■ポゼッションによる攻撃を磨き続けた後半戦

J1リーグ戦は広島のJ1リーグ優勝が決まり、仙台は2位が確定した。開幕から快進撃を見せてきた仙台だったが、シーズン終盤はプレッシャーも垣間見え、残念ながら優勝は逃した。優勝を狙う仙台はシーズンを戦いながら、サッカースタイルを進化させてきた。

シーズン後半戦優勝争いをするにつれ、仙台の戦いぶりは変わってきた。昨シーズンの仙台のイメージが強い人にとっては仙台は「堅守速攻」のチームというイメージだろうが、今シーズン後半戦の仙台はそういうチームではなかった。前半戦で見せた前から激しくプレッシャーに行き、ショートカウンターを狙うスタイルとも違うスタイルになった。

■サッカーの質を高めたいという、監督・選手の思い

後半戦はポゼッションで相手を崩そうとする場面が増えた。第26節神戸戦、第27節清水戦の退場者が出るまで、第30節磐田戦、第31節C大阪戦などはそうした色彩が濃く、仙台の方がボール支配率が高く、パスで相手を崩そうとした。

第30節磐田戦での赤嶺の先制ゴールは特にそれが色濃く出た得点。関口訓充が右サイドで相手選手を引き付けて中盤に大きなスペースを作り、関口からパスを受けた松下が、そのスペースへパスを入れると、スペースに富田が侵入。菅井が前線に上がって富田から縦パスを受けると、菅井が相手GKと交錯。こぼれ球を赤嶺がゴールに押し込んだ。パスで相手のポジションをずらし、スペースをこじ開けてゴールを狙う。後半戦の仙台が理想としてきた得点スタイルであった。

こうしてポゼッションによる崩しに挑戦したのは、優勝するためサッカーの質をもっと高めたい、という手倉森監督・選手の思いの結実であろう。

■ポゼッションの質とリスクマネジメントが新たな課題に

ただ、そのスタイルの変化は、いくつかの課題を浮き彫りにさせた。一つはそのポゼッション自体の質の問題だ。確かにパスで崩してチャンスは多く作れるようになったが、あとひと工夫が必要に思える。相手に守備ブロックを築かれてしまうと、ボールを支配し、ゴールまで一歩までは行くものの、ゴールをこじ開けるには至らないことも多く、終盤は前半戦快進撃を見せた時のような大量得点のゲームが減り、ロースコアゲームも増えた。

仙台も前述の磐田戦でのゴールのような丁寧なボールまわしはできるようになってきたのだが、優勝した広島のように、ゴール前での意外性あるアイデアからゴールが生まれる、といったケースはまだ少ない。さらに今後はポゼッションの質を磨き、相手を驚かせる意外性をもっと見せなければ、相手の脅威とならず、大量得点は難しい。

■リスクマネジメントの問題

もう一つはリスクマネジメントの問題がある。第23節以降仙台は毎試合失点している。もちろんセットプレーでの失点などもあるが、前に出て行ってボールを奪われた後のリスクマネジメントはさらにしっかりとした対策を取らねばならない。また、現状では特定の選手への依存度が高いことも問題。ボランチの角田誠が欠場した試合は1勝4分け1敗、スピードのあるDF上本大海が欠場した試合は2勝6分け3敗だ。個で守る能力の高い選手の層がまだ薄い。

確かにポゼッションで相手を崩せるチームにならなければ、J1優勝は難しい。そのためこの1年、仙台はポゼッションでの崩しの部分を懸命に磨き上げてきたが、それがまだ足りなかったのだろう。広島はペトロヴィッチ前監督が6年間築き上げたポゼッションサッカーのベースがある。それを考えるとまだ広島とはポゼッションの質に差がある。

それでもこうした課題が見えたのは優勝争いに絡めたからに他ならない。特にこの2年間震災がありながらも懸命なプレーを見せ続けた結果、優勝争いに絡めて、さらに強くなるための新たな課題も見つかった。来シーズン以降は今年高めてきたポゼッションによる崩しの完成度をさらに高めて、より質の高いサッカーを見せるチームへと成長して欲しい。

■著者プロフィール
小林健志
1976年静岡県静岡市清水区生まれ。大学進学で宮城県仙台市に引っ越したのがきっかけでベガルタ仙台と出会い、2006年よりフリーライターとして活動。ベガルタ仙台オフィシャルサイト・出版物や河北新報などでベガルタ仙台についての情報発信をする他、育成年代の取材も精力的に行っている。