「TBSはまた死にかけている」と語る郷原信郎教授

写真拡大

   TBSの情報番組「みのもんたの朝ズバッ!」の不二家報道問題について、TBSは2007年11月17日に外部委員を交えたTBS検証委員会から提出された「報告書」を発表した。しかし、この問題をめぐって不二家信頼回復対策会議の議長を務めていた郷原信郎・桐蔭横浜大学法科大学院教授が、TBS側が不二家との会談で発言した内容とこの「報告書」が「核心部分において重大な相反がある」と指摘、同11月28日に説明を求める公開質問状を提出した。しかし、TBSから返ってきたのは「回答しない」という回答だった。

   TBSの体質の問題点について、J-CASTニュースは郷原教授に聞いた。

(この記事は郷原信郎教授インタビュー(上)の続きです)

完全に放送事業を私物化している

――TBS検証委員会は「中立・公正と客観性を担保する第三者」として「外部」の弁護士2人を交えて、TBS「朝ズバ」報道の問題を検証しました。そこでも、「捏造はなかった」と結論付けられています。しかし、「外部」弁護士についてもTBSと大きな関わりを持っていると指摘されています。少なくとも1人の弁護士はTBSの報道訴訟で代理人を務めています

郷原 そこなんです。実は、2人ともTBSの報道訴訟問題に関わりをもっていることは間違いないし、思想的にも近い人物です。TBS検証委員会なるものが第3者的・中立な機関といえるのか。TBS検証委の外部委員を除くあと3人は、社内の人物ですからね。今回のTBSの問題を振り返って全体として言えることは、完全に放送事業を私物化しているということ。電波を自分たちが独占していることを利用して、責任回避の手段にしている。非常に恐ろしいことですよ。

――TBS側が当初述べていたことと「報告書」の「食い違い」について説明を求めた公開質問状についても、「回答しない」ということでした

郷原 「内容については個別に解答しない」というのはとんでもないこと。メディアの自己否定ですよ。第3者委員会が公正なメンバー構成であるかどうかはまた別にしても、事実に向き合って反省するためにそういった検証はあるわけでしょ?第3者委員会を作ったんだから、もうそれで自分たちはこの問題についてはコメントしない。こんな説明責任を回避する言い訳に使われているのです。不祥事を起こした企業が重大な問題を起こした。第3者員会を立ち上げて、その報告書をどんなでたらめでもいいからHPにアップして、一切それについてコメントしない。これと同じで、もうメディアとしての自殺に等しい。
今後、TBSの記者が参加する企業不祥事についての記者会見の場で、企業側からもし「TBSさん、あなたそんなこという資格ありますか」と開き直られたらどうするのか。記者クラブ制度の中で、「説明責任を果たせ」と追及なんてできないでしょ?だから今回のTBSの回答は「重大」だと思いますよ、それにTBSは気づいていない。
もう1つ言えば、こんなことをやっているTBSの首脳に対して、なぜ報道の現場は声を上げないのか。私はそれが非常に残念ですね。ジャーナリストとしての仕事に決定的な支障が生じる話なんですよ。自分たちが所属する会社の幹部がそんなことをやっている。それに何も言わない。TBSという会社自体がおかしいと思う。
TBSの対応はコンプライアンスという観点からするとデタラメですよね。それが通ってしまっている。そうすると内部のモラルハザードが起きる。まともにコンプライアンス対応していくのがばかばかしくなってくる。きちんとやっていこう、コンプライアンスを大事にしていこうという雰囲気とみんなの意思がなければ、どんどん企業がおかしくなっていく。TBSがまさにその典型でしょ。
「朝ズバ」に限って考えても、何一つ改善されてないですよね。だから、このあいだも香川の3人殺しでもみの氏が(遺族を犯人として名指しするような)軽率な発言をしている。大問題ですよね。個人の犯罪被害の問題として、絶対やってはいけないことをやったわけでしょ。わたしは、この問題をやるまで決してTBS全体が悪いとは思っていなかったんですが、このごろどうもおかしい気がします。TBSの番組制作の力も落ちていると考えざるを得ない、放送事業者として、コンプライアンスの事実上崩壊状態にあり、意欲を持てる状況でなくなっているんじゃないでしょうか。

――コンプライアンスの崩壊という点では、TBSは以前「オウム真理教」報道をめぐっても相当大きな波紋を呼びました。しかし、同局の「NEWS23」のキャスター筑紫哲也氏から「TBSは死んだに等しい」という発言が出るなど、TBSには当時「改善していこう」という意識はあったんだと思います。

何が問題だったのか、「みのもんた」はそれと向き合っていない

郷原 TBSはまた死にかけていると思います。確かに、当時は「死んだ」という認識をもって何とかしようという動きもあった。今回はそれすらない。死にかけていることがわからない。あの時なぜ「死にました」って言わなければならなかったのか。
「チョコレート再使用」報道も、一連の不二家バッシング報道のなかの氷山の一角だと思っています。あの1ヶ月のあいだに垂れ流した不二家バッシング報道のなかにTBSは反省しなくてはいけないことが山ほどあったはずです。それについて何一つ検証していない。

――「朝ズバ」の2007年8月の放送では、「素直にお詫び申し上げたい」とみのもんた氏が頭を下げる場面もありました。

郷原 誰に対して謝っているのかわからないし、謝るというのは事実に対して謝るということです。「言い方が悪かった」というレベルの問題じゃなくて、「言い方」はいってみればみの氏のやり方でしょ?だから「言い方」はいいって(笑)。間違いのない事実に基づいてああいう言い方するのはいい訳で、どういうことを事実と認識してみの氏は発言したのか、その中身が全然検証されてない。だからまたみの氏は問題発言するんでしょ?謝ったことの意味がなかったってことですよ。
まちがったこと、問題を起こしたことについて何が問題だったのか、その事実と向き合わない。だから同じ問題が、繰り返し、繰り返し起こるんです。

――実際にTBSの人たちと向き合ってみて、どんな印象を持ちましたか

郷原 個人の批判はしたくないけども、あれだけよくウソがつけるなと、あれだけ開き直った態度が取れるなと。長年検事としていろんな人間とかかわってきたけど、あれだけシャーシャーとしてウソをつける人を知らない。人間あそこまではならないはずだけど、よっぽど環境が悪いんだろうなと思いました。やっぱりその環境というのは、狭い意味では今のTBS全体が「非コンプライアンス」の状態にあるということだと思います。
もうひとつ、放送事業者全体の問題、放送事業をめぐる制度の問題でもあるんです。一番問題なのは、「捏造」など意図的に事実に反する報道を行ったことが分かった。認めたとたんに厳しい処分が下る。逆に認めなければ、調査されることや厳しい処分がない。マジメに事実に向き合うとかえって損をするという制度なんです。だから、BPO検証委員会は自主的な検証機関として、事実として「捏造」があったのかなかったということもさることながら、ちゃんと放送事業者として指摘を受けたことに対して対応したのか、事実に向き合ったのか、コンプライアンス対応がどうだったしたのかを評価しなくてはいけない。そちらの方がはるかに重要だったと思います。しかし、BPO検証委員会は、TBSがどういう風に対応したかということについて今回、全く何も言っていない。これでは、本来の目的を果たしているとはいえないですよね。その結果、TBSが大ウソをついても、大ウソを前提として事実を認定するということになってしまうんです。

TBSの不二家報道経緯

   2007年1月22日「みのみんたの朝ズバッ!」で不二家の「賞味期限切れチョコレートの再使用」が放送された。不二家・平塚工場の元従業員とされる証言者が、賞味期限切れのチョコレートを捨てようとしたら上司に怒られ、再び包装しなおした、と証言していた。しかし、後にこの証言は、不二家のクッキー「カントリーマアム」についての「証言」をチョコレートの「証言」として「流用」していたことがBPOの検証などで明らかになった。


【郷原信郎(ごうはらのぶお)プロフィール】
桐蔭横浜大学法科大学院教授、同大コンプライアンス研究センター長。1955年 島根県松江市生まれ。東京大学理学部卒業。
東京地検検事、広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事などを経て2005年から桐蔭横浜大学法科大学院教授。
警察大学校専門講師、内閣府参与、公正入札調査会議委員(国土交通省、防衛施設庁)、和歌山県公共調達検討委員会委員長などを務める。

J-CASTニュースとは?

従来のマスコミとは違うユニークな視点で、ビジネスやメディアに関するさまざまな記事を発信しています。読者投稿のコメント欄も充実!
国内最大級の新商品サイト「モノウォッチ」も開設!