四国地区記者・寺下 友徳が選ぶ今年のベストゲームTOP5 

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 2015年の四国高校野球を一言で書き表せば「悪戦苦闘」。この4文字に尽きる。探求と徹底で、ある程度の実力差は埋められるセンバツでは21世紀枠・松山東(愛媛)の健闘が光った一方で、実力がより問われる夏は37年ぶりに4校初戦敗退。その屈辱をベースに始まった秋には一筋の光明も見えつつある。そこで四国地区からはあえて、そのテーマに沿い収穫と課題が如実に出た「ベストゲーム」5試合をピックアップして紹介していきたい。

5位:秋季四国地区大会決勝 高松商vs明徳義塾

秋季四国大会で優勝した高松商

試合巧者で上回った、付加価値高い29年ぶり四国頂点

 この数年は四国内で競り合いに持ち込めば秋の四国大会・今治西戦を除き、ことごとく試合巧者ぶりを発揮し、相手を倒してきた明徳義塾。春は県大会決勝で高知中央に打ち負け。四国大会1回戦では英明の打棒に3対9と大敗したものの、逆に言えば打撃力で上回らないと倒せないことが明徳義塾対戦相手の共通理解となっていた。

 しかし、高松商・長尾 健司監督はそれとは違う、「徹底」を貫く今治西・大野 康哉監督とも異なる手法で盟主を倒してしまった。四国内では突出している個の能力は活かしつつ明徳義塾先発・中野 恭聖のクイックの遅さを突く盗塁で相手のペースを乱す試合巧者ぶりも披露。

 個と戦術の融合を果たした26年ぶりの秋季四国大会頂点獲得は、付加価値が非常に高い。明治神宮大会と冬の練習を経て、彼らが起こすであろう化学変化は、今後の四国地区の高校野球にとっても興味深い事象とはるはずだ。(試合レポート)

4位:秋季愛媛県大会決勝 今治西vs新田

秋季県大会優勝の今治西

愛媛の常勝軍団・今治西の「ショッキングな」頂点獲得

 愛媛県内・四国内では抜群の勝負強さを発揮する今治西。その秘訣は昨年・一昨年の秋季四国大会・明徳義塾戦に代表されるように、先制されても自分から崩れることなく我慢強く戦い、相手がスキを見せた瞬間を見逃さず一気に突く一貫した姿勢にある。「練習は試合のように、試合は練習のように」。練習での緊張感と比較すれば試合での緊張は負担にならない。これが彼らの生命線になってきた。

 ただ、この試合についていえば、レポートにも記したように「すべきことをやりきれない」ミスが頻発。「守り勝つ」伝統の愛媛高校野球を体現してきた常勝軍団の「ショッキングな」頂点獲得は、2017年に「愛顔つなぐえひめ国体」で全国の強豪を迎える今後の野球王国を考える上においても、大きな示唆を与えるものだったと感じている。(試合レポート)

[page_break:3位:秋季香川県大会2回戦 小豆島vs高松南 / 2位:第97回選手権1回戦 明徳義塾vs敦賀気比]3位:秋季香川県大会3回戦 小豆島vs高松南

この試合、同点二塁打を放った石川 生強選手(小豆島)

小豆島が「enjoy baseball」メソッドを破った瞬間

 2015年、四国のスポーツ界では「メソッド」という言葉が大きなキーワードになった。起源は元サッカー日本代表監督・岡田 武史氏がオーナーに就任した四国サッカーリーグ所属「FC今治」が掲げた「岡田メソッド」。育成・指導システムなどあらゆる分野でまず型を作り、そこを打ち破る力をもってクラブを飛躍的に成長させていく手法である。

 実はこの秋そんなメソッドをFC今治より一足先に破ったチームがある。2010年4月より杉吉 勇輝監督が就任以来一貫して「enjoy baseball」を掲げてきた小豆島高校野球部だ。ただ、この試合では1回裏に3点を先制された劣勢から指揮官の檄をきっかけに選手たちが気迫を前面に出して戦い、逆に6点を奪って逆転勝ちし、香川県大会初制覇への道筋を作った。

 あえて「enjoy baseball」を破りにいった指揮官と、そこに応えた選手たちの意識の見事な合致。樋本 尚也主将(2年)も「この試合で勝てたことが大きかった」と話す高松南戦なしに秋の小豆島快進撃は語れない。(試合レポート)

2位:第97回選手権1回戦 敦賀気比vs明徳義塾

飛田 登志貴投手 (明徳義塾)

センバツ王者との実力差埋めた明徳義塾の真骨頂と限界

「名勝負数え歌」高知との5年連続1点差決勝戦を制し、6年連続甲子園へ歩を進めた明徳義塾。が、甲子園初戦の相手はセンバツ王者の敦賀気比。昨年までのエース・岸 潤一郎(2014年インタビュー)のような絶対的エースがいないこともあり、厳しい展開が容易に想像できる中で、馬淵 史郎監督は敦賀気比エース・平沼 翔太(2015年インタビュー)の立ち上がりと飛田 登志貴・七俵 龍也・佐田 涼介3年生3投手の継投策に活路を見出そうとした。

 試合は3回までに3得点、飛田も5回まで無失点という中盤までは狙い通りの流れに。しかし、中盤からは打線も沈黙し9回表の勝ち越し絶好機も併殺。佐田も終盤相手打線を封じきれず延長10回で力尽きた。

 対戦相手の強みを消す明徳義塾の徹底度の高さ。彼らの真骨頂が随所に出た反面、一定の個人能力と打撃力なくしてはやはり甲子園では勝てない。夏の甲子園初戦連続勝利記録「16」でストップという事実の裏に、そんな「限界」も見えた一戦だった。(試合レポート)

[page_break:1位:第87回選抜大会1回戦 松山東vs二松学舎大附]1位:第87回選抜大会1回戦 松山東vs二松学舎大附

亀岡 優樹投手(松山東)

綿密に組まれた「準備」で成し遂げたセンバツ初勝利

 三塁側アルプス席を埋めたOB・OG・関係者を歓喜に導いた松山東の大快挙。その裏には綿密に組まれた「準備」があった。2014年秋の四国大会初戦で鳴門に完敗し実力不足を痛感すると、米田 圭佑主将と親交があった川中 大輔氏を外部トレーナーとして招聘。川中トレーナーは松山東の練習時間に合った体幹トレーニングばかりでなく、甲子園ではタイムスケジュールに則した行動やアップ方法も伝授。彼らが落ち着いて試合に入れた理由も、「いつも通り」が完全に身に付いていたからである。

 そして21世紀枠四国代表に決まった時点から可能性を信じ徐々にデータを集めていた「対戦校研究」も勝利への大きなファクターに。6回表・亀岡 優樹の2点二塁打につながった二松学舎大附・大江 竜聖投手(2年・2015年インタビュー)の癖を完全に見抜いたデータ班長・向井 飛雄(2年)の話を聴いたときに、背中に走ったゾクゾク感は今でも忘れることができない。(試合レポート)

 当初は四国4県のバランスも考慮してピックアップしようとしたが結局はこの5試合に。徳島県絡みの試合は残念ながら選べなかったことも付け加えておきたい。

 さて、2016年は四国地区高校野球にとってどんな年になるのか?パワー野球が全盛となる中、全国で勝つには実力を付けると同時にさらなる「選手が考え、判断する力」が求められるはず。その意味でも2015年は間違いなくターニングポイントとなる年だし、そうしなければいけない。

(文・寺下 友徳)

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