ライブドアグループの収益を支える金融部門の入り口。最高財務責任者だった宮内亮治が作った「挨拶励行」の張り紙が、営業から戻る「スーツ軍団」を今も迎えている(撮影:吉川忠行)

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「挨拶励行(あいさつれいこう)」と毛筆体で書かれた張り紙のあるドアに、早朝からスーツ姿の社員が入っていく。「おはようございます」、「おかえりなさい」、「お疲れさま」──。

 新入社員に「スカイプ(メッセンジャー)」や「全社メーリングリスト」などネット上のツールを紹介し、「社内のコミュニケーションは全てPCで」と指示するライブドア(LD)で、金融部門は独特の雰囲気を醸し出している。六本木ヒルズ38階のエレベーター前では、カジュアルな格好の社員たちの中に、腰を45度以上曲げて訪問客を見送るスーツ姿の宮内亮治ら担当者の姿がよく見られた。

 LDの金融部門は、最高財務責任者だった宮内が逮捕まで会長を務めた中間持株会社「ライブドアファイナンシャルホールディングス」に、同じく逮捕された中村長也が社長だったライブドアファイナンス、ライブドア証券、貸金業、不動産担保ローン業などの子会社がぶら下がる。事件発覚直前の06年9月期第1四半期(05年10─12月)業績によると、同部門が連結売上高の6割強、連結営業利益の9割弱を稼ぎ出した。

 特に、資金調達など企業に金融面での支援を行う投資銀行業務部は、MSCB(転換価格修正条項付き転換社債)引き受けで国内シェア第5位、新株予約権引き受けで同第2位と、大手を差し置いて急成長している。同部の最前線は六本木ヒルズの一角を占め、若い社員が『会社四季報』をめくり、“意中の企業”に片っ端から電話をかけ営業を行う。M&A、資金調達、株式公開などのアドバイザーになりたい、とりあえずお話を聞かせていただきたいと売り込む。社員1人あたり毎日約10件かける電話の中で、実際に会う約束を取り付けられるのは2、3件ほどという地道な作業が続けられている。

 「私も宮内さんや熊谷さんに無理矢理、連れてこられて(笑)」と入社の経緯を語るのは、トップ逮捕後に金融部門の統括を任された担当副社長の清水幸裕(34)。破たん直前の北海道拓殖銀行から日興シティグループ証券に移籍。巨大組織では満足できず、スピード感と若いパワーを求めて05年3月、取引先として出入りしていたLDに入社した。LDの金融部門には、同様の理由で、外資系や大手の金融機関から「高所得」、「安定」、「ブランド」を捨てた人材が、次々と集まってきたという。

 ライブドアグループをめぐる証券取引法違反事件で、金融部門からは宮内、中村の2トップと、業務上で接点の多かった熊谷史人が逮捕された。一連の不正な株取引、経理操作など同社の“錬金術”の実態が暴かれ、社会からの信頼は失墜した。LDでは、一定額を超える取引の際に、経済面での緻密(ちみつ)なリスク判断と顧問弁護士による法的チェックを逐一行ってきたはず。現場の社員の多くは、報道で初めて知る“錬金術”の存在に驚かされた。

 現在、新体制の構築に奔走する清水は「法的、経済的には大丈夫だけど、『社会からはこのように見られますよ』『社外にこのような影響が及びますよ』という観点が欠如していた」と、事件に至った背景を分析した。事件の首謀者に挙げられた宮内の人柄について、清水は「厳しいところもあるが、本当に人のことを考えてくれる人。頭も切れるし、仕事も速い。なにより信頼が厚かった」と評する一方で、個人レベルでの自己責任を超えた全社挙げてのコンプライアンス体制の強化を強調した。

 事件をきっかけに、不正とは直接関係のない支援先の企業にまで影響が及んでいる。営業の電話でも、「ライブドア」の名前を出すだけで、面会をためらう企業も少なくない。刑罰が確定した法人は5年間、証券会社の親会社になれないため、金融部門の “屋台骨”であるライブドア証券の持ち株比率引き下げや切り離しの判断が今後の焦点にもなる。

 「ずっとこんな状況が続くわけではない」「この1、2カ月を頑張って乗り切れば、復活できる」。清水は現場の社員にこう言葉をかけ、励まし続ける。直近の有価証券報告書によると、金融部門の社員数は728人。現時点では、事件を理由に退職する動きはあまり見られないという。(敬称略・連載おわり)【了】

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