オーストラリアはポゼッションサッカーを志向したが、日本のプレッシングにあって機能しなかった。写真:田中研治

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 オ-ストラリアの自滅を招いた日本の快勝だった。
 
 日本は41分、浅野拓磨がゴ-ルを決めるまでは失点しないことを優先し、なかなか決定的なチャンスを作れずにいたが、それ以上にオ-ストラリアが低調だった。
 
 オ-ストラリアのサッカ-の特長と言えば強いフィジカルとロングボ-ルを活かした空中戦だ。ところが2013年、アンジェ・ポステルコグル-がオ-ストラリア代表監督に就任するとポゼッションサッカ-を標榜し、世代交代を進めながらチ-ムスタイルを変えていった。
 
 その成果が出たのが、2016年にロシアで行なわれたコンフェデレ-ショズカップだ。ドイツには敗れたがカメル-ン、チリにはともに1-1のドロ-で終えた。早いテンポでパスをつなぎ、鋭くエリア内に侵入してくるサッカ-は、これまでの空中による肉弾戦を得意としてきたチ-ムとは180度異なるパスサッカ-で、世界基準で戦えるポゼッションスタイルを見せたのだ。
 
 それを分析した日本は、オ-ストラリアのポゼッションのクオリティが非常に高く、今回の試合は相当の苦戦を予想したという。
 
 実際、ベンチメンバ-も最終ラインと攻撃的な選手ばかり。そこから監督の試合に対する考えが見えてくるが、ハリルホジッチも「先行逃げ切り」ではなく、かなりの劣勢を想定していたのだろう。 
 
 長谷部誠も「今までのオ-ストラリアとは違う。より難しい試合になる」と、つなぐオ-ストラリアを警戒していた。
 
 ロシアへの切符を賭けたこの日の試合もオ-ストラリアはつないできた。コンフェデでの手応えと自信が選手のプレ-から垣間見ることができた。
 
 しかし、コンフェデと大きく違ったのがクオリティだった。全体のテンポが遅く、個々の選手がボ-ルを持っている時間が長かった。そのため出足の鋭い井手口陽介らにボ-ルホルダ-や受け手が再三潰され、つないで日本の守備を崩すことはなかなかできなかった。
 
 しかも左攻撃的MFのジェ-ムズ・トロイ-ジを始め、この日のオ-ストラリアは簡単なミスが目立った。昌子源は「攻撃での恐さはそれほどなかった」と言っていたが、コンフェデで見せた彼らの脅威がほぼ消失していたのだ。
 だったら戦い方を変えればいい。
 
 オ-ストラリアにはお家芸ともいえる「ロングボ-ル攻撃による肉弾戦」がある。日本は、そのシンプルな戦術で信じられないような痛い敗戦を喫してきた。
 
 2016年ドイツ・ワールドカップの初戦、1点リ-ドされていたオ-ストラリアは後半にクロスに強いケイヒル、長身のケネディ、アロイ-ジらを投入し、ロングボ-ル攻撃を始めた。その攻撃と相手の前でのプレッシャ-に日本は耐え切れず、最終ラインをズルズルと下げていった。そうして相手にペ-スにもっていかれ、最終的に3-1の逆転負けを喰らった。その時、2得点を決めたケイヒルには、その後、何度も悔しい思いをさせられてきた。
 
 定石と言える手を使えばドイツ・ワールドカップのように何かが起こるかもしれない。少なくとも質の低いポゼッションを続けているよりは、ゴ-ルはもちろん勝つ確率も上がったはずだ。
 
 しかし、その伝統の技は封印された。
 
「このフィロソフィ-(哲学)でソリュ-ション(解決策)を見付けようと思って追求した」
 
 試合後、オステコグル-監督は、そう述べたがオ-ストラリアは自分たちのサッカ-にこだわって勝負に負けたのだ。
 
 日本はラッキ-だった。
 
 苦手なロングボ-ル攻撃がなく、後半、ケイヒルらが入っても「地上戦」に固執し、ア-リ-クロスでケイヒルのヘディングという日本にとって脅威となる攻撃もなかった。
 
 もし、オ-ストラリアがロングボ-ル攻撃を仕掛けてきた場合、日本はその対応に相当苦慮しただろう。また、1-0で試合が流れていった場合、試合をどう終わらせるか。ベンチには三浦弦太らセンタ-バックがいたが中盤で守備の強い今野泰幸らが招集外だったので逃げ切るための駒がベンチには揃っていなかった。選手交代のカ-ドを含めて采配が非常に難しかったはずだ。
 
 試合後、日本の選手には最終予選を突破したという高揚した雰囲気や笑顔がほとんどなかった。ここで満足していられないという気持ちが強かったのだろう。同時にザッケロ-ニ監督時代、自分たちのサッカ-にこだわりを持ち続けたがブラジル・ワールドカップであっけなく散り、この日のオ-ストラリアにその時の自分たちの姿を見たことでサッカ-の難しさを改めて感じたのではないだろうか。
 
 そうした辛く痛い経験をしてきた分、オ-ストラリアにボ-ルを持たせて自滅させ、伝統的な恐さを出させず、冷静に戦えた。大一番は、日本の戦略的な勝利だったと言える。
 
取材・文:佐藤俊(スポーツライター)