『刑務官が明かす刑務所の絶対言ってはいけない話』(一之瀬はち/竹書房)

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 口論での「ゴメンで済めば警察はいらない!」というセリフはもはや常套句だが、現実としては対立しても「ゴメン」で済む場合が多く、警察の出る幕はないだろう。ゆえに警察に逮捕され刑務所に入れられるなどということは、普通に生活していれば基本的に縁遠い話である。当然ながら刑務所の実態はさほど知られておらず「受刑者は日々、何をしているのか」など、疑問を持つ向きもあるのでは。そういった刑務所の実情を『刑務官が明かす刑務所の絶対言ってはいけない話』(一之瀬はち/竹書房)では、現役の刑務官(受刑者の管理をする人)が教えてくれる。

 本書は作者・一之瀬はち氏が刑務官の「ムロさん」に話を聞くという体裁で刑務所の内情を描くコミックエッセイ。まずは簡単に服役するまでの一連の流れを説明すると、逮捕されると最初に警察署の「留置所」に入れられ、取り調べのあと検察に送られる。その後、取り調べが終わったら裁判が始まり、身柄は刑務所内にある「拘置所」もしくは「拘置区」に移される。そして裁判後、罪が確定すれば「受刑者」となり刑務所に入ることとなるのだ。

 では刑務所では、一体どんな生活が待っているのか。それは主に「刑務作業」と呼ばれる仕事をすることである。作業も封筒作りから家具製作まで多岐にわたり、なんと国家資格まで取得が可能だという。例えば美容師の資格を取得すれば、刑務所内にある床屋で働くこともできるのだ。作業は適性や素行状況などによって振り分けられるが、中には特殊なケースも。ある受刑者はあまりに不器用で、どんな作業につけても失敗ばかり。そこで彼に与えられたのは「1日中、ただ紙をちぎるという仕事」であった。それで3年の刑期を全うしたというのだから、恐れ入る。

 日々、受刑者たちの監督を行なう刑務官だが、罪を犯した人々の集まる場所だけに危険はないのか。残念ながら、皆無とはいえない。かつて木工作業中に刑務官と口論になった受刑者がハンマーとノミで刑務官の胸を刺し、そのまま死亡させたという事件があった。そのほか極度に暴れる受刑者を収容する「保護室」に入れられた受刑者が、保護室の扉を破壊して刑務官を襲撃するなど、決して油断できない環境なのである。

 ここらでちょっと下世話な話だが、いわゆる「性処理」はどうなっているのか。刑務所では当然、異性との性行為など不可能であり、自然その処理は「自慰行為」となる。ところが、かつて女子刑務所でトンデモない性交渉が発覚した。人手不足で手伝いに来た男性刑務官と女性受刑者が恋に落ち、なんと食器を出し入れする小窓を使って行為に及んだというのだ。結局バレて刑務官は免職となったが、愛に殉じた彼に後悔はなかった……かもしれない。

 このほかにも、刑務所内にヤクザの抗争が持ち込まれたり、将来を悲観して自殺者が出たりするなど刑務官の仕事は非常にハードだ。しかし最も過酷なこと、それは「死刑」の執行であろう。なにせ絞首刑を執行するために床を開くボタンを押すのは刑務官の仕事だからだ。精神的負担を軽減するため5人の刑務官が一斉にボタンを押すという措置が取られるものの、やはり「命を奪った」かもしれないという拭いえぬ思いは想像に余りある。

 本書を読んでみて、改めて刑務官の仕事を知らなかったことを実感した。漫画なのでユーモラスに描かれているが、過酷な業務であることは間違いない。とりあえず漫画のネタにされないように、刑務官のお世話にならないような生きかたを心がけたいものである。

文=木谷誠