10倍印象に残る! ソフトバンク式「表・グラフ術」

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考え抜いた構成、文章をどうアウトプットするか。最後の難関が、デザインだ。孫正義社長の資料作りを数多く担当し、数々のプレゼンを勝ち抜いてきた達人が教える。

■<デザイン編>

「プレゼンというと、話し方のほうに注目がいく傾向がありますが、経験上、特に社内に向けたプレゼンは資料で9割決まると考えています」

というのは、ソフトバンク在籍時、「ソフトバンクアカデミア」という後継者育成機関の第1期生として1位を獲得した前田鎌利さん。その後も、孫正義社長のプレゼン資料の作成も担当していたという資料作りの名手だ。

編集部員Tが新雑誌の企画を社長にプレゼンしたときのこと。慣れないパワーポイントでようやく仕上げた資料だったが「見づらい」と一蹴された。あの情報を入れなければ、この情報を説明しなければという思いに駆られて、書き込みすぎた典型だ。情報が必要以上に多い資料は、ツッコミどころが増えるうえに、記憶に残りづらい。

プレゼン用の資料は、読ませてはいけない。資料を見ながら説明したり、ディスカッションのネタにするのが目的。そのために、あくまでデザインはシンプルが鉄則だ。

「大事なのは、余計な情報をギリギリまで削ること。伝えたいキーメッセージを1つに絞って、余白をたくさん残したほうが、想像力をかきたてられた受け手は興味を示し、結果、採用に至りやすい。本編から削ぎ落とした情報は、アペンディックス(補足資料)として添えることでフォローできます」

たとえばアンケート調査の結果など、せっかくだからとたくさん項目を入れたくなるが、それでは導き出したい結果が埋もれてしまう。であれば、項目は潔く削って、一番強調したい部分をきっぱりと短い言葉、大きいフォントで見せるほうが効果的だ。

一番残すべき情報は何か、ということは、決裁者のタイプを考えて判断する。たとえば、同じ内容を示唆する数字データと顧客のコメントがあったとする。もし決裁者が論理を重視するタイプなら客観的なデータを、もし生の声を大事にするタイプならコメントを選べばいい。「何を示したら決裁したくなるか?」という目線に立って、情報を取捨選択するのだ。ただし経営層は基本的に数字で判断する。迷ったときは論理的なデータがいいだろう。

全体を通して、フォントや色のトーンを統一し、ページの統一感を出すなど、相手の頭にすっと入っていくようなデザインを心がける。見た目をよくしようとするだけの写真は逆効果なので入れない。

さらにいい資料にするためのコツは、少なくとも一日は寝かせること。

「なんとかして通したい、と熱のこもった資料は、ラブレターのように強い思いがあるわりに、余計なものが多すぎて、肝心なことが書いてなかったりします。間を置いて、もう一度資料と向き合うといいでしょう」

■レッスン1:スライドは5〜9枚

プレゼンの時間の目安は3〜5分。これで大抵の案件は提案の骨子を説明できるはずだし、長すぎると話を見失われることがある。そのため、スライドの枚数は7±2程度に。この数字はアメリカの認知心理学者ジョージ・ミラーが提唱した「マジカル・ナンバー」の法則で、人間が瞬間的に記憶できる情報量は「7±2」とされていることに基づく。情報が多いときはアペンディックスに入れて、質問などがあったときはそこから対応すればよい。

■レッスン2:ブリッジ・スライドを効果的に

ブリッジ・スライドとは、表紙に続いて本編の大きな流れを示すスライド。聞き手が何について話しているのか迷子になったり、緊急案件で席をはずして戻ることがある。その際ブリッジが入ることで、プレゼン内容が理解できて「もう一度しっかり聞こう」と気持ちを改めやすくなる。ごくシンプルな提案なら必要はないが、提案が数回の会議にまたがるようなプレゼンのときには「○回目の提案」というブリッジを挟むとわかりやすいなど、メリットは大きい。

■レッスン3:フォントや大きさはどう選ぶ?

大きい会議場の後ろからでも、視力の弱い年配の人でも読めるよう、視認性の高いフォントを採用しよう。明朝体は知的な雰囲気だが、読みにくいので注意。そしてフォントサイズは、100〜200の範囲内で使用をするといい。100以下にしないとテキストが入らない場合は、文字数を減らすか、他の要素を小さくする方向で検討したい。相当大きいサイズの200にするのは勇気がいるが、確実に強い印象を与えることができる。なんとかスペースを確保しよう。

■レッスン4:決裁が下りやすい「色」使い

「青=進め」「赤=止まれ」というルールが採用されている世界中の信号。誰でもイメージしやすいこの色使いを利用して、売上増や経費削減などのポジティブなメッセージは青、売上減や経費増といったネガティブなメッセージは赤に揃えよう。すぐにいい情報か悪い情報か感覚的に伝わりやすいので、プレゼンがいっそうわかりやすくなる。課題を強調したいとき、黒バックの画面に赤字の文章で示すと、メッセージに強い危機感が出るという技術も。

■レッスン5:見やすいグラフと文字の関係

グラフとメッセージを縦に並べると実は読みにくい。必ず横に置こう。さらに、グラフは左、テキストは右がいい。人間の脳は、左目から入る情報は右脳へつながり、ビジュアルを理解しやすい。逆に右目から入る情報は左脳へ通じ、文字情報を理解することに特化していると言われるからだ。また通常、会議では座った状態。スライド中央から下にキーメッセージが配置されていると、その角度からだと窮屈な印象になので、キーメッセージは中央よりやや上に。

■レッスン6:逆L字の法則で目線を誘導!

人の目線は何かを見たとき、全体を把握するために一定の方向に動く。それを利用して目線に沿った位置にグラフ→キーメッセージの順で「逆L字」を描くように配置すると、内容が理解されやすい。さらに、このキーメッセージを2つに分割すれば、文字数が減ってさらに認識されやすくなる。実際に動いているわけではないのだが、脳内でアニメーションが動くように、単語が順番に登場するような印象を与える。内容をスピーディーに伝えるためのテクニックだ。

■レッスン7:棒グラフは“半分の高さ”で

売り上げなどの数字を棒グラフにする場合、一番低い棒は一番高い棒の半分の高さを意識しよう。「半分になった」「2倍になった!」という強いインパクトを与えられるからだ。さらにその増減を矢印で強調すれば、より効果的。ソフトバンクのお得意の図表だ。ただし、強調しようとして棒グラフに波線の省略線を使うと、印象操作をしているように思われるのでNG。手前と奥で高さが異なる3Dグラフや、左の起点を「0」以外の数字にするのも同様だ。

■レッスン8:心に残る円グラフはワンカラー

構成比を示すのに使い勝手のいい円グラフ。色をたくさん使うとカラフルでいいように思うが、実は逆に目移りして、どこを強調したいのかわからなくなる。そこで強調したいポイントは青などのワンカラーにして、その他の部分は、グレーのグラデーションで表現するのが正解。さらに強調したい部分を円グラフ本体から切り出して少しずらしたり、キーメッセージになる数字を他の数字よりも大きく表示すると、伝えたい情報がより鮮明になる。

■レッスン9:折れ線グラフは角度が肝

推移を示すのには折れ線グラフが最適。折れ線に角度があるほど、勢いが伝わるものだ。そこでグラフの横幅を狭めると、折れ線が急角度に。またグラフの横幅が狭くなることで、その横に添えるキーメッセージのスペースも広がる一挙両得の効果も。強調したい折れ線は、極太にして、カラーリングをほどこすとより一層印象に残りやすい。グラフ上には、詳細な数字を入れても意味がないので、これぞという数字を残してあとはカット。インパクトが残る。

■レッスン10:読ませないグラフ=いいグラフ

アンケート集計結果や、質問項目などを全部記すのは、丁寧だがプレゼンの資料としてはNG。目に入った情報をきっかけに聞き手がこちらの意図と別のことを考え出したりプレゼンの途中で口出ししてきて脱線するリスクも高くなる。アンケート結果であれば、項目もギリギリまで絞り、キーメッセージになる情報だけ残して質問項目は単語に変換。余計なことを考えさせないのが鉄則だ。聞く側に無駄な労力を使わせないので、かえって親切になる。

■レッスン11:意味のない写真は逆効果

商品説明のプレゼンだったら、製品の写真、競合分析だったら企業ロゴを入れるなど、ビジュアルが入っているとプレゼンの理解度は一気に高くなる。手間はかかるが、資料に関係する現場で自ら撮った写真を使うと、よりリアリティがあって効果的だ。ただし本題にあまり関係ないイメージ写真には注意。女性のイメージ写真を入れたりすると「この子、誰?」と余計なツッコミを入れてくる人がいる。無駄に脱線させるだけの写真なら入れないほうが正解だ。

■レッスン12:比較スライドは奥の手

いくら出来がよい提案でも、聞き手側はつい「もっといい案があるのでは……」と考えてしまうもの。そこで有効なのが、A案・B案の提示をすることだ。相手に「自分で選んだ」という満足感を与えられるため、プレゼンの採択率が跳ね上がる。その際には、2案のメリット・デメリットを1枚のスライドにまとめると、よりわかりやすく好印象だ。提案の数が多すぎると、案を絞ってきてないように思われるので、選択肢は多くても3つまでにしよう。

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前田鎌利
1973年、福井県生まれ。 ジェイフォン(現ソフトバンク)入社後、移動体通信事業に従事。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され第1位を獲得する。 現在は独立して、全国でプレゼンテーションを教えている。著書に『社内プレゼンの資料作成術』。

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(鈴木 工=構成 教えてくれた人:プレゼンテーションクリエイター 前田鎌利)