おかやま山陽(岡山)私欲を捨て去り、二季連続出場へ【前編】

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 1月26日。中国大会優勝校として今春のセンバツ出場校に選出されたおかやま山陽。春夏通じて初出場となった昨夏に続く、二季連続出場を掴み取った。春は初めてとなる聖地で甲子園初勝利の期待がかかる。岡山大会3位から頂点へと駆け上がった中国大会、中国王者として経験した初の明治神宮大会。率いる堤尚彦監督の証言を基に、新チーム結成からセンバツ出場決定までの軌跡を紐解いていく。

この世代での初タイトルは2016年の1年生大会中軸を担う森下浩弥(左)、井元将也(右)

 初の中国大会優勝、明治神宮大会出場、そして今回のセンバツ初出場…。おかやま山陽の野球部史に新たな歴史を次々と刻み込んでいる新3年生世代。入学年である2016年の岡山県1年生大会で優秀校に輝き、その実力の片鱗は見せていた。「夏の甲子園に出場した一学年上の世代は『強そう』という第一印象がありながら、実際戦ってみると思いのほか苦戦した世代でした。反対に今の学年は『ちょっと厳しいかな』という第一印象でも、試合をしてみると『結構戦えるな』という感触がありました」

 3番・森下 浩弥、4番・井元 将也の左右のスラッガーは旧チームでもレギュラーとして出場し、甲子園を経験。新チームからレギュラーとなる他の選手達も先述の1年生大会優秀校を経験していることもあり、周囲からは「満を持しての新チーム始動」「夏春連続出場を狙える」と目されての船出となったが、堤監督の見立ては異なるものだった。「1年生大会で優秀校になったようにレギュラー格の選手の能力はある程度計算できる手応えはありました。でも、レギュラーと控えの差が大きく開いていましたし、有本に次ぐ2番手投手の目途も立っていない。甲子園が終わってからの始動という時間的な部分も含めて不安は大きかったです」秋季大会開幕までの練習試合では投手陣全体にチャンスを与え、活性化を狙ったものの、指揮官が求める結果を残す存在は現れず。2番手以降の投手に課題を残したまま、秋季大会に臨むこととなった。

 不安を抱えながら開幕した秋季大会では3試合合計31得点の猛打で地区予選突破。進出した県大会では攻撃もさることながら2試合連続の完封勝ちと守りも冴えわたり、4強入りを果たした。そして「ターニングポイント」と堤尚彦監督が振り返る準決勝・岡山学芸館戦を迎えることとなる。

「大義」に立ち戻らせてくれた敗戦

練習中の様子(おかやま山陽)

 勝てば中国大会出場が決まる大一番。打線は好調そのままに7点を奪ったが、二桁失点を喫し、7-10で岡山学芸館に敗戦。翌週の3位決定戦に回ることとなった。「この試合に勝ったら中国大会、中国大会で勝ち進んでセンバツに…。そんな『私欲』が心にありました。邪心を持ったまま試合に臨むから当然負けてしまう。『世界に野球を広める』、『自分達が取り組んでいる活動をもっと広く知ってもらうために甲子園に行く』という大義を見失っていたことに、この一敗で気づかされました」 堤監督の言う「活動」とは2011年から取り組んでいる発展途上国に中古野球道具を送る活動のことだ。青年海外協力隊の一員としてジンバブエ、ガーナで野球の普及活動に取り組んでいた堤監督の来歴とともに、昨夏の甲子園出場時には大きく取り上げられた。「野球を世界に広める」という最大のテーマと「甲子園」を繋ぎ、自身が高校野球の指導者として戦う意義を明確なものとした原点とも言える活動だ。

 約一週間後の3位決定戦に向け、堤監督が真っ先に着手したのはこの活動について自チームの「足元」を確認することだった。「チーム内で再び呼びかけてみると、まだ一度も自分から中古道具を出していない部員もいることがわかりました。周りの方々に『協力してください!』と呼びかけている張本人達がやっていない。言動が一致していない、おかしな話ですよね」 各選手が以前に使用していた道具を中心に持ち寄り、ピカピカに磨き上げ、心を整えた。そして迎えた3位決定戦。昨夏の決勝戦の再現となる創志学園との一戦はエース有本 雄大が試合前半に掴まる苦しい内容となったが、6回に一挙5点を奪う劇的な逆転勝ち。堤監督の言葉を借りると「徳を積む」日々が後半の逆転劇を呼び込んだ。こうしてギリギリで踏みとどまり、中国大会へと駒を進めることとなった。

後編では大逆転で上り詰めた中国王者、そして神宮大会で出た課題ついて話を伺った。

(取材・文=井上幸太)