オーストラリアや英国の情報機関が、世界最大のPCメーカである中国レノボ社のPCの利用を禁止していたとオーストラリアの有力紙が報じた。外部からアクセスできる「細工」がされている可能性があるというのが、その理由だ。

中国の家電製品をめぐっては、過去にも華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)が米国でスパイ疑惑を指摘されたことがあり、波紋を広げそうだ。

5か国の情報・防衛機関で「極秘」「機密」ネットワークへの利用を禁止?

今回の「レノボ禁止令」は、オーストラリアの著名経済紙「オーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー」(AFR)が2013年7月27日に報じた。オーストラリア、米国、英国、カナダ、ニュージーランドの5か国の情報・防衛機関での「極秘」「機密」ネットワークにレノボ製品を使用することが禁じられたという。特に英国とオーストラリアについては、両国の複数の防衛・情報筋から得た話として、「機密ネットワーク」でレノボ社PCの利用を通じる通達が書面で出されたとAFRは報じている。

AFRによると、レノボの回路から典型的な脆弱性を超える「悪意ある修正」が発見され、PCの利用者が知らないところで、外部からアクセスされる可能性があるという。いわゆる「バックドア」(勝手口)と呼ばれる手法だ。

英高級紙のインディペンデントも7月29日になって、AFRの報道を紹介する形でMI6やMI5といった情報機関がレノボ製品の利用を禁止したと報じている。

オーストラリア国防省は事実関係を否定

レノボは米IBMのPC部門を2005年に買収。レノボ株の34%を関連会社のレジェンド・ホールディングス社が保有し、さらにレジェンド社の最大株主は政府機関の中国科学院で、レジェンド社株の38%を保有している。これらの「禁止令」が出されたとされるのが2000年代の中頃で、レノボによるIBMの買収と時期が一致している。

なお、オーストラリア国防省は7月30日になって、AFRの記事についてコメントを発表し、

「報道は事実として正しくない。国防省では機密ネットワーク、機密でないネットワークにかかわらず、レノボ社や同社製品を禁止していない」

と事実関係を否定している。

レノボオーストラリアの官公庁とは強い関係を保っており、今回の展開には驚いている」

レノボも7月29日に報道各社に対して声明を発表し、

「販売の制限に関する通知をうけておらず、我々はそのような質問に対してお答えする立場にはない」

とした。また、上場企業であることを理由に、

「我々は株主と世界中の利害関係者に対して非常に開かれており、透明性が高く、説明責任を果たしている」

と主張。その上で、一連の報道については

「事業を行っている100か国以上で政府の規制を常に満たしており、それを上回ってもいる。レノボオーストラリアの官公庁とは強い関係を保っており、今回の展開には驚いている。顧客データのプライバシーはレノボグルーブ中で最優先事項だ。我々は製品のみならず、公的・私的セクターの世界中の主要顧客との関係においても自信を持っている」

と直接的ではないにせよ反論している。

報道されたこれらの「細工」は、仮に事実だったとしても中国に特有のものではない。例えば08年の5月には、欧州の半導体チップメーカーが、外部からの指令で自らの機能を無効化させる、いわば「自殺機能」を備えたチップを製造し、フランスの防衛産業で活用されたことが報じられている。