【U-17W杯】爪痕を残した"古都のクリロナ"。上月壮一郎がラウンド16で見せた魂のビッグプレー
[U-17W杯]日本 0(3PK5)0 イングランド/10月17日/インド・コルカタ
勝手にビッグプレーだったと思っているシーンがある。
U-17ワールドカップのラウンド16、イングランド戦。U-17日本代表の試合に対する裏テーマは「ビビらないこと」だった。圧倒的なフィジカル能力の差を見せ付けられながら、序盤から気圧されてしまったのがフランスとのグループリーグ第2戦。ミスを恐れる空気感のなかでチャレンジするプレーがなくなってしまったのが、ニューカレドニアとの第3戦。それを受けて臨んだこのイングランド戦を前にして、選手たちは「失うモノは何もない」ことを徹底して確認していた。
そして、迎えたフットボールの母国とのゲームについて、個人的には立ち上がりがすべてだと思っていた。フランス戦のようにそこで気圧される選手が出てくると、全体的に守りのマインドに支配されてしまう。たとえボールを支配されても心を支配されないことが強敵に勝つための絶対条件で、それを見せてくれる選手が出てくるかどうかだと思っていた。
開始4分のことだった。左サイドでボールを受けたMF上月壮一郎(京都U-18)が前を向く。仕掛けるためのスペースはあって、DFとの間合いも悪くない。記者席で観ながら思わず「仕掛けろ、上月!」と思ったこちらの念が届いたわけではないだろうが、長身の快足ドリブラーは迷わずゴールに向かってドリブルを開始。対応していたDFをはがしてミドルレンジからのシュートを打ち切った。GKに阻まれたものの、劣勢が予想される試合にあって味方に勇気を与え、「チャレンジしていくんだ」という試合前にチェックしていた気概を再確認できる、そんなプレーだった。
「フランス戦は仕掛ける回数が少なかったので、後悔していた。(この試合が)終わった時に後悔だけはしたくなかったので、(ボールを)10回取られてでも積極的にいこうと思っていた」(上月)
元よりどんな強敵を前にしても、良い意味で空気を読むことなくアグレッシブに向かっていけるのが上月の魅力である。シュート力も大幅に上がってきており、予選時から一番成長した選手ではないかという評価を指揮官から受けるまでになっていた。
それが弱気のプレー選択をしてしまうようなら、そもそも起用する意味がないわけで、このファーストプレーは大きかった。守備でもアグレッシブで、時には中央に入ってのカバーリングまでこなすなど、この点でも成長を感じさせるパフォーマンスだった。
【U-17W杯PHOTO】グループリーグは1勝1分1敗で決勝T進出決定!
もちろん、試合後に「決め切れなかった」という言葉を繰り返し残したように、前半に絶好機も訪れるなかでゴールネットを割れなかったのは大きな課題として残った。「大会を通して1点も決められなかった」のも、ひとつの現実である。ただ、悔しさはあっても、悔いはなかったようだ。
「いままで切磋琢磨してきて、みんなで今日は後悔をしない試合ができた。誰も後悔しない。本当にいいチームだったと思います」
今年、ある合宿で森山監督が「このなかで『絶対に誰よりも努力している』と言えるやつはいるか?」と問いかけた時、スッとひたり真っ先に挙手したのが上月だったという。昨年12月に南米遠征で世界レベルとのフィジカル面の差を痛感し、独自のメニューを組んで取り組みながら備えてきたワールドカップだったが、まだ何かが足りないことを突き付けられる舞台ともなった。
“古都のクリロナ”とでも評すべきドリブルの力強さとしなやかさ、抜群のシュート力を持つポテンシャルの塊のような選手である。無謀な位置でのドリブルで無駄にボールを失うことがあるなど、判断力の部分でもまだまだ課題はあるのだが、潜在能力は今回のメンバーのなかでも指折りだろう。何より、自分で自分の課題を見付けて、次の試合や練習に活かしていく特別な向上心が上月にはある。
誰よりも努力するポテンシャルモンスターは、きっとまた日の丸を付ける舞台に戻って来る。そして、この日の悔しさを糧にした成長の跡を見せてくれるに違いない。
取材・文:川端暁彦(フリーライター)
勝手にビッグプレーだったと思っているシーンがある。
U-17ワールドカップのラウンド16、イングランド戦。U-17日本代表の試合に対する裏テーマは「ビビらないこと」だった。圧倒的なフィジカル能力の差を見せ付けられながら、序盤から気圧されてしまったのがフランスとのグループリーグ第2戦。ミスを恐れる空気感のなかでチャレンジするプレーがなくなってしまったのが、ニューカレドニアとの第3戦。それを受けて臨んだこのイングランド戦を前にして、選手たちは「失うモノは何もない」ことを徹底して確認していた。
そして、迎えたフットボールの母国とのゲームについて、個人的には立ち上がりがすべてだと思っていた。フランス戦のようにそこで気圧される選手が出てくると、全体的に守りのマインドに支配されてしまう。たとえボールを支配されても心を支配されないことが強敵に勝つための絶対条件で、それを見せてくれる選手が出てくるかどうかだと思っていた。
開始4分のことだった。左サイドでボールを受けたMF上月壮一郎(京都U-18)が前を向く。仕掛けるためのスペースはあって、DFとの間合いも悪くない。記者席で観ながら思わず「仕掛けろ、上月!」と思ったこちらの念が届いたわけではないだろうが、長身の快足ドリブラーは迷わずゴールに向かってドリブルを開始。対応していたDFをはがしてミドルレンジからのシュートを打ち切った。GKに阻まれたものの、劣勢が予想される試合にあって味方に勇気を与え、「チャレンジしていくんだ」という試合前にチェックしていた気概を再確認できる、そんなプレーだった。
「フランス戦は仕掛ける回数が少なかったので、後悔していた。(この試合が)終わった時に後悔だけはしたくなかったので、(ボールを)10回取られてでも積極的にいこうと思っていた」(上月)
元よりどんな強敵を前にしても、良い意味で空気を読むことなくアグレッシブに向かっていけるのが上月の魅力である。シュート力も大幅に上がってきており、予選時から一番成長した選手ではないかという評価を指揮官から受けるまでになっていた。
【U-17W杯PHOTO】グループリーグは1勝1分1敗で決勝T進出決定!
もちろん、試合後に「決め切れなかった」という言葉を繰り返し残したように、前半に絶好機も訪れるなかでゴールネットを割れなかったのは大きな課題として残った。「大会を通して1点も決められなかった」のも、ひとつの現実である。ただ、悔しさはあっても、悔いはなかったようだ。
「いままで切磋琢磨してきて、みんなで今日は後悔をしない試合ができた。誰も後悔しない。本当にいいチームだったと思います」
今年、ある合宿で森山監督が「このなかで『絶対に誰よりも努力している』と言えるやつはいるか?」と問いかけた時、スッとひたり真っ先に挙手したのが上月だったという。昨年12月に南米遠征で世界レベルとのフィジカル面の差を痛感し、独自のメニューを組んで取り組みながら備えてきたワールドカップだったが、まだ何かが足りないことを突き付けられる舞台ともなった。
“古都のクリロナ”とでも評すべきドリブルの力強さとしなやかさ、抜群のシュート力を持つポテンシャルの塊のような選手である。無謀な位置でのドリブルで無駄にボールを失うことがあるなど、判断力の部分でもまだまだ課題はあるのだが、潜在能力は今回のメンバーのなかでも指折りだろう。何より、自分で自分の課題を見付けて、次の試合や練習に活かしていく特別な向上心が上月にはある。
誰よりも努力するポテンシャルモンスターは、きっとまた日の丸を付ける舞台に戻って来る。そして、この日の悔しさを糧にした成長の跡を見せてくれるに違いない。
取材・文:川端暁彦(フリーライター)