張本智和、伊藤美誠【写真:Getty Images】

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共通項は「速さ」? 張本智和伊藤美誠が全日本V…なぜ、卓球新世代は芽吹いたのか

 2018年の日本卓球界は、「黄金世代」と呼ばれるニューヒロインとニューヒーローの誕生で幕を明けた。1月15日〜21日まで東京体育館で行われた全日本選手権で、男女シングルス、女子ダブルスでいずれも10代選手が初優勝を成し遂げ、新世代の波が本格的にやってきたと言えるのではないだろうか。世代交代の現在地を全日本選手権の結果を踏まえて、探ってみた。

 まず、男子シングルスはベスト16に残った選手の中で、一番若かったのは中学2年で14歳の張本智和だ。そして、大学生が7人いた。学生で4強まで勝ち上がったのは、張本と大学4年の森薗政崇だった。男子は女子と比べると、選手層が厚いのか、成長の度合いが遅いのか、社会人やベテラン勢が健在ぶりを見せて、若手の上位進出を阻んでいる。

 そんな中で、ジュニアの部でも優勝した今年の全日本で史上最年少で一般の部も制した14歳の張本は別格の強さを発揮してみせた。初戦の4回戦から決勝までの6試合で落としたゲームはわずか「4」で、ストレート勝ちは3試合もあった。3人の社会人と3人の学生を撃破したが、その中には全日本王者の水谷隼と全日本学生王者の森薗がいた。

 昨年の全日本でジュニアの部も一般の部も不甲斐ない負けを喫した悔しさを糧にした張本は、昨年1年間で大きな成長を遂げて飛躍し、自信と手応えを掴んで「ジュニアの部と一般の部で優勝することが目標」と、今年の全日本に臨んでいた。

「競った試合でも焦らなくなったのも実力がついた証しですし、サーブもレシーブもドライブもブロックもすべて一つ上のレベルにいけたと思っています」

 昨年世界ツアーを転戦する中で、メンタルも技術も向上して急成長を遂げた張本には、武器のバックハンドに加え、磨きを掛けてきたフォアハンドとフットワークが良くなったことで、隙のない戦いを見せられるようになり、強さも際立ってきたようだ。

張本に敗戦の水谷「たぶん何回やっても僕は勝てない」、森薗「実力負けを痛感」

 昨年の世界選手権に続き、全日本決勝でも負けた水谷は張本について「バックドライブが質の高いボールで最後まで対応できなかった。世界選手権の時よりも、一つひとつの技術の精度が格段に上がっていて、フォアもバックも威力と質が良くなっていた。今までやってきた中国選手と同じレベルにはいるなと感じた。

 もし、(決勝のプレーが)いつも通りの100%の力だとしたら、たぶん何回やっても僕は勝てないかもしれないし、他の日本選手が対戦しても勝てないと思う。彼がここまで成長して優勝する前に自分がたくさん(全日本で)勝って来られて良かった。今後、何回やっても(勝つのは)厳しい気がしますね。これまでの決勝と比べると、今回が一番しんどかった」と振り返ったほどだ。

 また、準決勝でストレート負けした森薗も「実力負けを痛感した。昨年の中国オープンで0-4で負けた時よりは進歩があったと思うが、最後まで(張本を攻略できず)いい間合いで台上に入ることができなかった」と完敗を認めるしかなかった。

 男子と比べて女子は新世代の活躍が目覚ましかった。シングルスの決勝は同い年の17歳同士の「みうみま」対決となり、女子ダブルスと混合ダブルスを制した伊藤美誠が、昨年当時最年少の16歳で優勝した平野美宇を4-1で圧倒して初優勝。女子としては15年の石川佳純以来3人目で、史上最年少での3冠を成し遂げた。

 シングルスでベスト16に残った中で10代選手は4人だけだったが、そのうちの伊藤と平野の2人が年上選手たちを次々と撃破して決勝まで勝ち上がった。中でも、伊藤は準決勝で一昨年覇者の石川を4-1で圧倒する快進撃を見せた。石川は昨年8月のチェコオープン決勝で初黒星を喫した伊藤に2連敗となった。

 また、ダブルスではこれまた伊藤が同い年の早田ひなと組んだ「みまひな」ペアが初優勝を果たした。「みまひな」ペアは昨年の世界選手権ダブルス銅メダルの快挙を飾っており、今年の全日本でも優勝候補筆頭だったが、見事、期待に応える活躍だった。

森薗が感じた10代選手に共通する速さ「今後のトレンドになるんじゃないか」

 史上最年少の3冠に輝いた伊藤は「本当にとっても嬉しい。一戦一戦やり切ったことが3冠に繋がった。決勝(の平野と)は、一昨年の全日本準決勝で0-4で負けている相手だったので、全日本の借りを返したくて思い切ってプレーした。平野選手とは決勝で当たれたらいいなと思っていたし、大きな舞台の決勝で同級生と戦えたことはとても幸せで、そこで絶対勝ちたいと思っていたので優勝することができて良かった。

 準決勝で石川選手に昨年のチェコオープンに続けて勝てたことで自信になった。早田選手とは昨年ダブルスを組んでずっと戦ってきて結果も出したり、世界選手権の選考会決勝でも対戦したりして、将来の自分たちがすごく楽しみだと思ったし、昨年の全日本で優勝してアジア選手権にも優勝、世界選手権シングルス銅メダリストになってすごく変わった1年を送った平野選手から刺激を受けた自分も昨年は変われた1年だった」と、切磋琢磨し合える同い年のライバルの存在に感謝していた。

 今回の全日本で男女シングルスとも10代選手が初優勝を飾り、女子ダブルスでも17歳コンビが初の栄冠を勝ち取った。なぜ、10代選手がこれほど活躍できたのだろうか。昨年のアジア選手権で優勝した平野の快挙を間近で見て、ピッチの速いショットを打つ平野の練習法を取り入れたという森薗は、その背景をこう分析した。

「(平野)美宇ちゃんの良さは(ピッチの)速さですね。ここ最近、ボールの質がプラスチックに変わって、それから上位に来る選手というのがやっぱり若い選手がすごく多くなってきた。その人たちの特徴というのが(ピッチの)速さで、張本にしろ、美宇ちゃんにしろ、(伊藤)美誠ちゃんにしろ、やっぱり速さがある。

 今後のトレンドになってくるんじゃないかなと自分の中で思ったので、普段の美宇ちゃんがナショナルトレーニングセンターで行っている練習を隣で見ていて、自分もいろいろ取り入れさせてもらって、すごくやりながら良くなっている実感があるので、すごいなと思った。美宇ちゃんの練習を取り入れる前と比べると、今の自分のプレーの速さは倍くらいになった」

 10代選手に共通する「ピッチの速さ」が強さの源だというそのプレースタイルを、優勝した張本と伊藤、そして平野も持っており、他選手を圧倒するほど際立っていた。東京五輪に向けたこの2年余りで、さらに一段と「黄金世代」の成長が見込まれるだけに、新世代の活躍の場がますます広がりをみせるはずだ。(辛仁夏 / Synn Yinha)