情事の舞台となった護衛艦「まきなみ」

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 2月19日、海上自衛隊の大湊基地(大湊むつ市)を母港とする護衛艦「まきなみ」乗組(20代男性・海士長)が同僚女性隊員と勤務中の艦内でわいせつ行為に及んでいるところを上司にみつかり、処分されるという事案があった。同大湊基地に属する1等海曹はこう証言する。

「見つかるほうも見つかるほうだ。でもそれを見つけた上司もまた上司だ。わざわざ艦長や上級司令部に報告することか? 先任伍長(註:艦内の規律の元締めでもある下士官のトップ)の力が弱いからこうなる。艦の結束、団結があればこんなことは表には出ない。強姦したならともかく、両者“同意の上”というのだからわざわざ公にすることもない」

 今回発覚したこの事案、ネット上では「最近の海自は弛んでる」「職場で(性行為を)するな」という批判的な声がある一方、「同意の上だからいいだろう」「若いなあ。上陸するまで待てなかったのか」など同情的な声も見受けられる。

 はたしてこの事案、いったい何が問題なのか。詳細を追った。

処分理由は「私行上の非行」と「職務専念義務違反」

 護衛艦「まきなみ」が属する大湊地区の隊員らの複数の話を総合すると、20代の男性海士長が艦内で哨戒(見張り)中、後輩女性隊員から「相談がある」との声掛けを受け、哨戒配置を離れ、つまり指定された勤務場所を離れ別エリアへと2人で移動。ここで男性隊員が女性隊員の話を聞くうちに「そういうムード」(大湊地方隊・2等海曹)になり、両者合意の上で性行為に及んでいたところを上司が発見、男性、女性とも懲戒処分に至った──というものである。

 そもそも自衛隊の各部隊ではその施設内で性行為に及ぶことは「私行上の非行」として許されない。陸海空の各自衛隊部隊はもちろん、防衛大学校などの学校施設も同様だ。今回の事案では、男性、女性の両隊員のもっとも大きな処分理由がここにある。

 たとえ護衛艦「まきなみ」が入港中、男性、女性の両隊員が「休日」であったとしても艦内で性行為に及んでいる様子が同僚らに見つかれば「処分対象になる」(防衛省海上幕僚監部広報室)という。つまり性行為は勤務時間外に艦の外、自衛隊の施設外で行なえということだ。

 今回の事案では、男性は「停職8日」、女性は「公表基準に達しないものの懲戒処分」(海幕広報室)になった。男性、女性それぞれ処分に軽重が見受けられるのは、ひとえに男性が哨戒配置を離れたという、「職務専念義務に反して私行上の非行行為を行っていたこと」に尽きる。

 もっとも女性側の処分も軽微というわけでもない。自衛隊法46条では、懲戒処分とは免職、降任、停職、減給、戒告の5処分であることから、女性の処分は、男性の停職8日よりも下回る日数の停職処分もしくは減給、戒告であることが察せられる。

 懲戒処分は口頭注意などと違い、「自衛隊員を続けていく上で懲戒処分された経歴はその記録について廻るので当該隊員にとっては不利益を被ることになる」(海幕広報室)という、とても重い処分だ。

35年前の自衛隊なら問題なかった?

 こうした流れに、“下士官のエリート”養成を目的としていた海自旧少年術科学校出身の50代OBは異を唱える。

「若い20代の海士なら有り余る精力が漲っていて当然だ。自衛隊入隊する女性もきっと同じだろう。自分が広島県江田島の少年自衛官時代、女性教官のスカートの中を手鏡で覗いても、女性教官は『何してんのよ!』と頭を叩いて怒って終わりだった。上に告げ口されることもなかった。なかには教務時間中(註:自衛隊学校の授業時間、公務員としては勤務時間)女性教官やグラビア本を取り出して自慰行為に耽っていたヤツもいる。どうってことはない」

 この自衛隊OBが自衛隊に在籍した約35年前と違い、今、自衛隊では暴力事案、モラハラ、セクハラ、性に纏わる不祥事を隊内で認める雰囲気にはない。

 だが、自衛隊には未だ冒頭部で紹介したような前時代的な発想を持つOBが下士官兵の元締めクラスに蔓延っていることもまた事実だ。不祥事は発覚すれば幹部自衛官のせい、上に報告した者が悪いという、旧軍の下士官兵同様の歪んだ「下っ端根性」が事案の遠因にあることは間違いない。

 不祥事案が詳らかに表に出てくる時代だからこそ自衛隊の自浄作用が機能しており、そこに国民は信頼を寄せる。こうした意識を下士官以下の隊員たちが持つには、まだまだ時間がかかりそうだ。

(取材・文/秋山謙一郎 写真/海上自衛隊HP)