Wikipediaにひとりで270万もの記事を投稿した男の正体とは?
By Kristina Alexanderson
スウェーデンのダーラルナ大学で働く物理学者のSverker Johansson氏は、過去7年間でWikipedia内に270万もの記事を作成し、調子の良い日には1万件もの記事をたったの1日で作成したそうです。Johansson氏がなぜそこまでしてWikipediaに大量の記事を作り続けるのか、をWall Street Journalがその裏側を明かしています。
For This Author, 10,000 Wikipedia Articles Is a Good Day's Work - WSJ
Johansson氏は、自作のコンピューター・プログラムを使って毎日数多くの記事をWikipedia上に作成しており、過去7年間に作成した記事数は270万件で、これはWikipedia全体の8.5%にも及ぶそうです。Johansson氏が特に多く作成しているのは「あまりなじみのない動物や昆虫」などの記事で、特にフィリピンで多く読まれているそうで、彼自身そのことを誇りに思っている、と言います。実際にJohansson氏が作成した記事の3分の1はスウェーデン語で投稿されているのですが、残りの記事はフィリピン語で投稿されているそうです。
Johansson氏が作成したプログラムは、データベースとその他のデジタル情報の中から不要な情報を除き、記事を作成する「Lsjbot」というボットです。「Lsjbot」は記事作成と記事編集の両方で長い間活躍してきたそうで、最近はますますさまざまなコンテンツについての記事を作成するようになってきている、とJohansson氏は言います。
言語学や土木、経済学、粒子物理学などの学位を持つJohansson氏の活動を快く思わない人々もおり、特に「Wikipediaは人の手で作るべきだ」と主張するWikipedia純粋主義者の中には、Johansson氏に不平不満を言う人も多い、とのこと。この理由は非常に明確で、Johansson氏がコンピューターのプログラムを使ってWikipedia上に記事を作成しているからです。Johansson氏の活動を批判する人々は、「ボットは人間が作り出せるクリエイティブな文章を締めだしてしまう」と主張しています。
ひとつの記事を深く詳細に書くのが好きだというWikipediaファンのAchimさんは、「私はボットでの記事作成に反対です」と言います。Achim氏はJohansson氏の作成した記事自動作成ボットにイライラさせられることが多いそうで、「Lsjbot」の質より量を重視した記事では記事を読む人の助けにならない、と感じているそうです。
By Martin Kenny
これらの批判にも屈せずJohansson氏がWikipediaの記事を作り続けているのは、「Wikipediaはいつしかすべての人間にあらゆることを教えられるようになる」と信じているから。この夢を少しでも早く実現するために「Lsjbot」を作成し、基本的な情報しか書かれていない記事でも構わないので、多くの記事を作成できるように努めてきた、とJohansson氏。
また、Johansson氏は自身のボットが作った記事が退屈な内容になりがちなことは十分承知とのことですが、それでも「Lsjbot」の作成した記事には十分すぎる価値がある、とコメントします。例えば、2012年に「Lsjbot」がスウェーデン語のWikipediaに作成した、フィリピンの都市「Basey」の記事は、都市の座標と人口、さらにその他の詳細なデータを含んだ簡易なもので、記事の1番上には「この記事はボットにより作られた」ということが示されています。この記事は2013年に東南アジアのヨランダを台風が襲った際に多くのスウェーデン人に閲覧され、記事を見た人たちは都市の位置や規模などの情報を見ることができた、と「Lsjbot」が作成した記事の有用性を主張しています。
また、Johansson氏は基本的な情報しか書かれていない記事は、その題材についてより詳しい人物が追加の情報をあとから埋めるための土台にもなる、と言います。
Wikipedia上の記事の多くは白人の「オタク」により作られている、とJohansson氏は言います。例えばスウェーデン語のWikipedia上にはロード・オブ・ザ・リングに登場する各キャラクターの個別記事が150以上もあるのに対して、ベトナム戦争関連の記事を作成するのは10人もいない、とのことです。こういったWikipedia上の「記事の偏り」を少なくすることにも「Lsjbot」は貢献しており、将来的に「Lsjbot」が作成した記事を題材に興味を持っている人が編集して強化してくれれば、とJohansson氏は語ります。
スウェーデンのWikipediaで代表を務めるLennart Gulbrandsson氏が、「Johansson氏の行いはその価値を示しています」と言うように、これまでJohansson氏の活動に懐疑的だった人たちの多くがJohansson氏を支持するようになっているそうです。なお、Johansson氏がフィリピン語のWikipedia記事を大量に作る真意は不明ですが、彼の妻はフィリピン人とのことです。
日本語版のWikipediaも医学・科学などの分野に比べて、サブカルチャー関連は記事が恐ろしいほどに充実しているという偏りがあるので、どこの国のWikipediaも事情は同じということのようです。