外国人選手の試合出場枠の拡大によって、よりコンペテティブで華やかな方向に変貌を遂げることが予想される今シーズンのJリーグだが、その一方で、新ルールと両輪の関係で新たに設けられたルールがある。それが、若手選手の育成に主眼を置いた「ホームグロウン制度」の導入だ。


高円宮杯で優勝したFC東京深川の主将にトロフィーを渡す原博実Jリーグ副理事長

 これは、各クラブが日本人選手育成に力を注ぎ、育成現場を変えていくことを目的として設けられた新ルールで、同時に、外国人枠の拡大によって将来的に日本人選手の活躍の場や成長の機会が失われてしまうことを防ぐための対策と考えられている。

 Jリーグで活躍する日本人選手が減ってしまえば、日本代表の強化のみならず、将来的に日本サッカーが弱体化してしまうかもしれない。Jリーグの外国人枠の拡大あるいは撤廃が議論されるなか、そんな懸念が生まれるのも当然だ。そこで導入されたのが、この「ホームグロウン制度」である。

 その概要は、J1各クラブのトップチームの登録選手に必ず2人以上のホームグロウン選手を含めなければならないというルールで、ホームグロウン選手の定義は次のように定められている。

・12歳から21歳の間、3シーズンまたは36月以上、自クラブで登録していた選手

・満12歳の誕生日を含むシーズンから、満21 歳の誕生日を含むシーズンまでが対象

・期間は連続していなくてよい

・21歳以下の期限付移籍選手の育成期間は、移籍元クラブでカウント

・選手を国籍、プロ・アマ別、年齢で区別しない

・JFAとJリーグ特別指定選手は対象外

 現段階で、Jリーグはホームグロウン選手の最低登録人数を2020年までは2人以上、その後、2021年は3人、2022年には4人以上と増やしていくことを決定しており、J2とJ3のクラブに関しては2022年から1人以上の登録数で、このルールを導入する予定だ。

「ホームグロウン制度」というワードを聞くと、多くのサッカーファンはイングランドのプレミアリーグのそれを想起するはずだ。

 彼らが2010-11シーズンから導入したその制度は、最低登録人数など細かいルールはJリーグとは異なるものの、リーグの競争力と華やかさを保ちながら「自国選手の活躍の場を確保する」という導入目的そのものは、ほとんど同じだ。

 その背景には、長きにわたってイングランド代表の成績が低迷するなか、世界中からトップレベルの外国人選手が集まるプレミアリーグで自国選手のプレー機会が減少していたことに、イングランドサッカー界が危機感を持ったことにあった。

 とはいえ、ホームグロウン選手の最低登録数を定めただけでは、自国選手が外国人選手からポジションを奪うことはできない。真の目的を達成するためには、質の高い若手選手を育て上げ、トップチームに安定的に供給するシステムを構築する必要がある。

 そんななか、育成で大きく後れをとっていたイングランドサッカー界がほぼ同時期の2011年から推し進めたのが、EPPP(Elite Player Performance Plan=エリート選手養成プラン)と呼ばれるプログラムによる育成改革だった(プレミアリーグのクラブがEPPPを導入したのは2012年から)。そしてこの育成改革が原動力となり、2017年にはイングランドがU-17W杯とU-20W杯の二冠を達成するに至ったことは記憶に新しい。

 いずれにしても、「ホームグロウン制度」の導入には、そのバックボーンとなる育成の強化が絶対的に必要で、制度の成否もそこがカギとなる。そこで今シーズンから「ホームグロウン制度」を導入したJリーグでも、同じようなアクションを起こしている。

「本格的に日本の育成を変えていきたい」

 2月13日、以前から育成強化に積極的な姿勢を見せていた原博実Jリーグ副理事長が力強くそう語って発足したのが、「プロジェクトDNA(Developing Natural Abilities)」だ。

 近年の日本の育成強化は、2015年からJFA(日本サッカー協会)とJリーグが連携しながら選手育成に投資を行うJJP(JFA・Jリーグ協働事業)が主導してきた。そのなかで、イングランドも育成改革時に取り入れたベルギーのダブルパス社による「フットパス」を導入。育成に関するあらゆる項目を数値化することで、各クラブのアカデミーの査定および格付けを行ない、目に見える形の育成強化にも着手していた。

 ところがJJPの活動が昨年で終了したことを機に(一部は継続)、今度はJリーグの予算から育成強化費を捻出し、Jリーグ主導による新プロジェクト推進に舵を切ることになったという。

「選手や指導者の資質を紡いで、ワールドクラスの選手を輩出する」ことを最大の目標にスタートした「プロジェクトDNA」は、育成ビジョンやその戦略を決定するアカデミー・リーダーシップ・チームの下、それを実行するアカデミー・ワーキング・グループが、J1からJ3の各クラブとコミュニケーションをとりながら改革を進めることになる。トップダウンで進めるのではなく、各クラブを啓蒙し、サポートするイメージだ。

 そしてそのアカデミー・リーダーシップ・チームのキーマンとしてイングランドから招聘されたのが、テリー・ウェストリー(テクニカル・ダイレクター・コンサルタント)とアダム・レイムズ(フットボール企画戦略ダイレクター)の2人のエキスパートだ。

 とくにテリー・ウェストリーは、イングランドのEPPPの設計と施行に大きく関わった育成の第一人者で、2014年からはウェストハムのアカデミー・ダイレクターを長く務めてきた実績の持ち主。「プロジェクトDNA」の名が、2014年からイングランドで施行された「イングランドDNA」と似ていることも含め、今後は彼が持つノウハウを中心に、日本の育成改革が行なわれることになるはずだ。

 ただし、今回のプロジェクトでは、イングランドのコピーではなく日本オリジナルであることが強調されており、2月13日のブリーフィングではテリー・ウェストリー本人も次のように話している。

「このプロジェクトはイングランド流ではなく、Jリーグと各クラブの共同作業で進めていきたい。(私がこの仕事を引き受けたのは)Jリーグがこの育成改革をもたらしたいとする2030年に向けたビジョン、発展したいという情熱を感じ、ぜひ携わりたいと思ったから。選手育成のプロセスに進展をもたらし、Jリーグから世界に多くのトップクラスを輩出するためには、世界トップクラスの指導者の育成も大事なので、そこにも焦点を当てて活動していきたい」

 このプロジェクトの当面のプランは、2030年までのスパンで進められることになる。しかし、発足したばかりのこのプロジェクトはまだ具体的なことがほとんど決まっていないのが実情だ。

 なぜドイツでもスペインでもフランスでもなく、イングランドのエキスパートのノウハウをベースにするのか。育成改革で最も重要なポイントとなるJFAとの連携はどうなるのか。あるいは、予算がJリーグから捻出されているだけに、JFAとは別の単独プロジェクトとして改革を進めるつもりなのか。

 これまで、何度も着手しては頓挫してきた日本サッカーの育成改革。今度こそ、「ホームグロウン制度」の導入と同時にスタートしたこのプロジェクトを成功させるためにも、今後の進捗状況について厳しい目で注視していきたい。