大阪都構想「市職員箝口令」内部文書でわかった橋下市長の焦り
大阪都構想で大阪市が揺れている。共同通信社が3月14、15日に実施た世論調査では、都構想について賛成が43.1%、反対41.2%と真っ二つに割れたからだ。この結果に対し、橋下徹大阪市長は「賛成が多いとは思わない。いつでもひっくり返るような状況だ」と記者団の質問に答えた。
一方、都構想に関しては橋下市長が市職員に向けて“言論統制”を行なったといわれている。ある市職員は「通達の形で降りてきたわけではない」としながらも市役所内では「もはや何も話せない」というピリピリしたムードに包まれているという。
そんな状況下、本サイトでは大阪市役所内で出されたという内部文書を複数枚入手した。「大阪府・大阪市特別区設置協議会」の特別区設置協定書に関する『協定書の住民周知について』と題する文書を一読すると、確かに「橋下徹市長に逆らう市職員は許せない」という市長サイドの意気込みが伝わってくる。
市長の意に逆らう者は処分対象とする厳しい通達内部文書は、「公務員としての注意」「(公務員の)政治的行為の制限」などからなっているのだが、なんと大阪市本庁、各区役所と配布された場所により微妙にその文言が異なっていることが筆者の取材により判明した。同じ文面でも「、」「,」などコンマや句読点の違いも見受けられた。文書が外部へ流出した場合の“犯人探し”のためのトラップ以外には考えられない。市長サイドは相当、疑心暗鬼になっているということか。
筆者が入手した内部文書(特定を避けるためモザイク処理をしています)
主な内容は「市長の『協定書内容のわかりやすい説明』」「公務員としての注意」など数項目からなる。その挙げられた項目ひとつひとつに根拠法となる法律の条文も記載されている。例えば、先に挙げた「市長の『協定書内容のわかりやすい説明』」については、こういった具合だ。
<大都市地域における特別区の設置に関する法律第7条第2項 関係市町村の長は、前項の規定による投票に際し、選挙人の理解を促進するよう、特別区設置協定書の内容を説明しなければならない>
もっとも「公務員としての注意」については根拠法が記載されていない。行政として協定書の内容を正しく説明する、地方公務員として中立性・公平性を保持し、「賛成・反対」に繋がる発言や、公務員個人の主観が含まれる発言は、「誘導行為」ととられる恐れがあるので決して行なってはならないとその注意事項が細かく書かれている。そしてその末尾には、「公務員という肩書きでの個人的な見解の表明は慎むように」と締めくくっている。
大阪市関係者によると、「これに反することをすると法律違反になるという、市長側の市職員へのプレッシャーがありありと伝わってくる。なんとも弁護士らしい」とし、市職員の側でもその対応に苦慮しているという。
大阪都実現で特別区の役所・議場建設をどこが請け負う?今回、取材に応じてくれた大阪市の課長代理(40代)は、あくまでも市役所で働く市民のひとりと前置きし、「降りてきた通達は、実質的な市職員への緘口令と理解しています。市職員は市長が右向けというと右を向く立場ではない。何とも困っています」とその苦しい胸の内を明かす。
「市長が個人的に“都構想”実現を目指すのはわかります。でもその目指すところは大阪府に比して財源が豊かな大阪市を解体、今の大阪市民の税金を引き上げ、府内他都市に分配することに尽きます。それは市長サイドは市民に説明していない。それに大阪都では特別区が設置されます。でも、その区役所や議会設置にも費用がかかります」(前出の大阪市課長代理)
大阪都構想が実現した際、特別区の区役所、議会の建物建設に関し、公共事業発注が見込まれることになるが、それを「誰が」「どういった形で」請け負うのか、メディアにはしっかり監視してほしいという。
こうした厳しい通達からは、裏を返せば橋下市長の焦りが見て取れる。世論調査で賛成と反対が拮抗したことで、今後、市職員へのさらなる締め付けが行われる可能性もある。ともあれ、大阪都構想の是非を問う住民投票は5月17日に行なわれる。橋下市長 vs 大阪市のバトルはまだまだ続きそうだ。その成り行きに市民は注目している。
(取材・文/川村洋)