住宅ローン、ひそかに変わったお得の新常識
フラット35か銀行か。借りるならどっちが得?(写真:hilite / PIXTA)
10月1日、フラット35の金利が公表された。1.36%と、前月の1.080%に比べて大幅な上昇となった(返済期間21〜35年、融資率9割以上)。
フラット35の金利は通常、長期金利に連動するが先月と比べて長期金利が上昇したわけではない。10月の金利上昇はフラット35の大幅な制度変更が理由となる。これから住宅ローンを組む人はもちろん、借り換えをする人にも影響する。
団信保険料が金利に含まれた
住宅ローンを借りる際、原則としてセットで加入するのが団体信用生命保険、略して団信(だんしん)だ。ローンを組んだ人が亡くなったり高度障害となったりした場合に残債がゼロになる制度で、名前にあるとおり生命保険の一種である。
従来は一般的な金融機関(銀行・信用金庫等)で借り入れる場合と、フラット35では団信の扱いが異なっていた。銀行では団信の保険料が金利に含まれる一方、フラット35は金利とは別に保険料が必要、という形だ。
ただ、実際の金利は団信保険料も考慮して決まっており、団信保険料や各種の手数料(一般的に諸費用と呼ばれる)も含めていちばんお得な銀行とフラット35を比較するとつねにいい勝負、どちらがお得かはその時々による、という状況だ。筆者は2011年からファイナンシャルプランナー(FP)として活動してきているが、その頃から考えても特定の金融機関が何年にもわたってつねにお得ということはなかった。
こんなに高い金利でお客さんは来るんだろうかと思っているとある日突然金利が大幅に下がったり、ずっと上位争いをしていると思ったら最近では顧客との会話でまず話題に上らなくなった金融機関もあったりと、カネ余りの状況で住宅ローンは激しい競争にさらされている。
今月からの制度変更により、フラット35と他の金融機関の比較方法が変わった。制度変更と併せた比較方法にも触れたい。
フラット35の2017年10月の金利水準は最低で1.360%となっている。制度変更の発表時、団信保険料として上乗せされる金利は0.28%であると説明されていた。つまり制度変更前の水準と比較するのであれば1.080%となり、これは前月と同じ水準だ。他行の全期間固定の金利水準もほぼ横ばいのため、妥当な水準といえるだろう。
フラット35と同じく全期間固定の住宅ローンでほぼ最低水準の金融機関は現在ではみずほ銀行の1.19%となる(借入期間31〜35年)。金利だけを見るとみずほ銀行のほうが低く見えるが、これは「保証料」の違いによる。
保証料は住宅ローンの返済ができなくなった際に保証会社に返済を肩代わりしてもらうための手数料だ。一般的な住宅ローンでは保証料が別途必要となるが、フラット35の場合は必要ない。したがって、支払総額で考えた際にどちらが得か比較する方法が従来と現在では以下のように変わった。
比較方法はどう変化したのか
(従来)
○一般的な金融機関
住宅ローン+保証料+各種諸費用
●フラット35
住宅ローン+団信保険料+各種諸費用
(今後)
○一般的な金融機関
住宅ローン+保証料+各種諸費用
●フラット35
住宅ローン+各種諸費用
(※各種諸費用は融資手数料、抵当権に関する費用、事務手数料、印紙税など)
結局、保証料の分だけ別途計算しなければいけないため比較の面倒くささは残ってしまうが、保証料の支払い方法は一括で前払いと、金利に0.2%上乗せする方法で、2つに分かれる。
みずほ銀行のケースでは一括払いの場合、保証料は1000万円当たり20万6110円だが、金利上乗せ方式ならば0.2%上乗せで1.39%となり、フラット35の1.36%とほぼ同水準となる(保証料は一括と金利上乗せで支払額に違いは発生する。一括のほうが支払総額は少ないが借り入れ時の諸費用が大幅に増加する)。
あとは上記の比較にもあるように、諸費用の違いによりどちらがお得かという比較になる。フラット35の場合は諸費用の中でも融資手数料が大きな割合を占める。融資額に対して高いところでは2%超となる。みずほ銀行ではフラット35も扱っており、融資手数料は1.026〜1.404%となっている(手数料定率型、割引プランの場合)。
4000万円を返済期間35年で借りた場合を比較すると、以下のようになる(返済総額、保障料、融資手数料のみで比較。1000円以下は切り捨て)。
○みずほ銀行
金利1.19%
返済総額 約4895万円 保証料82万4440円、合計約4977万円
○(同じく)みずほ銀行
1.39%(保証料は金利上乗せ型)
返済総額 約5053万円
●フラット35
金利1.36%
返済総額 約5029万円 融資手数料41万0040円 合計約5070万円
(融資手数料はみずほ銀行の最低水準1.026%で計算)
この比較ではみずほ銀行の保証料一括払いがいちばん安くなったが、実質的に頭金を82万円多く払っている状況に近いため、支払額が減るのはある意味で当然だ。また、みずほ銀行の保証料は1000万円当たり20万6110〜72万1470円となっている(元利均等返済、返済期間35年の場合)。
上記の比較は最低水準で計算しているため保障会社の審査次第で増額される場合もある。加えてフラット35の場合は金融機関によって融資手数料が異なり、この後に説明する「フラット35S」では金利引き下げもあるため、どれがお得かは一概に言えない。
フラット35Sは引き下げ幅がちょっと縮小
フラット35Sは省エネ性、耐震性などについて、質の高い住宅を購入した際に適用される。以前は0.3%の金利引き下げだったが、10月の制度変更で0.25%になった。
また、フラット35Sは金利の引き下げ期間が10年のAプランと5年のBプランに分かれる。
金利引き下げによる利息軽減の効果は、Aプランは約96.4万円、Bプランは約51.9万円となる(借入額4000万円、金利1.36%、返済期間35年の場合)。
先ほどの比較にこれら利息軽減効果も考慮すると、「いちばんお得な銀行とフラット35を比較するとつねにいい勝負」という最初の説明も納得いただけるのではないかと思う(当然のことながら、ローン審査に通らなければどれも利用できないことは注記しておきたい)。
このように、いちばんお得なローンを探してみると、銀行とフラット35はどちらが得なのか断言できる状況になく、金利変動も考慮するとその時々で状況は変わり、その差も一般的な住宅ローンの額であれば35年間で数万円から数十万円程度となる。
フラット35の制度変更によって比較の方法は多少変わったが、重要なことはどこから借りるかではなくこれから借りようとしている住宅ローンははたして問題なく返済できるかどうか、購入プランがライフプランと整合性が取れているか、という部分であることは伝えておきたい。
(※10月の制度変更では団信の保障内容も変更されているが、これは他行の団信と比較する形で改めて解説したい)
売却時に住宅ローンも引き継げる?
フラット35の制度変更は今年4月にも行われていた。それが「アシューマブルローン」の導入だ。これは従来フラット50では導入されていたが、フラット35でも利用できるようになった。
聞き慣れない名称だが、一言で説明すると「家を売った際に住宅ローンも引き継ぎが可能」な仕組みとなる。
「いったい何のこっちゃ?」という説明になるが、中古であろうと新築であろうと、家を買う際にはその時々の金利で住宅ローンを組むことになる。しかし、フラット35でローンを組んだ人が住宅を売却する場合、自身が組んだローンと同じ金利で買い手もローンを組むことが可能になる。10年後に金利が何%であろうと、今月のローンであれば1.36%で買い手は借り入れが可能、という説明になる。つまりは住宅ローン金利を同じ条件で引き継げる。
もちろん買い手側がローンを組むには審査に通る必要はあるが、将来金利が上昇していた場合に効力を発揮する。たとえば今月Aさんが5000万円の物件を購入して、10年後に4000万円で売却のケースを想定する。仮に10年後の住宅ローン金利が3%であれば、買う側であるBさんが1.36%でローンを引き継いで購入できることは極めて大きなメリットとなる。
4000万円の物件を頭金1割(借り入れは3600万円)で購入する場合、金利が1.36%ならば総額で4926万円、3%ならば6218万円と、1000万円以上の差となる(いずれも全期間固定、返済期間35年、頭金も含んだ支払総額)。金利上昇時にこれだけ差がつくということは、物件価格にもプラスに働くことは間違いない。これはあくまでシミュレーションでしかないが、金利が上昇するほど売却価格にプラスの影響が大きくなる。
通常、金利と不動産価格はシーソーゲームの関係にあり、近年のマンション価格上昇は金利低下による部分が極めて大きい。つまり金利が上昇した際は不動産価格に下落圧力がかかるが、それを緩和する効果がアシューマブルローンを利用した場合に見込めることになる。
アシューマブルローンの利用条件はフラット35と同等で、長期優良住宅の認定を受けた住宅で借り換え時の利用は不可という以外は特別な条件は課されていないが、取扱金融機関は2017年10月時点で23社とごく一部に限られている。
扱っている金融機関が一部に限られている理由は、金利が上昇した場合は当然のことながらアシューマブルローンがお得になり、金融機関からすればわざわざライバルを増やしかねないことが原因と思われる。
したがって今後も自社で長期固定の住宅ローンがない金融機関(信用金庫等)を中心に取り扱いが増える可能性も高く、手数料や金利水準だけでお得な住宅ローンを探しているとアシューマブルローンの存在自体に気づかないケースも出てくるかもしれない。
将来住み替えの可能性がある人は資産価値の高い物件を選びたいと考えているケースも多いが、立地や建物の質だけではなくローンの種類によっても売値が変わる可能性があることも考慮に入れておいたほうがいいだろう。