教え方次第で生じる「圧倒的な差」 DeNA筒香嘉智が考える育成法とは
野球教室などで感じた“物足りなさ”「常に指示を待っているなという感じ」
先日、DeNAの主砲であり主将の筒香嘉智が、中学時代を過ごしたボーイズリーグチーム、堺ビッグボーイズ(堺BB)小学生部門のスーパーバイザーに就任した。「Team Agresivo(チーム・アグレシーボ)」という名前の愛称の通り、子供たちを「前向きに」「積極的に」「失敗を恐れず挑戦するように」育てていくことが目的だという。
堺BBは以前から、目の前の勝敗に左右されるのではなく、将来子供たちが大きく花咲くような土台作りをしよう、という理念のもとに運営されている。ここの卒業生でもある筒香は、中学時代を振り返ってみても、怒鳴られたり、何かをやらされたりした記憶はない。「常に答えをすぐにもらっていなかったので、人と会話をしたり、表情を見たり、そういう中で何かヒントはないか探す習慣がつきました」と話す。
そんな筒香がプロ野球選手になり、野球教室などで子供たちと接する際に感じていたのが、ちょっとした“物足りなさ”だった。「常に指示を待っているなっていう感じ。質問(コーナー)の時も手を挙げる子はいないですし」。反対に、筒香の心に響いたのが、トレーニングで訪れたアメリカ合衆国や、ウインターリーグに参加したドミニカ共和国で出会った子供たちだった。恥ずかしがることなく、大人の目を気にせずに、素直に自己主張してくる子供たちに触れ、日本と何が違うのか考えた時、行き着いたのが、育成・指導法の違いだった。
「海外でジュニアの指導の場面を見させていただいて、日本とは対極的な指導方法にある、というのが一番最初の印象でした。日本が悪いというわけじゃないんですけど。向こうの指導者が怒鳴ったり怒ったりっていう姿を一度も見たことがなかった。『楽しくやれ』って言って、そのまま放っておけばいいってわけではない。指導者が選手に敬意を払っている感じ。忍耐力、観察力を持っている。子供に何かを言うタイミングはすごく大切なことだと思いますし。(日本は)そういう部分はまだまだ少ない」
指導者に求める我慢「言いたくなると思うけど、言わない勇気はすごく大事」
怪我をしないような基礎を教えることは大切だが、そこから先は子供たちの可能性に限界を作らず、大きく羽ばたく環境を整える。筒香は「(それは)大人たちのやるべきこと」と言い切る。
「子供たちはそういう環境でやっていたら、何も恐れずに自然とチャレンジ精神というのが生まれてくる。プレーが小さくなったり、発想が小さくなったりっていうことは絶対にないし、どんどん広がってくると思います。大人が答えを与え過ぎずに、子供が自分で考える時間を持たないといけない。答えをすぐに与えたら、すぐに目に見えて成長すると思うんです。でも、将来どっちの方が役に立つのか。(答えや成長はすぐに出なくても)小さい頃に自分で考える力を持った人の方が、大人になった時に圧倒的な差になるのかなと。
子供たちのことを考えたら、今勝った負けたということより、将来どうなっているかっていう方が圧倒的に大事だと思うので、(指導者が)我慢するというか、忍耐力、観察力を持ってほしい。言いたくなると思うけど、言わない勇気はすごく大事」
もちろん、海外がすべていいというわけではない。例えば、海外の指導者が驚くのは、日本の子供たちが持つ規律の正しさだ。挨拶がしっかりできること、団体行動ができること、後片付けができること、時間を守れること。こういった規律や道徳といった部分は、日本人が持ち続けるべきところ。その土台の上に、自分で考える力=想像力、自分で生み出す力=創造力が備わることが理想だ。
スーパーバイザー就任の際、筒香が繰り返し言っていたのが「野球に限らず」というキーワードだ。「僕自身野球を通じて成長させてもらっているので、野球界に何か還元できればと思う」とは言うものの、見つめるのは、その一歩先。野球を通じた人間形成だ。
「野球選手になるとか、まったく関係ないと思う。野球を通じて、人生で人のためになるような人間になっていってほしいと思います」
今後アグレシーボからどんな子供たちが輩出されるのか楽しみだ。