14日のライブドア株の上場廃止を受け、社員の名刺に刻印された証券コードも消される(撮影:吉川忠行)

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「14日付で上場廃止となります。これを踏まえて1点皆さんに徹底していただきたいことがあります」──。

 ライブドア株の上場廃止を2日後に控えた4月12日、同社の経営企画本部から一通のメールが全社員に向けて送られた。社員の名刺の左上部分には東証マザーズのロゴと証券コード「4753」が印刷されている。担当者は、「4月14日以降、このロゴが入った名刺を使用するのは決して好ましくありません」と説明し、各自2重線を入れて消すよう指示した。

 ライブドアの名刺は、たて幅が普通の名刺の3分の2という独特のデザイン。証券コードの他に、企業ロゴの「ドア」の隙間から覗く前社長の堀江貴文被告(証券取引法違反の罪で起訴)の顔も希望に応じて印刷できるなど、社風をアピールする工夫が名刺に盛り込まれていた。

 「名刺がきっかけになって、会話がスムーズにはじまり、商談が成立したということは何回もありました」堀江被告も、自著「稼ぐが勝ち」(光文社刊)で、“成功秘話”として個性的な名刺をこう紹介している。

 粉飾決算の発覚による市場からの退場で、株価至上主義を強調し続けた“堀江ライブドア”の残像が社内からまたひとつ消えた。

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 ライブドアが上場していたマザーズ市場は、バブル崩壊後の新たな産業の担い手を産み、育てる「母」として1999年11月に開設された。東証のホームページでは「高い成長可能性を有していると認められる企業を上場対象としています」と紹介している。2000年春に上場を果たして以降、瞬く間に時価総額を最高9353億円(2004年1月)まで上げ「マザーズの雄」としてもてはやされる一方、前代未聞の株式100分割を断行するなど、常に「アウトロー」な印象を与えづけてきた。

 東証は、マザーズ上場会社に4半期ごとの業績開示を義務づけている。「市場1、2部の上場会社よりも高い」(東証HP)透明性が“売り”の市場にいながら、ライブドアは業績を粉飾し、退場を命じられた。

 市場での最終取引日にあたる13日、ライブドア株の終値は94円。「世界一」を目標としていた時価総額は986億円と、事件前の7分の1まで落ち込んだ。一方、売買が成立した株数を示す「出来高」は、前日の2倍以上の4476万株まで膨む大商いとなった。

 05年9月末時点の発行済み株式総数は10億株、株主総数は22万人にのぼる。上場廃止となった株式は、証券保管振替機構(通称・ほふり)から各証券会社を通じて株主に返還される。大量のライブドア株の返還作業が大きな負担となるのを見すえ、証券大手の野村、日興、大和は3月上旬までに、整理ポスト入りした株の口座振り替えを停止。証券業界にも動揺が広がった。

 株主は14日以降、手持ちの株を売却するには、個別に証券会社を通じて買い手を見つけなくてはならない。税制上も、売却益に対する課税は20%(所得税15%、住民税5%)と上場株の2倍、売却損が出た場合も3年間の繰り越し控除が受けられないなど、負担が重くのしかかる。

 東証の西室泰三会長は、上場廃止を決めた会見で「ギリギリになって気づいたような株主の救済まで考える必要はない。売却する気持ちのある株主が売却できる期間として(14日までの売買期間)は十分」とビジネスライクに語った。「今保有しているのは、投資家という名の投機家ではないか」との認識も示している。

 ライブドアは中間決算の3月末で株主名簿を確定。判明した株主数と保有状況に基づき、株券を返還する。同社員によると、6月に予定している臨時株主総会の会場は、多くの参加者を想定し、千葉市にある幕張メッセを検討しているという。

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 最終売買日の13日、「ライブドア株主被害弁護団」(団長・米川長平弁護士)は5月末までにライブドア旧経営陣と法人を相手取り、損害賠償請求訴訟を起こす方針を固めた。米川団長によると、粉飾決算を開示してから東京地検が強制捜査に着手した日(1月16日)までに同株を取得した人を対象に、約1700人が原告として参加する。

 ライブドアの平松庚三社長は13日夜、同社が運営する動画ニュースに生出演。くしくも堀江被告がアピールし続けた無料IP電話「スカイプ」で社内を結び、ヘッドホンを頭につけた平松社長は4分半にわたって、株主や関係者に謝罪の弁を述べた。

 だが、内容は「コーポレートガバナンス(企業統治)とコンプライアンス(法令遵守)体制の強化を図り、再発の防止に取り組んで参りたいと思います」とこれまで会見で述べてきた文言の繰り返し。株主に対する具体的な対応や今後の方針を示すことなく、信頼性に課題を残したまま「マザーズの雄」は市場から消えた。【了】

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