悪役・古田新太をかばいたくなる謎「とと姉ちゃん」141話

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連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第24週「常子、小さな幸せを大事にする」第141回 9月14日(水)放送より。 
脚本:西田征史 演出:大原拓


愉快痛快、とと姉ちゃん。
電気メーカーがどんな試行錯誤をしながら商品をつくっているか検証していくなか、常子(高畑充希)もその視点を取り入れたいと認めたり、ここぞとばかりメーカー独自の視点を記者にアピールしはじめたり、理想的な関係が築かれはじめたかと思ったら・・・
慌てた赤羽根(古田新太)は、乾燥機つき洗濯機を開発中とはったりをかます。企業戦士たちの抜け目のなさが際限なくヒートアップしていく様は面白かった。また、洗濯機をつくるのに、たくさんの試験が繰り返されているという知的満足も得た。

池井戸潤原作ドラマ「半沢直樹」「下町ロケット」などに代表されるおっさん俳優たちの企業ドラマのように、俳優たちのドアップを多く入れて緊張感を煽る141回。なかで、若くつるっとした高畑も必死にキメ顔。唐沢、古田、石丸・・・と対抗するのは大変だ。よくがんばった、高畑充希。これぞ、父という男性の代わりとしして生きた“とと姉ちゃん”だ。

唐沢が商品の欠陥を理路整然と語ることでミステリードラマの魅力も加わった。
恋愛、企業、ミステリー、ヒットの要素満載。こういうふうに、おもしろ要素をかいつまんで紡ぐのは抜群に巧い西田征史。
ショータイムのはじまりだ! という雰囲気で、ビルとビルの谷間の四角いジャングルで「かませ犬にされてたまるか」と苛立つ赤羽根がプロレスラーに見えてくる。たぶん、プロレス好きな古田なので、そんな意識をもっているのではないか。

自社製品の実情も知らず、キャッチフレーズすら覚えてない、ひたすら金儲け主義の悪役として設定されている(でも店頭販売だけは一生懸命なんだよなあ)赤羽根だが、どんな役でも絶対に嫌われない愛嬌をもった古田新太によって、会場の空気が奇妙にねじれだす。
「いくらアカバネさんでも・・・」と他社から言われたときのへん顔は小癪。それも急にやるのではなく、その前からちょっとずつ無表情の顔に変化を加えていく丁寧な芝居で、投石のこととかすっかり忘れて赤羽根に気持ちが傾く。

常子と花山は、アカバネの製品が外に置くことが多い洗濯機が錆びやすいこと、じっと見ていないと水が溢れてしまうことなど、決定的な欠陥を指摘し、衆人環視のもと不利な立場に追いつめていく。
まっすぐ声高に糾弾する常子と花山を「そうだそうだ」と応援するオブザーバーは「あなたの暮し」の主婦テスターの人たちばかり。関係者席の配分がよくわからない。席の半分を「あなたの暮し」チームが占めている。残りの半分は各メーカーの人たちはわかるとして、記者らしき人物は、大東京新聞以外の記者なのか? それともすべて大東京新聞の人たちなのか? 

とにもかくにも多勢に無勢(アカバネ、たった3人!)。
不利な状況を絶対愛嬌で交わしていく古田に対して、「白い巨塔」の財前教授なども演じてきた唐沢が一歩も譲らず徹底的な冷酷さで迫る。
そのふたりの間を石丸幹二が飄々とやじろべえのように、どっちにもつかないバランスをとっている。現実とちょっと違う世界観に立てるのは、夢にあふれたミュージカルの世界で生きてきただけはある。それでいて伝えるべきことは的確だ。
俳優プロレスとしては最高におもしろい試合!
こんなおじさま俳優劇場に放り込まれた高畑充希は鍛えられたことだろう。

おじさまたちに負けじと高畑が毅然と言い放つ。
「洗濯はほんとうに重労働で、主婦の方々はてやこしをいためながらそれでも毎日選択をし続けなければならないんです」
ものすごく真面目に言うので、すごくいい台詞のように思う。確かに言う通りなんだが、まるでかかるBGMによって画面から受ける印象が変わる検証コントみたいでちょっと可笑しくなってきた。

「あなたの暮し」の論理が正しいようでどこか隙があるため、赤羽根に同情の余地が出てしまう。
アカバネの洗濯機3万円がどれだけほかの洗濯機より安いのかわからないが、安いことを重視する消費者で、家の中に置くことと、四六時中、水を見ていてもいい人がナットクづくで買えばいいのでは。以前、あなたの暮しで指摘していた注意書きをすればいいじゃん。アカバネ製品がそんなにひどいなら、すぐに淘汰されると思うから放っておけばいい。いっそのこと、アカバネだけは記事を書くにも値しないと試験から外すという手もあるだろう。そんなふうにアカバネをそんなに責めることないじゃないと思えてしまうのは、懸命に稼いだお金で洗濯機を買ったらすぐに壊れてとても悲しい気持ちになっている人とか毎日毎日家事労働で疲れ果てているような人が出てこないからかなあ。

ほとほと姉ちゃん


冒頭。「これより公開試験をはじめます」と国実(石丸幹二)が言っている140回のカットの次のカットは時間が経過し試験が進んでいるカットだが、経過したように見えず、階段下りて歩く男性が消え、国実は空間移動しているように見えた。毎日熱心に観てる人にはわかることだけれど、今日はじめて観たら、ん??? となる。
まあそれは小姑チェックだが、こういう奇妙なところから赤羽根を応援したくなってくるおかしな現象がはじまっていると考えたい。

ほとほと姉ちゃん 2


1000人の主婦から聞き書きしたと美子(杉咲花)がアンケートを発表するが、そのほとんどは照代(平岩紙)頼り。しかも予想外にたくさん回答をもらえたという状況。いったい「あなたの暮し」編集部員は何をしているのか。ついでに公開試験で島崎俊郎が写真を撮ってないのもなぜなの〜。
(木俣冬)