということになります。
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コルネリス博士はこの結果について、「FTO遺伝子はいまだ謎の多い遺伝子で、肥満とどのように関連しているか正確には分かっていません。ですが、おそらく人の行動に関与することで、体重管理に何らかの影響を及ぼしていると思われます」と述べています。
砂糖の過剰摂取が健康に悪影響を与えていることはよく知られているほか、全世界の死者の約5.3%がアルコールが原因で死亡しているという報告もあります。人間が自分が感じる味ではなく、遺伝子がもたらす精神作用によって甘い飲み物や苦いアルコール飲料を選んでいるということが分かれば、より健康を意識した飲み物の選択をすることができるかもしれません。