現在のスペインのエルシドロンに当たる地域に住んでいたネアンデルタール人の上顎骨の化石。一部に歯石を確認できる(2017年3月7日提供)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】ペニシリンの発明からさかのぼること約5万年前に、歯の膿瘍(のうよう)に苦しんでいた旧人類ネアンデルタール(Neanderthal)人の若者が、天然の抗生物質や鎮痛成分を含む草木を食べていたことが分かったとする研究論文が8日、発表された。研究では、ネアンデルタールの歯石を調べた。

 研究チームによると、現在のスペインのエルシドロン(El Sidron)に当たる地域に住んでいたネアンデルタール人の男性は、抗生物質を産生するペニシリウム属の真菌を摂取し、サリチル酸を含むポプラの木の破片をかんでいたという。サリチル酸は、現代の鎮痛薬アスピリンの有効成分だ。

 英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された研究論文によると、この若いネアンデルタール人の化石化した下顎骨には膿瘍による損傷がみられる他、残されていた歯石から、激しい下痢を引き起こす腸内寄生虫の存在が確認できた。これにより「若者がひどい病気に侵されていたのは明白」だという。

 論文の共同執筆者で、豪アデレード大学(University of Adelaide)オーストラリア古代DNAセンター(ACAD)のアラン・クーパー(Alan Cooper)氏は「ネアンデルタール人は、薬用植物とそれらが持つ各種の抗炎症作用や鎮痛作用などの特性を熟知し、自己治療を行っていたとみられる」と話す。

「研究結果は、現生人類の近縁種であるネアンデルタール人に関して一般的に聞かれる、想像の中のかなり単純化された考え方とは極めて対照的だ」と、クーパー氏は続けた。

 2012年に独科学誌「ナトゥーア・ウィッセンシャフテン(Naturwissenschaften)」に発表された研究では、ネアンデルタール人はノコギリソウやカモミールなどの薬草を使用していたことが考えられるという。

■菜食中心

 国際研究チームは今回の最新研究で、ネアンデルタール人4個体の石灰化した歯垢(歯石)の中に閉じ込められたDNAの遺伝子分析を実施した。4個体のうち、2個体はベルギーのスピー洞窟(Spy Cave)から、残る2個体はエルシドロンからそれぞれ出土したものだ。

 歯石には、生物の口、気管、胃などの中に生息していた微生物や、歯間に挟まった食べかすなどのDNAが保存されている。これを後に分析することで、食べていたものや、健康状態を知ることができる。

 今回の研究では、ベルギーのネアンデルタール人が、ケブカサイ(毛サイ)、野生ヒツジ、キノコなどを日常的に食べ、狩猟採集民的な生活様式を形成していたということが分かった。遺伝子分析された対象としては過去最古の歯石となった。

 一方、エルシドロン洞窟のネアンデルタール人については、「肉を摂取していた痕跡はなく、松の実、コケ、キノコ、樹皮などで構成される菜食中心の食事をしていたようだ」とクーパー氏は声明で述べている。

 論文の主執筆者で、ACADのローラ・ウェイリッチ(Laura Weyrich)氏は、エルシドロンが当時、深い森林に覆われた環境にあったことを指摘。「一方のスピー洞窟のネアンデルタール人は大草原のような環境に暮らしていた。そこを歩き回っていた大型生物が主な食料源となっていたことは容易に想像できる」とAFPに語った。

 ポプラやペニシリンの痕跡については、病気にかかったスペインのネアンデルタール人の歯石からしか検出されなかった。
【翻訳編集】AFPBB News