神風システムの中で黒子に徹した鈴木啓太<br>【photo by B.O.S】

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 6月5日埼玉スタジアム。試合を終えた鈴木啓太は疲れた表情を浮かべて、ミックスゾーンに姿を見せた。オシムジャパン発足以降10試合すべてに先発したのは、鈴木ただ一人だ。疲労が色濃く刻まれた顔は、記者の質問に答えるときパッと明るく輝く。それは、彼が戦った90分間の充実度の高さを物語っているようだ。さぞや、楽しい90分間だったに違いない。

「今日のコロンビアやそのプレッシャーの速さもスピード、技術も含めて、今まで僕が戦った相手の中ではトップクラスのチームだった。簡単にボールを繋がせてもくれないし。その中で、(中澤)佑二くんや(川口)能活さんだとか、欧州組だったり、過去に本当に強い相手と戦った経験のある選手と一緒にプレーできたのは、自分にとって、大きなことだった。ゲームを通して『こういう風に守ったほうがいい』とか、そういうコミュニケーションをとれたのは自分にとっての財産かなと思います」

 この日はオシム監督が“神風システム”と呼んだ超攻撃スタイルで挑んだ日本代表。高原直泰の1トップに、遠藤保仁、中村俊輔、稲本潤一、中村憲剛と攻撃センスの高いMFが並んだ。それを支えるようにDFラインの前に立ったのが鈴木だった。「リスクマネージメントするのは僕の仕事。幾ら攻撃的な選手が多かったと言っても、みんなディフェンスもしてくれるから(笑)」浦和でも同ポジションを勤めるが、DFのカバーに終われ、DFライン上に立つことも多い鈴木が、この日は常にDFラインの前の高い位置でプレーしていたことも印象深かった。ときにはFWを追い越すほどのオーバーラップも見せていた。

「後ろの4人のDFとも話し合って、僕が下がって、DFラインの前にスペースを作ってしまうよりも前で勝負すてくれっていうことだった。それには後ろのDF4枚との信頼関係もあった。やっぱり佑二くんだったり、阿部(勇樹)は能力が高いんだと、関心しました。攻撃参加については、やっぱり動かなければ、ボールは回らない。前の人数が少なくなると相手のプレッシャーはどんどんどんどん高い位置からプレッシャーをかけてくるんで、そういう意味では裏にぬける動きだったり、サイドを変えることが重要になってくる。最初は戸惑っている部分もあったけど、だんだんできるようになった」

 そしてこの試合の最大のハイライトについて、鈴木は後半15分のシーンをあげた。高原が左のタッチライン上で粘りながらボールをキープ。体勢を崩しながらもゴール前へとボールをパス。中村(俊)がそれを受け、ゴール前に飛び込んだ遠藤へ。遠藤はさらに右のスペースへパスを流す。それに中村(憲)が反応し放ったシュートはゴールを超えてしまったが、素早い横パスで相手を翻弄したシーンだった。

「いいタイミング、いい精度で、4人目5人目の選手が動き出し、ああいう形が作れたのは、監督の狙い通り。それに自分も加われればよかったんだけど。この代表で10カ月戦ってきて、キレイな形でああいうプレーができたのは初めてだったかもしれない。そういう意味での進化はある。ひとつひとつ前進しているという手ごたえと自信はあります」

 この日の試合中、鈴木が中澤や遠藤など、多くの選手たちと話し合う姿が何度も見られた。アテネ五輪本大会メンバー漏れ、ジーコジャパンとは遠い縁だった鈴木。浦和レッズの屋台骨を支える縁の下の力持ちでもある彼が、オシムジャパンでも同様の仕事をしつつあることを改めて実感する。そして、体験を経験に変えていく力のある彼が、進化するオシムジャパンの象徴として、成長の軌跡を苦戦、苦悩しながら描いて行ってくれることに期待したい。