「意識力」

写真拡大

いつの時代もプロ野球に「守備の名手」がいる。その中でも元ヤクルト・宮本慎也と現巨人・井端弘和は、花形といわれるショートで好守備を連発した。守備が上手い選手に与えられるゴールデングラブ賞の受賞歴を見ると、それぞれセリーグ歴代ショートの2位、3位につけている。(井端が7回、宮本が6回)
この二人が守備についてどのように考えているか2人のそれぞれの著書、「守備の力」(著:井端弘和/光文社新書)と「意識力」(著:宮本慎也/PHP研究所)を通して比較したら意外にも多くの共通点が見つかった。

【送球についての考え方】


まずは、送球についてだ。肩力に関して自信の差こそあるものの、投げるためには「足の運び」が大事という考え方は共通している。
宮本:投げることに関しては自信があった。というものPL高校時代、先輩相手に打撃投手を務めた経験があるからだ。先輩相手に変な球は投げられないという恐怖心が宮本の安定した送球に繋がったのだ。とはいえ、しっかり送球するには捕り方がまずは重要であると語っており、実際にどう足を運んで捕球するかを徹底的に練習したらしい。
井端:井端は宮本と比べると投げることに関して自信がない。しかし、それを補うために足を使って捕球し、その流れのままスムーズに送球することを常に意識している。井端いわく、捕球のタイミングと足の動き合わせて良いリズムで送球に繋げれば、肩に自信がなくても良い球が投げられる。

【「逆シングル」の是非】


ここからは捕球についてだ。アマチュアの世界では逆シングルキャッチは嫌われ、回り込んででも正面で捕りなさいという指導をよく受ける。だが、守備の名手である両者はこの逆シングルは必ずしも悪いものではないと語る。当たり前のことではあるが、一番重要なことは「アウトにできるかどうか」だと考えるからだ。
宮本:回り込んで捕ったために、セーフになる場合もあるので必ずしも正しいとは限らない。そのため、逆シングルでもOKだと考える。
井端:逆シングルは状況次第ではまったく問題ないと考える。というもの、回り込んだがために、裁ける打球も処理できないケースもあるからだ。

【投手に与える感情を考慮】


だが、二人は出来るだけ逆シングルでは捕らないと語る。その理由を聞くと「投手への配慮」という超一流の二人ならではの考え方が隠されていた。
宮本:難しい打球を簡単に取ることが真のファインプレーだと考えている。回り込んで正面で捕れれば、投手は「打球に勢いがなかったのかな、自分の球が走っているぞ」と自信を持つので、あえて逆シングルで捕るようなことはしないという。
井端:逆シングルでエラーした場合、楽をしようとしたのかと投手が不信感抱く恐れがある。そのため、出来る限り逆シングルで捕球しないと語っている。

【ミスに対しての受け止め方】


そんな高いレベルで語る二人は、自分がミスをした場合についてはどう考えているのか。両者とも「自分がミスしたことで誰かがクビになるかもしれない」と考えるほどミスについて深く受け止める。だが、謝るかどうかに関しては意見が分かれた。
宮本:今までで忘れられないプレーを聞かれて同志社大学時代でのエラーを挙げた。アマチュア時代に経験したエラーをプロ引退後も気に留めているのだ。宮本は自らがエラーしたことで契約を切られる選手がいるかもしれないと考え、エラーをした時は真っ先にマウンドに行って投手に謝るようにしていると語った。
井端:エラーに関していつまでも覚えておくが重要だと語る。というもの、いろいろな人に迷惑かかり、エラーのせいで投手がクビになるかもしれないからだ。だが、井端はミスをしても投手に謝らないと語る。それは謝ってことが解決するわけではなく、次からのプレーでミスを取り戻すしかないという信念ゆえだ。

【アウトに取ることへの高い意識】


最近のプロ野球を見ていると、派手な守備で魅せようとする選手もいる。ファンとしては派手な守備は目を引く。しかし「アウトにできるかどうか」という基本をなによりも大事にする二人からは、派手さを追求せずに、たとえ泥臭くともアウトにしようという意識が伝わってくる。
宮本:絶対に取りにいくんだという粘りがなによりも大事だと語る。アウトにしなければ意味がないので、片手だけで捕ったりとカッコつけたプレーは絶対にしてはいけないと指摘している。
井端:どんな形でも、不細工でもアウトにしなければいけないと考えており、過去には顔面を投げだしてボールを止めたこともある。しかし、キャリアを重ねると、常に全力だと長期にわたるシーズンを乗り越えられないと考えるようになり、明らかにヒットになる打球に関しては捕りに行かない等の工夫も見せている。

ここまで見てきたように、球界でも有数の守備の名手として知られた2人は誰よりも「絶対にアウトにするのだ」という意識があり、そのためには、泥臭いこともいとわないという職人的考えを持っていることが分かる。
私たちはどうしても横っ飛びキャッチのような華麗なプレーをする選手たちに目がいきがちだ。しかし、投手のことを考えて常に堅実なプレーを心掛ける宮本や井端のような選手こそ、真の守備の名手と呼べるだろう。
(さのゆう)