ドルトムントがチャンピンズリーグ(CL)無傷の4連勝で、1次リーグ突破を決めた。ブンデスリーガでは5連敗中でまさかの17位に沈んでいる一方、CLでは4戦13ゴールと圧倒的な強さを見せつけている。同じチームとは思えない、なんとも不思議な現象が続いている。

 そんなチームにあって、香川真司はクロップ監督から重用され、そしてファンからも相変わらず愛されているように見える。4−1で勝利したガラタサライ戦でも、後半18分に退くと、大きなスタンディングオベーションが送られた。他の交代選手に比べてひときわ大きな拍手は、純粋な彼への評価だろう。戻ったベンチでクロップは、香川を強くハグし、そのプレイを称えた。

 マンチェスター・ユナイテッドに移籍した3シーズン前のプレイと比べると、どうしてもキレと感覚が戻らないように見える。例えば立ち上がり、ロイスから強めのパスを受けたが、コントロールしきれなかったシーンがあった。以前だったら、ワンタッチでディフェンスの間を抜け出し、あっというまにGKと1対1になる。そんなイメージがわくのだが、最近はそういうシーンがほとんど見られない。ゴール前に強引にドリブルでしかけることも少なくなった。映像で見るとそれなりにプレイしているようにも見えるが、スタンドで見る限り、迫力に欠けている気がしてならない。

 それでも相変わらず高い評価を受けているのには理由がある。香川は2トップに近い形で、4−2−3−1のトップ下でプレイすることがほとんどで、前線のオーバメヤンのスピードや、ロイスの技術とシュート力を生かす、パスの出し手として機能している。現状、チームにパスを出せる選手がいないという台所事情もある。この日の先発を見ると、ボランチのベンダーとケールは2人とも守備的なタイプ。右MFのミキタリアンはボールを持てるが、仕掛けを得意とするタイプで、香川の存在が貴重なものになるというわけだ。

 とはいえ、香川はゴールへの意欲を失ったわけではない。

「勇気を持って、打開しなきゃいけないですし、リスクをおかすことが自分に課されているのだと思います。勇気をもってリスクをおかしていけるかは、次の試合で試されると思います」

 99〜00シーズン以来の5連敗という非常事態にも、クロップへの評価は高く、監督解任などという話は全く聞こえてこない。それでも勝っている時期には見られなかった類の報道が出てくる。今週、話題になったのは練習中にクロップが香川の胸ぐらをつかんでいるように見える写真だ。ビルト紙の有料電子版に掲載されたその写真は、多くの日本メディアも取り上げた。香川自身の目にも入った。本人が苦笑いしながら説明する。

「そもそもあの写真はバイエルン戦の前の練習ですし、戦術練習でどういう守備をするか(を説明する中でクロップが香川のユニフォームをつかんでいた)。うまくああいう形で写真を撮られましたけど、こういう時期だからこそ出る報道なんじゃないかなと思います」

 考えてみればこういった写真が出ること自体、ドルトムントの主力である証ではある。

 とはいえ、早々にこの状況を脱したいことは間違いない。CL1次リーグ突破を決めたことで、ドルトムントにとってはブンデスに集中できる状況が生まれた。週末は昨季2戦2敗のボルシアMGとホームで対戦する。

「次の試合は全てをかけていつも以上に戦わなきゃいけないですし、絶対ホームでサポーターに勝利をプレゼントしなきゃいけない。メングラ(ボルシアMG)もすごく調子が良くて手強い相手ですけど、ホームでやれるところをみせないと、また中断に入っちゃいますし、その前に必ず勝利したい」

 香川はドルトムントを救う存在にならなくてはならない。この日の盛大な拍手はそんな期待が込められていたようにも思えた。

了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko