いつもとは逆の「チャイナリスク」が起きる可能性がある(トランプ大統領と中国の鶴副首相、写真:ロイター/アフロ)

4月1日に新元号「令和」が公表されてからというもの、この国には不思議な楽観ムードが漂っている。確かにこのところ天気はいいし、桜の花も例年より長い期間咲いていた。うららかな気分になるのもわからないではない。

4月18日に行われた安倍晋三総理大臣主催「桜を見る会」では、新宿御苑に今年も1万8000人のお客が集まったが、当日は菅義偉官房長官の前に長蛇の列ができていた。「令和おじさん」と一緒に写真を撮ろうという善男善女の中には、40分も待った人がいたという。内閣支持率がここへ来て上昇しているというのも、むべなるかなである。

日本経済の先は「そんなに明るくない」


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しかるに内外の情勢を虚心坦懐に見れば、日本経済の先はそんなに明るくはないのではないか。事実、今月になって公表されたさまざまな景気指標は、芳しくないデータが相次いでいる。

* 日銀短観(4月1日):企業の景況感について、「良い」と答えた企業数は「悪い」と答えた企業臭を上回っているものの、その割合は製造業を中心に前回12月調査に比べて低下した(最近19、先行き15から最近12、先行き8へ)。

* 消費動向調査(4月8日):6か月連続の低下。「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」の4指標すべてが前月比で減少。

* 景気ウォッチャー調査(4月8日):3月の現状判断DIは前月を2.7p下回り44.8となった。45.0を下回るのは2016年7月以来のこと。

* IMF(国際通貨基金)の世界経済見通し(4月9日):世界経済の2019年成長率予測を、前回1月発表分の3.5%から3.3%に下方修正。今回の表題は「減速する経済成長、再加速は不確実」で、格差の拡大、投資の不振、貿易における保護主義の台頭を考察している。

* 貿易統計(4月17日):3月分輸出は前年同期比で2.4%減。特に中国向けが同9.4%減と全体の足を引っ張っている。

ということで4月18日に発表された月例経済報告では、内閣府は3月に引き続いて基調判断を「景気は、このところ輸出や生産の一部に弱さもみられるが、緩やかに回復している」に据え置いた。2月までは14カ月連続で「景気は、緩やかに回復している」としていたわけで、問題なのはここへきて「輸出と生産に弱さがみられる」ことである。

突然急浮上した「中国経済への強気論」

ぶっちゃけで言ってしまうと、日本経済は今でもモノづくりが中心で、第2次産業を中心に景気変動が起きる。ゆえに景気指標の中でも、生産に関するデータに注目しなければならない。そこで鉱工業生産はと見ると、今年1月に大きく下落して、2月はほぼ微増に終わっている(3月分は4月26日に公表予定)。理由は言わずと知れた輸出の落ち込みで、なかんずく中国向け、特にIT関連製品が大きく落ち込んでいる。

思えば年初には、アップルのティム・クック会長が中国圏の弱さに警告を発する「アップル・ショック」があったし、日本電産の永守重信会長が中国国内の需要減を、「これまでの経営経験で見たことがない落ち込み」と評したこともあった。

問題が中国経済にあるとしたら、日本としては対応が難しい。政府はまだ「戦後最長の景気拡大期間を更新中」という看板を下ろしていない。しかしここで景気が息切れしようものなら、金融緩和策はほぼ出尽くしてしまっているし、財政政策ではむしろ半年後に消費増税を控えている。普通に考えたらかなり怖い局面なのだが、為替が安定していることもあって、そして10連休を控えていることもあって、世の中はどこかほんわかしている。

ところがここへきて、中国経済への強気論が急浮上している。テレビ東京『ニュースモーニングサテライト』 が毎週月曜日に公表している「モーサテ・サーベイ」では、4月15日公表分の中国経済の評価が+35.5となった。正直なところ、自分が参加しているアンケート調査をことさらに強調するのは気が引けるのだが、4月になってからの上昇があまりにも目立つので、敢えてご紹介する次第である。

このサーベイは、番組に出演しているコメンテーター30数人を対象に毎週末に行っているもので、日・米・欧・中の経済を「改善」「やや改善」「横ばい」「やや悪化」「悪化」の5段階で評価する。それらをプラスマイナスすると、欧州はさすがにマイナスゾーンが続いているけれども、中国とアメリカ経済への評価が急上昇している。


日・米・欧・中の経済を5段階で評価する「モーサテ・サーベイ」では中国とアメリカ経済への評価が急上昇(出所:テレビ東京)

中国ではいったい何が起きているのか。昨年1年で25%も下げた上海総合指数は、今年1月から上昇に転じ、節目とされる3200を超えている。

4月17日に発表された1-3月期の実質GDPは前年同期比で6.4%の伸びとなり、昨年10-12月期と同じであった。3四半期連続の減速から、ようやく下げ止まったことになる。と言えば、当然反論もあるだろう。確かに底入れの兆しはあるけれども、中国経済には過剰債務などの構造問題があるし、景気刺激策による負の効果も気になるところである。トランプさん(ドナルド・トランプ大統領)相手の米中通商協議だって、これからどう転ぶかわからない。

とはいえ、この手の議論は過去に何度も繰り返されてきたことである。中国経済は外から見ていてもわからない。一種の「ブラックボックス」だと割り切るべきであろう。日本ではネガティブバイアスが強いので、とかく中国悲観論がコンセンサスになりやすい。しかし中国経済の減速は、昨年後半からずっと言われてきたことだ。それは想定の範囲内。むしろ政府による機動的な景気対策を受けて、中国経済が予想より早く立ち直る方がリスク・シナリオとなり得るのではないか。

通常とは逆の「チャイナリスク」を警戒せよ

その場合、世界経済は夏頃から再加速することになる。そのときのアメリカの金融政策はどうするのだろう。FOMC(米連邦公開市場委員会)は、昨年末のタカ派から今年になってハト派に大変身した。年内は利上げどころか、利下げもあり得るという相場観になっている。米連銀の資産減らしも、今年9月には止めてしまうという。そこへ中国経済が急反転したからと言って、米連銀は再びタカ派路線に戻れるのだろうか。

ジェローム・パウエル議長下の米連銀は「データ重視主義」になっている。現場の声に耳を傾けるといえば聞こえはいいのだが、その分、金融政策からロジックが消えてしまった。ベン・バーナンキ、ジャネット・イエレン議長の時代とはそこが大違い。1年もたたないうちにタカになったりハトになったり、ということになると、それこそ金融政策への信認が揺らいでしまうのではないか。

「チャイナリスク」といえば、普通は中国経済の減速が世界全体の足を引っ張ることをいう。しかし今年の場合、むしろアップサイドリスクの方を警戒すべきではないか。中国経済は今や名目GDPで日本の2.5倍もある。アップサイドもダウンサイドも、わが国としては両方の可能性を睨んでおかなければならないだろう(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が、週末の人気レースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

さて、ここからは競馬コーナーだ。今週末は春のG1シリーズの谷間にあたる。4月14日は3歳牡馬が中心のクラシック皐月賞、4月28日は春の天皇賞と力が入るところなので、今週は京都の読売マイラーズカップ(G2、芝1600m)では、ごく軽く次週の資金稼ぎと行きたいところだ。

読売マイラーズカップは「馬連1点」で勝負

頭数も10頭と少ないので、焦点は人気となっているダノンプレミアムの取捨選択ということになる。もともと強いと言われている現4歳世代でも、トップクラスと目されていた馬だ。昨年のダービーでは1番人気に推されたものの6着に終わり、その後は長い沈黙が続いていた。今春、金鯱賞(G2、3月10日)で並みいる強豪を蹴散らして大復活。次は大阪杯(G1、3月31日)かと思ったら、マイル路線に焦点を定めてきた。次の狙いは安田記念で「打倒、アーモンドアイ」といったところか。

桜花賞のグランアレグリア、皐月賞のサートゥルナーリアという強い勝ち方を見た後では、ここは「強い馬が勝つ」という流れとみて信用することにしよう。といっても、オッズが低いので、信用できるインディチャンプとの馬連に絞って勝負したい。

くれぐれも少額で。競馬も毎週全力投球していると大変だからね。来週の筆者は編集担当のF氏とともに京都に向かい、「平成最後の天皇賞」を現地で観戦する予定である。