事前に河本準一が出演していないことが、週刊誌をにぎわせていた。河本は「すべらない話七奉行」の一人であり、実力者だった。テレビ的にはそのことに触れないかと思っていたが、冒頭、松本人志は「今出たらまずすべる」と言った。これは凄かった。今回の措置を「すべらない話」の判断にすることで、河本が救われた。

セットも演出もますます派手になる。フジテレビは企画がメジャーになると、こういう形でごてごてと飾り立てる。包み紙が派手すぎる弁当は、大概まずいのだが。

今回は懸念材料がいくつもあった。番組代表枠で出てきた猫ひろしや、渡辺直美あたりが、力不足ではないかと思ったのだ。“異物混入”という感じがした。

「人志松本のすべらない話」と「IPPON グランプリ」は、ともに松本人志が実質的に仕切っている番組で、出演者もかなりかぶっている。しかし「IPPON」が大喜利と称しているように、短いフレーズ勝負、発想の切り口勝負で、その部分にとんがっているなら、天然系の芸人でも「あり」なのに対し(川島邦裕、田中卓志など)、「すべらない話」は、数分間、会場やテレビを引き付けるだけの「話芸」が必要だ。スタイルは別に問わないが、容姿、外形、一発芸だけで売ってきた芸人、つまり「芸」がない芸人はきついのではないかと思えた(その点でスギちゃんを落としたのは、まだまともな判断が働いていると思った)。

案の定、トップバッターに立った渡辺直美は実質的にすべっていた。「物まね番組で山本リンダの真似を誇張してやっていたら、本人が出てきてもっと誇張していた」というだけの話。これはきつい、と思った。この連鎖か、3番目の宮川大輔もつらい話(本人も自覚していた)。最近、このレベルのかなり無理目の話が散見されるようになったので、「すべらない話」も、もう黄昏かと思った。渡辺直美には二度と振られなかった。

これを救ったのが、塚地武雅である。意外なことにまだ3回目の登場だ。私はこの人は落語だってできると思っている。自分の世界を持っている。だから映画の主演級にも抜擢されるのだろうが、非常に聡明だ。結構な回数振られたが、全部レベルが高かった。MVSに選ばれたのも当然だと思った。

番組は、徐々に盛り上がっていった。猫ひろしは2回振られたが、ともに無難。話芸は拙いが、彼はじっさいに面白い体験をしている。それをできるだけそのまま出すことで、事なきを得たのだ(もうネタになっている話もあったが)。3つ、4つと振られていたらぼろが出ていた事だろう。

世界的に違うように見えた初出場の恵俊彰も、まず無難だった。伊達にMCをしていないという感じ。

兵頭大樹は実質的にこの番組で全国に顔を売った芸人だが、今回もレベルが高かった。ほっしゃんも面白かったし、宮川大輔も盛り返していた(しかし、なぜ最初に“すべりかけ”の話をもってきたのだろうか?)。

ただ、ケンドーコバヤシ、千原ジュニアと長い割に大して面白くない話が出たのがやや不満。この二人は息切れ気味か。

初出場の北見寛明は、イケメン芸人としてハンサムトークをすると前振りしていたのだが、2本目にはハンサムでないトークになっていた。話自体もそれほどでもなかったし、やや期待外れ。キャラを引き立たせる絶好のチャンスだったのだが。

最近の松本人志は、プロデューサー的な手腕は相変わらずと思うが、芸人としては手が回らないのか、ややパワーダウンしている感があった。

前回の「IPPON」の読者投稿を紹介するコーナーで、それまで読者の作品を紹介してから自分の作品を披露していたのを、逆にした。自分の作品に自信がないからだと思った。

今回の「すべらない話」の松本もやや懸念されたが、割と面白かった。王様の話は松本のステイタスをも反映しており、秀逸だった。「すべらない話」は事前に準備することが出来る。松本人志は、プレイヤーとしてのテコ入れを行ったのだろう。

どうなることかと思ったが、低い地点から立ち上がった番組は、高みにあがって、そのレベルを維持しながら終わった。ベテラン芸人に救われた感もある。

この手の番組は、テレビ局の“商業主義”と、“芸本位主義”のせめぎあいである。局としては、派手に演出をして、いろいろな芸人やタレントを盛り込んで、視聴率を上げ、裾野を広げたいと画策する。しかし、それは、「面白さ」を希釈させたり、混濁させたりすることにつながる(観覧ゲストの具志堅用高や叶姉妹は笑っていたのだろうか)。

「すべらない話」は、すでに大衆に消費される「商品」になった。一部の愛好家だけの笑いにとどめることは無理になった。商品には、当然、ライフサイクルがある。いつかは「すべって」消えていくのだ。賞味期限を気にしながらの“観戦”が続く。

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