短気で気長「ビリオネア体質」の会社員になるコツ

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■なぜ、億万長者は「短気で気長」なのか?

コンサルティング会社、プライスウォーターハウスが世界のビリオネア(10億ドル以上の資産を持つ人)を調査したところ、共通する1つの資質として、「短気と気長の両方を持っている」という結果が発表されていました(参考図書:『PwC公式調査でわかった10億ドルを自力で稼いだ人は何を考え、どう行動し、誰と仕事をしているのか』)

つまり、とてもせっかちで短気目標追求する面と、取り組み始めたら粘り強くやり続ける面を併せ持つということです。

ビリオネアには興味がないという読者もいるでしょう。しかし、高いパフォーマンスを上げたいと思うビジネスパーソンにとって、この2つの面を併せ持つことを目標とする方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、私たち一般のビジネスパーソンに「短気と気長を使い分ける習慣」を当てはめてお話ししたいと思います。

【1.私たちが考えるべき3つの視点と、矛盾】

ビジネスパーソンが組織の中で果たす役割は、次の図の通りだと私は考えます。

何より最大の目的は、組織や顧客から求められる成果を最大化することです(図版内A)。そのために、組織では人材育成を上司に託します(同B)。上司も成果を最大化するためには部下を短期間でいかに育成するかが重要なテーマになってきます。また、成果を最大化するためには同時に、個人・チームの単位時間当たりの生産性を高めることも求められます(同C)。

「成果の最大化」(A)のために、「部下育成」(B)と「生産性向上」(C)があるのですが、短期的な視野で考えれば、必ずしもこの3つはバランスよく行われているわけではありません。

たとえば、Bに関して。その月の目標達成のためには、部下に仕事を任せるより自分でやったほうが早いといって、自らがやってしまうケースがしばしばあります。直近の目標のためには、部下に考えさせて失敗させる時間的余裕はないと、ついマイクロマネジメントをして、部下の自発性や主体性の芽を摘んでいるケースもよくみられます。

ではCに関してはどうか。生産性向上のために不要な業務プロセスや会議、資料作成、ルールの見直しが必要だとしても、一人の権限でできないことであれば、無理に変えようとするより、会社(上層部)の方針に従った方が短期的には作業は増えないかもしれません。仮に、業務プロセスを見直そう、などと言い出そうものなら、「お前が担当してやれ」と言われて1つプロジェクトを抱え込むことに……。

そこで重要なことは、短気と気長の視点です。

■あえて短気になって取り組むべきことは何か?

【2.短気になる焦点】

私たちがA、B、Cそれぞれに、あえて短気になって追い求めるべきことは何でしょうか?

(A)成果の最大化(短気の視点編)

年度や月の目標に対する激しく厳しくコミットメントすることです。もし、社内の雰囲気が、「目標は達成しなくて特にもとがめられない、大丈夫」というユルいものであれば、社員は自分の能力を超えて実力を発揮しようとはしないかもしれません。

だから、とりわけ短期の目標に関しては、個人・部下に対しても絶対に達成するという短気さが必要です。私がコンサルティングさせていただいている複数社の中で、目標に対するコミットメントが甘いところと激しいところでは全く緊張感が違います。緊張感のある企業は、「短期にも短気」の方針です。

(B)部下育成(短気の視点編)

上司と部下が、お互いに決めたことを守り、予定通り行動が進んでいるかチェックすることが重要です。行動が進んでいなければ、何がブレーキになっているのか、モチベーション不足ならばどのように高めるのかを対処します。結果そのものより、今日・明日の決めた行動を前に進めることに焦点を当てると部下育成は進みます。

たとえば、コミュニケーションの円滑化のために、朝一番、大きな声で挨拶するという行動目標を立てたとします。しかし、朝からほとんど挨拶していなければ、上司は「今日挨拶元気ないね。もっと元気良くいこうか!」とフィードバックができます。

大切なことは具体的な行動レベルでお互い「何を、どれぐらい、どうする、どのタイミングで、誰に」を決めることです。

外部で何かの研修を受けて帰ってきた部下に対しては、具体的に「上司にメールで日報を送る際に、3項目、5行ずつの箇条書きで書く」というレベルでお互い行動目標を決めます。

そうすれば、お互い何ができているのか、できていないのか振り返ることができます。具体的に落とし込まれていなければ、結果的に部下が目標達成できず伸び悩みの状態となり、部下育成する上司としても社内からフォロー不足を指摘され、無力感を抱いてしまいがちです。

(C)生産性向上(短気の視点編)

例えば、退社時間をコミットしたら、その時間までに終わるかどうか、どういう工夫をしているのか、1つの仕事あたりの生産性は以前に比べて高まっているのかを、具体的にフィードバックすることです。

特に退社時間の目標に関しては、上司と部下で決定するのはとても効果的です。生産性を向上するためには、鉄則は「制限を設けること」。つまり、退社時間に対する緊張感を持って守ることで、仕事の密度は高まってきます。

そのためには、「なるべく早く帰る」といった漠然としたものではなく、「18:30までに退社する」という数字レベルでフォローすることがお互いの生産性を高めるのに有効です。

人間は、数字を追いかける本能があります。具体化×数値化を活用してみてください。

■粘り強く気長に待つ姿勢はどう養うのか?

【3.気長になる視点】

逆に気長に粘り強く、気が熟すまで待つ観点はどのように養えばいいでしょうか。

(A)成果の最大化(気長の視点編)

組織にとって顧客にとって「新しい価値」とは何か? を考えたときに有効なのは、新しいサービスを開発すること、新しい事業をスタートすること、全く新しいやり方でアプローチすること、だと言われています。

しかし、往々にしてこういう新しい試みは、成果が見えづらく評価されるのに時間がかかります。新規事業はどの会社でも、1年目は大混乱でコストばかりかかり、2年目でようやく芽が出てきて、3年目で花開くといったプロセスを経ることが多いです。

正直、1年目や2年目は投入した努力に対する結果が乏しく、「本当にこれをやっていていいのか?」「やめたほうがいいのではないか?」という疑念や迷い・不安に駆られることがあります。

しかし、ビジョンと価値観に立ち戻り「必ず意味がある」「徐々にヒントは見つかる」と心に決めて突き進むことで、ようやく成果が出てきます。

気長の戦略は、努力に対する成果の現れを中期の視点で考えることです。日々の行動に対しては短気になり必ずやる、でも、成果は急がないという二段心構えです。

(B)部下育成(気長の視点編)

上司が3年間粘り強く関わって変わってくる部下もいれば、たった3カ月で急成長していく部下もいます。育成ポイントに、マインド面・スキル面・知識面があるとすると、知識は比較的簡単に伸びますが、多くのスキルは3カ月やり続けて習慣化します。さらにマインド・思考面は6カ月以上かけてようやく少しずつ変化していくケースが多いものです。

部下育成に短気になると、上司のフラストレーションは膨大になります。そうならないためにも、マインド面には気長の戦略で取り組むことが重要です。飲みニケーションや日々の会話の積み重ねで、少しずつ積み上げていく視点も重要です。上司と部下の信頼関係が築かれ、“呼吸”ができてはじめて育成環境が整うのです。

(C)生産性向上(気長の視点編)

業務をよりよく効率化するための要因には、自分要因と環境要因があります。特に、環境要因は重要です。ネックは環境要因が7割と言っても過言ではない職場も多いものです。例えば、職場に早く帰る風土がない、生産性を評価する制度がない、業務プロセスに無駄があるなど、一人では解決しない問題も多数存在します。

組織に貢献するビジネスパーソンになるためには、これらを他人事で見るのではなく自分ごととして見ることです。変革の音頭をとっていく旗振り役が必要です。

ただし、取り組みには多くの人の説得や巻き込みが必要で、ときに数年かけて徐々に風土や意識を変えていく取り組みも多いものです。その結果が出るまで粘り強く取り組む気長のマインドがなければ、途中で心が折れてしまい、真の変革にたどり着きません。

とはいえ、多くの変革は「たった一人の熱狂」から生まれます。ぜひ、これを読んでいるあなたがその一人になることを願っております。

以上、短気と気長の視点で解説してきました。両方を併せ持つという思考・行動習慣の参考になれば幸いです。

(習慣化コンサルタント 古川武士=文)