わずかな勝負のあや、東邦が9回表のピンチを切り抜けサヨナラ勝ちサヨナラ勝ちを決めた東邦ナイン

 昨夏の甲子園出場校の東邦、今年もやはりチーム力は高い。これに対して、豊川は2014年春にセンバツ初出場を果たして、いきなりベスト4に進出。以来、すっかり三河の雄という存在になってきている。

 豊川は安田怜央君、東邦は松崎圭吾君と両エースの先発で、ともに立ち上がりは三者凡退で切って取っていき、投手戦の展開になっていくのかと思われた。

 しかし東邦が2回、二死走者なしから6番小瀬木眞君が四球で出ると、川瀬 拓磨君と落合 航大君が連打して先制。さらに、松崎君自身が左越二塁打してこの回3点を奪った。

 これで、試合は東邦の主導権で進んでいくのかと思われたが、4回の豊川も、二死走者なしからの四球と村田真那斗君の安打でチャンスを作ると、ここで松崎君の低めのストレートがショートバウンドとなり後逸。一気にツーベース進んで二塁走者が生還したが、さらにカバーリング送球がそれてたちまち1点差となってしまった。暴投は、その後ももう1球起きてしまったが、東邦バッテリーとしては、痛恨の失点となってしまった。

 そして5回にも豊川は、二死二塁から4番都嶋啓司君の中前打で二塁走者が帰ってついに同点となった。試合の流れとしては、豊川はいい形での同点とも言えた。これで、むしろ試合の流れは豊川に傾いていくのではないかと思われた。

 実際、東邦の森田泰弘監督は6回から先発の松崎君を諦め、右横手投げ気味の水谷優太君を投入したが、いきなり濱英登君に打たれ、バントで一死二塁。さらに牛倉悠斗君の安打で一三塁。たまらず、東邦ベンチは3人目として遊撃手から田中 来起君をマウンドに送り出した。森田監督は「去年の藤嶋(健人=現中日)のように、野手としても活躍できる選手にしていきたい」という思いで起用しているのだが、思いを込めてのマウンドだ。そこで、いきなり豊川のスクイズを好フィールディングで阻止して、能力の高さを示した。これで、豊川への流れを一旦阻止した。

 延長戦も視野に入れかかった9回の攻防で、勝負は決着がついた。

 まず豊川は、先頭の9番安田君が二塁打で出る。ここまで尻上がりに調子を上げてきた安田君自らがチャンスを切り開いた。そして1番に戻っただが、前の回に足が攣るアクシデントで退場していた主将の矢部優宗君に代って入っていた近藤泰司君だ。豊川の今井陽一監督は「確率としてここはバントより売っていった方がいい」と半太んしたが、結局三振に倒れ、後続も左飛と一邪飛に倒れ、田中君が投げ勝った。

 その裏の東邦は、先頭の8番落合 航大君がバント安打を狙うが、わずかに送球がそれて成功。続く武藤巧君はしっかりと送って一死二塁。豊川ナインもマウンドに集まって対策を練るが、その直後、林琢真君が中前へはじき返して、好スタートを切っていた落合君はサヨナラのホームへ滑り込んだ。鮮やかなサヨナラ勝ちとなった。

 東邦は、前日も愛知啓成に逆転サヨナラ勝ちしている。昨夏の甲子園では、八戸学院光星を相手に5対9から9回裏にスタンドも巻き込んだ総攻撃で一気に5点を返して逆転サヨナラ勝ちして話題となった。そんな力が、新しいチームになっても宿っているかのようである。

 豊川・今井監督は「勝てる試合でした。展開としても、勝たなくてはいけない試合でしたけれども、勝負のあやというか、そういうところが微妙に出てしまったと思います。9回のバントヒットも、注意はしていたので、冷静に捌かなくてはいけませんでした。絶対に出してはいけない先頭打者でしたからね…」と、悔しがった。そして、改めて、夏へ向けては整備をしていくテーマを一つひとつ上げていきながら、その大事なことを選手たちにも言い聞かせていた。

 何とかサヨナラ勝ちを果たした東邦の森田泰弘監督は「すっかり“ミラクル東邦”ですよ」と苦笑しながらも、言葉は厳しかった。「決していい内容の試合ではありません。ただ、現在のウチの力としては、こういう試合にならざるを得ないのでしょう。嫌な形の点の取られ方で、どうしてあんなこと(連続ワイルドピッチとカバーリングの悪送球)になるのか…。ちょっと、今日もこちらへ来る前に1時間ほどノックもやってきたんですよ。それで疲れているということもあるかもしれませんが、そんなことで疲れているようでは…、もっと鍛え直さないといけません。夏へ向けては、こうした戦いをしながらも、鍛え直していく必要があります」

 それでも、しっかりとベスト8に進出。夏のシード権を獲得したのはさすがである。

(文・写真=手束 仁)

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