のんを追うマスコミの執念を超える「この世界の片隅に」の執念の凄さ

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「あまちゃん」のヒロインで一世を風靡した能年玲奈が、のんと改名と同時に活動をはじめ、注目を浴びている。この18日には、「あまちゃん」の舞台のモデルになった岩手県久慈市の秋祭りに出演予定だったが台風による被害が激しく祭りが中止に。残念に思っている人も多いだろう。


動く今ののんの姿を見たい思いが募っていたとところに、彼女が主役の声をつとめるアニメーション「この世界の片隅に」の完成披露試写会が都内で行われると聞いて、矢も盾もたまらず会場に向かった。

戦時中の広島県呉市を舞台に、ヒロインすずの半生を描いたこうの史代の漫画を、アニメーション監督・片渕須直が6年の歳月をかけて徹底的に調査のうえ制作、クラウドファンディングで製作費の支援を集めた映画がついに完成。その披露試写会が9月9日、行われた。

会場は事前に用意されたスチール撮影をする記者席が足りず、席を少し増やしたり、通路で撮るように指示があったり、期待のほどが伺われた。期待の大半は、のんに向けられていると想像できる。

試写の前に20分ほどの舞台挨拶タイム。6年も粘って映画をつくりあげた片渕須直監督と、彼をそこまで突き動かしたすばらしい原作を描いたこうの史代、のんが登壇。マスコミ向けの試写の一足先に完成作を並んで観たという3人は、満足や安堵や感慨などさまざまな思いを胸に秘めているように語り出した。

監督と原作者の隣で観て「めちゃめちゃ緊張した」という、のん。
挨拶も「めっちゃくちゃ緊張してガチガチでした!」とLINEブログで書いていたが、
「ふつうの暮しというものがどんな時にもあって、生きていかなくちゃいけなくて。戦争というものが、ひとつの(独立したもの)としてあるのではなく、生活の中に隣り合わせに入ってくるものだっていうのを感じて、それがすごいこわい。だからこそ、(ふだんの)生活がすばらしくて幸せに思える、そんな作品と思います」とぽそぽそとたどたどしく言葉を発していた。

終始、俯き加減で、やや猫背気味。華奢で儚げで、クラシカルなワンピースの裾が時々揺れるのが、彼女のはにかみの表れのようにも見えた。
だが、監督とこうのが話すときは、それぞれの顔を食いいるように見て、懸命に聞き入る。大きく笑って頭を動かしたあとはさらさらのボブの後ろの毛がピョンと一瞬跳ねるのも愛らしい。





会見用に一般化された明晰なトークがいっさいない。誰でもない、のんでしかないその表情、声の出し方・・・に目が離せなかった。ああこれが、日本中を熱狂の渦に巻き込んだヒロインなんだなあとしみじみ。

監督は、戦時中の広島の風景を徹底的に調べて再現したいという深い探究心と同時に、架空のヒロイン・すずの実在をも模索し、のんによって「すずに血肉が通った」と言う。、のんが演じるとき、監督にたくさん質問をしたことが「エンディングに反映された」とも。
こうのは、のんによって「原作にない明るさ素直さが出た」と嬉しそうだった。

これらの話は会見後に試写を観てナットク。ヒロインすずのひたむきさが声とマッチしていたし、
とりわけ驚いたのは、すずのえりあしのライン! なにげない首の傾きが、会見で見、のんに似ている気がしたのだ。、のんが映画を観たばかりですずになってしまっていたのか、監督がすずを、のんみたいに描いたのか、どっちなんだろう。

いずれにしても、登場人物のなにげない動作から、戦時中の呉市の街並や生活の数々、戦争の描写まで、あらゆるものに魂が宿っていて圧倒された。柔らかい絵なのに凄まじい執念、のんも「声の入ってない映像だけ見ても泣ける」と言っていたが、本当に絵に強烈な意思がある。

「戦争を描きたいんじゃなく、戦争の時代にも、自分たちと同じ時の流れがあることを描けたらと思いました」という監督の言葉が印象的だった。

映画は11月12日公開。

しかし、芸能マスコミはすごい。
挨拶のあと、写真撮影があって、その途中に、数人の記者が壇上の傍に忍者のように腰をかがめて待機、のんが壇上から去るときに、名まえのことや事務所のことなどの質問をすかさず投げかける。答えてもらえず去られてもめげない(めげてるのかもしれないが)メンタルの強さに感心するばかり。これはこれで執念なんだよなあ。
(木俣冬)