子どもの未来について僕たちができることは?「TEDxKids」オーガナイザーに聞いてみた。
「ideas worth spreading(広める価値のあるアイデア)」というスローガンの元、テクノロジー、エンターテイメント、デザインをはじめ、様々な分野の優れたアイデアやパフォーマンスを、プレゼンテーションという形で共有するアメリカの非営利団体「TED」。

2006年にプレゼンテーションを動画で配信する「TEDTalks」をスタートしたことで、世界で広く知られるようになった。
2012年からNHKのEテレ「スーパープレゼンテーション」という番組で、TEDTalksを放映するようになり、日本でも知られるようになった。「TED」の精神に基づき、プレゼンテーションイベントを企画・運営する団体「TEDx(テデックス)」は現在130カ国以上に存在し、日本では2009年に世界に先駆けて発足された。

今回は、ご自身のガンをきっかけに「TEDx」の活動を開始し、子ども達にもっといろんな事を伝えていきたいという思いから「TEDxKids(テデックスキッズ)」を日本で初めて開催した青木竜太氏(写真右)に話を伺った。

聞き手は、「子育て世代の生命保険料を半額にして、安心して赤ちゃんを産み育ててほしい」という思いで開業し、業界で初めて付加保険料の開示をするなどしてオープンな情報公開につとめているライフネット生命の川端さんだ。

青木氏は20歳でITベンチャーを立ち上げ、その後プログラマーとして活動。2009年にガンを発病したことをきっかけに、「TEDx」の活動を開始した。その後、2011年に日本で初めてとなる「TEDxKids」を開催。同年には「TEDx」の経験を活かし、企業のイノベーションを支援するデザインコンサルティング会社「VOLOCITEE Inc.」を起業する。

――青木さんはガンをご経験されたということですが、その前と後では、どのように生活が変わりましたか?

20歳でITベンチャーを立ち上げてから仕事漬けの日々でした。前職では事業部の数字を見ながら、個別のプロジェクトをマネジメントして、夜中に自分の担当分のプログラミングをする。高度な技術を使い、世界にはないまったく新しいものを作れ、仕事としては充実していたのですが、正直、子育ては全然できてなかったです。

2009年の10月頃に、重い痛みを感じて病院で検査をしたら「ガンです。下手すると全身転移しているかもしれません」と言われたんです。「2週間後、診断結果がでた時には余命数ヶ月かもしれません」と脅してくるんですよ(笑)。

今だから笑って話せますけど、そのときは衝撃でした。会社に相談して、診断結果が出るまでの2週間休みをもらいました。その間、久しぶりに子ども達と朝から晩まで遊んでいると、子どもが「パパといる時間が幸せ」って言うんです。

その時「あ、マズい。俺は今まで何をしていたんだ」と。もし助かるならもっと子どもと一緒にいたい、もっともっと伝えたいことがあると思ったんです。

結局ガンは初期のステージだったんですが、そこから何をしていこうかと考えだしました。当時、自分の病気以外にも友人の自殺などもあって、「人生は短いし、いつ死ぬか分からない。であれば子どものために何かやりたい」と思って調べていたところ、「TED」に出会いました。

東京でもTEDx が開催されていることを知り、そこにボランティアとして参加するところから自分の「TEDx」の活動が始まりました。

――「TEDTalks」を拝見して、もっと沢山の子どもに見て欲しいと感じました。個人的にシェーン・コイザンの「『今でもまだ』―イジメに悩む美しい君たちへ」というプレゼンテーションが印象的でしたが、他にも子ども達に見て欲しいプレゼンテーションはありますか?

沢山ありますが、2013年11月4日に開催した「TEDxKids@Chiyoda 2013」での、社会学者の内藤朝雄さんの「いじめの社会論」は、感情論で語られがちなイジメを社会学の見地から研究されていて興味深かったです。

内藤さん曰く「日本政府がイジメを発生させるための装置を作ってる」と。学校という全体主義的で、閉鎖的なコミュニティっていうのは、人間の凶暴性を引き出してしまうそうで、普通の子どもが、学校という箱に入ることで変わってしまうんだそうです。元々異常な人がイジメているわけではないと。

「TEDxKids」のメインターゲットは「中学校に入る前の子ども」です。社会のレールに乗る前に、世界のあらゆる可能性を知り、色んなコミュニティがあるということを知ってもらいたい。

あるコミュニティでイジメられても、他のコミュニティでは受け入れられるかもしれないという感覚を持ってもらいたいんです。簡単に言うと「世界には色んな人がいる」ということを分かって欲しいですね。

――「TED」が子どもにとって、もっと身近な存在になるといいですね。

そうですね。今後「TEDx Club」ていうのを広めたいと思っています。サッカークラブのような部活感覚で、全国の小学校に「TEDx Club」が入ったら面白いなって。「TEDx」は完全にボランティの活動なんですが、例えば、プログラミングができるお父さんが子ども達に教えてあげるなど、大人も子どもも、自分たちができることを持ち寄って、ディスカッションするところから始めたい。そして新たな発見、気づきや学び、そして取り組みをプレゼンしていくようにできたら最高ですよね。

子どもが興味を持ったことを、様々な親たちがサポートできる場になればいいと思っています。また、「TEDx」は全世界に繋がっているので、日本の小学校で話した内容がアフリカの小学校で注目される、なんてこともありうると思います。

地域の子どものアイデアが世界に広がる、という経験を通して、世界に対する意識も変わっていくと思います。

――「TED」はプレゼンテーションを見るだけではない、ということですね。

「TED」はアイデアを広めていくプラットフォームでありながらも、「人の意識や行動を変え、ライフスタイルを変えていき、最終的にはよりよい社会システムを変革していきたいという思いでやっています。

でもどんなに素晴らしいアイデアやストーリーをシェアしても、人は忙しい日々に戻るとその感動を忘れてしまうことも多い。これは自分たちで行動で証明するしかないと、スピーカーのアイデアや、参加者の取り組みを支援するためにTEDxKids@Chiyoda内に「ラボグループ」というものを作ったんです。

その最初の取り組みとして、2011年の登壇者の1人である野村恭彦さんという方のアイデアを元に、次のような子どもが遊びを通じて「対話」の方法を学ぶカードゲームを今作っています。

まだ調整中なんですけど、各ステップで「しりとりをしましょう」「プレイヤーは1人3票持って好きなアイデアに投票する」など「対話」を促進する指示がでます。

また「問い」を掲げるカードもあって、例えば「未来の車はどうなる?」とか何でもいいんですが、自分達でテーマを決める。その「問い」に対して、色んなアイデアを出しあって、新たな視点を得て、それを拡張させるという体験をしてもらう。子どもは先入観がないから、色んなアイデアを出してきます。

今後このカードゲームは、無料で公開する予定です。例えば先程お話しした「TEDxClub」などでも使ってもらえるといいなと思っています。大人の会議で使ってもらってもいいかもしれませんね。このゲームをやると、大人も子どもも、すごく盛り上がります(笑)。

――カードの内容が幅広くて面白いですね。例えば「じゃんけんして勝った人が○○する」というのは子どもが好きそうです。

様々な切り口で「対話」をすることで、相手を通してまた違った視点が見えますよね。いつもと違った視点で行動をして物事を解決できたら、イノベーションを起こしたことになります。イノベーションを起こすための簡単なツールが「対話」なんだ、と感覚的に分かってくれると面白いなって。

「TEDxKids」のメンバーは、子ども達に対して「問いかけ」をするように意識しています。問いかけることで思考が始まり、自発性が喚起される。みんな色んなアイデアを持っているんだけど、それを出せない環境っていうのはよくないですよね。

――本来、保険もそういう過程をへて商品が作られるといいなと思います。ライフネット生命には、病気やケガをして働けなくなった場合に給付金を受け取れる「就業不能保険」というものがあるのですが、これは「本当に人が困る状況ってなんだろう」ということを追求して開発された保険です。傷病で「働けなくなった時」という状況は、誰しもが困ることなのではないかと。

様々な立場の人たちとの「対話」を通して、その方たちの価値観、ニーズ、習慣などを肌感覚で理解することにより、新しい助け合いの仕組みが作れると私も考えています。

――本日はありがとうございました。

聞き手:川端麻清(ライフネット生命 マーケティング部 ウェブライター)
5才の子供がいるワーキングマザー。ライフネット生命の子育て部所属。

今回のような育児インタビューは、新米パパママのための特集『育児はいつも、波乱万丈( ̄▽ ̄)』というコーナーで連載中です。次回もお楽しみに!

■記事協力:ライフネット生命
http://www.lifenet-seimei.co.jp/

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■関連リンク
特集『育児はいつも、波乱万丈( ̄▽ ̄)』
TEDxKids@Chiyoda


取材・文章:志水理恵子 企画・編集:谷口マサト