池波正太郎の代表作の一つ、『鬼平犯科帳』は、時代小説や時代劇を好きな人はもちろん、そうでない人も、そのタイトルを耳にしたことがあるだろう。火付盗賊改方長官・長谷川平蔵を主人公とする捕物帳で、舞台は江戸である。この作品の影響で、「犯科帳」は江戸における裁きの記録だと思っている人が多いのではないだろうか。じつは、そうではない。名前だけが独り歩きした「犯科帳」とは、本当は何なのか。松尾晋一『江戸の犯罪録