携帯電話販売会社買収にからみ、ライブドアから協力を求められたある経営者は「投資会社・ライブドア」を目の当たりにしたという=8日、東京タワー特別展望台から望む六本木ヒルズ(撮影:吉川忠行)

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「田中通商の買収でBさんの名前が挙がっている。是非、力になって欲しい」

 2004年4月、大手携帯電話販売会社の最高幹部を務めるB氏は、六本木ヒルズ38階にあるライブドア(LD)の商談室に呼ばれ、初対面の担当者からこう持ち掛けられた。

 LDは前月に、ボーダフォン携帯電話販売会社「クラサワコミュニケーションズ」(現ライブドアモバイル)を株式交換で完全子会社化したばかり。同業界に参入しても、成功するには、ボーダフォンだけでは足りず、「ひとり勝ち」のNTTドコモの販売権を必要と判断したのか。その直後、LDは、破産宣告を受けたばかりの田中通商を買うことで、同社が持つ北海道から九州まで全国各地のドコモ販売権を取得しようとしていた。

 しかし、ドコモ販売権は一番基準が厳しく、ドコモ側の一存で決まるため、買収したところで得られるものではないのは業界の常識。田中通商をめぐっては、すでに権利の譲渡先が決まっていた。「譲って欲しい」と頼むLDに対し、B氏は「LDが田中通商を買収しても、現時点でドコモの販売権を手に入れるのは99.9%ありえない」と丁重に説明。その後、接触を求めてくることはなかった。

 B氏は、一度きりの交渉を振り返ると、つじつまが合わないことが一つあるという。六本木ヒルズで応対したのは、LD系の信販会社幹部。「なぜ信販会社が携帯販売事業の交渉をしてくるのか不思議だった」と回想しながら首をかしげた。同幹部は、会談の席で「弊社は、非常に多くの案件から選んで、毎日、買収を進めている。それが、われわれの仕事の中で大きなウエートを占めている」と説明したという。金融部門だけでなく、グループぐるみで買収案件を探しまくる奇妙な企業風土が印象に残った。

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 2月22日、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑で、LD前社長の堀江貴文ら旧幹部4人が再逮捕、同前代表取締役の熊谷史人が新たに逮捕された。クラサワなど2社を株式交換で買収した際、自社株を傘下の投資事業組合などを経由させて売却。会計基準では「資本」に計上しなければならない売却益を、LD本体や関連会社に還流し、04年9月期連結決算の「売上高」に計上した嫌疑がかけられている。

 クラサワ買収を発表した03年11月19日には、LD株式の100分割も発表。翌月に分割が行われると、年末から年明けにかけて15営業日連続でストップ高を記録。一時8倍に膨らんだ株価を武器に、バリュークリックジャパン(現ライブドアマーケティング)や日本グローバル証券(現ライブドア証券)など次々に買収を成功させた。

 B氏によると、当時クラサワの買収話は販売業各社にも持ち込まれていたという。クラサワは、ボーダフォン販売店を全国に40店舗持つものの、業界関係者から見れば、小粒の店が各地に散在し、採算が取りにくい状況。「精査すれば買収は無理があるように見えた」と振り返る。

 その一方で、B氏は「パッと見れば『伸び盛りの携帯電話ビジネスで、全国にネットワークを持つ会社』。IR(投資家向け広報)上は非常にいい文言が並べられるので、LDにとっても都合が良かったのでは」と話す。仮にLDが自社株の株価つり上げを図ったのだとすれば、クラサワは前代未聞の株式100分割発表にそえる「花」として、投資家からの理解が得られやすい買収案件だったかもしれない。

 「よく言えば若さと情熱にあふれている。悪く言えばハチャメチャなことを言っている」。B氏は、急成長を遂げるインデックスが、明確な事業シナジーを示す「大人の交渉」で近づいてくるのに比べ、「いくらで買えるか」と買収ありきで攻めてくるLDの大胆さに驚いた。その一方で、「自分が買われる側だったら、どうやって高い値段で買ってもらうか考えたと思う」と、LDに救済を求める経営者の心理にも理解を示す。