「サンジャポ」登場で予約殺到、お坊さん長生きの秘訣満載『お寺ごはん』
かくいう私も先週海外に渡航し、調子にのって食べ過ぎてしまって、帰国後おなかの調子が芳しくない。これから忘年会シーズンでさらに暴飲暴食が進む季節、和食中心のメニューで体調管理に努めたいなぁと思っていたら、ぴったりのお店が先週30日にオープンした。
東京都港区にある光明寺のオープンテラスに期間限定で登場したもので、お坊さんが作り、お坊さんがサーブし、おまけにお坊さんとおしゃべりまでできてしまうレストランだ。
もちろん、出されるメニューは「お寺レストラン」の名にふさわしく、肉・魚は一切なし！ 「マヨネーズを使わないポテトサラダ」、お肉の代わりにお麩を使った「お麩じゃが」、みそ汁も魚のだしではなくきのこでだしをとるこだわりよう。私もオープン初日にお邪魔してみたのだが、1時間かけて作ったというこだわりのおかゆと野菜中心のおかずが弱った胃腸にはとても嬉しい。でも、デザートまでついているからしっかり満腹感もあるのだ。
完全予約制だから落ち着いて食事ができる上、夜はなんと東京タワーを眺めながらお酒まで飲めてしまう。期日は12月6日（木）まで……とオススメしようと思っていたら、昨日の「サンデージャポン」でも紹介されたからか、この原稿を書いている途中で予約が埋まってしまった。。。じゃあ食べられないじゃん！
それなら、自分で作ってみるのはどうだろうか？ この「お寺レストラン」で給仕を担当した「料理僧」を名乗る僧侶・青江覚峰さんが上梓したレシピ本『お寺ごはん』が発売されている。
この『お寺ごはん』、レシピの紹介に入る前に、冒頭である事実を提示する。
《みなさんは、奈良の時代から、職業別に平均寿命を見てゆくと、最も長寿である職業が、常にお坊さんであることをご存じでしょうか》
えーーー、全然知らなかったよ！ と思って自分でも調べてみると、郡山女子大の森一教授が研究した「職業と寿命の研究」のなかの「各職業集団の平均寿命」において、寿命が長い順に、（１）宗教家（75.6歳） （２）実業家（73.2歳） （３）政治家（72.8歳）と並び、しかも宗教家（僧侶）にいたっては、古くは奈良時代からずっと平均寿命がNo.1であるという。
そんな長寿の代名詞であるお坊さんの食生活には、どんな教えが息づいているのか？
肉、魚を使わないいわゆる「精進料理」であるお寺の食事は、体の中をすっきりと整え、また、野菜を多く使うことから、一般の食事に比べても非常に低カロリーでヘルシーであるという。そんな「お寺ごはん」の極意を知り、感じてもらいたいとまとめられたのがこの『お寺ごはん』なのだ。
構成は 「前菜」「汁物」「豆腐」「焼き物」「揚げ物」「煮物」「酢の物」「ごはん」「鍋」「デザート」 の10章だてで、和のフルコースを網羅できる仕掛けになっている。もちろん、お肉、お魚を使ったレシピは一切なく、野菜中心。しかも野菜の中でも、煩悩を刺激する（精をつける）と言われる「ネギ」「にんにく」「たまねぎ」「にら」「らっきょう」も使っていない。
「精進料理」と聞くと厳格でいて質素なものを連想しがちだが、この本では一般人が日常生活でも取り入れやすいようにもアレンジされていて、意外なことにグラタンやコロッケ、カレーなど現代的なメニューも多い。また、無駄を出さず食材を使い切るための工夫や、野菜の余った皮だけで作る汁物などの使いまわしレシピも充実。暴飲暴食しがちで、しかもお財布も厳しい年末年始にまさにピッタリではないだろうか。
また、このレシピ本の特徴は、各章の冒頭で記されている、著者・青江覚峰僧の言葉の数々だ。
たとえば、「第一章：前菜」。
《前菜は、それを食べる人を歓迎し、そこから生まれる時間を、心を開いて受け入れる用意があることを伝えるもの。自分と相手とのご縁を結ぶ料理です》
たとえば、「第六章：煮物」で、煮物に欠かせない「面取りについて」。
《面取りの心とは、人とのお付き合いにも通じます。角々しく尖っているよりも、まろやかに接した方が、心はやさしく通い合い、自ずとよい関係が築かれます》
たとえば、「第十章：デザート」。
《お菓子は、人が生きていくためになくてはならないものではありません。ただしその一方で、それがあるからこそ、暮らしに潤いが生まれるという、不思議な力を持っています。私たちの暮らしには、このお菓子のような、不思議な力を持ったものに溢れています。趣味、おしゃれ、占い、おしゃべり……、他にもたくさんあるでしょう。これらは気持ちをうきうきさせてくれる楽しいもの。ですが、夢中になりすぎると、肝心なことがおろそかになる危険もあります》
などなど、レシピ本なのに、なんだからありがたい説法を聞いているような心地にもなってくる。
簡単、ラクチンを追い求めるレシピ本が多い中で、この本では1時間かけて作るおかゆを紹介し、面取りやだしををとるといったちょっと面倒な基本を疎かにしないことを何度も訴えている。忙しい現代人には難しい部分があるのでは？ という素直な疑問を著者である青江覚峰さんにぶつけてみると、こんな答えが返ってきた。
「現代人のライフスタイルって、＜忙しい＞という言葉の裏で、＜向き合うこと＞を辞めてしまっていると思うんです。でも、時間がないなかでもぜひ、＜向き合う＞ことに意識を向けていただければと思います。素材と向き合うこと、作る相手と向き合うこと、そして自分自身と向き合うこと……そうすることで、たとえば周りの人の変化や体調にも気づいてあげることができるようになる。＜向き合うこと＞の大切さを、このレシピ本を通して見直してもらえればと思います」
忙しなく毎日が過ぎてしまう師走、でもそんな時こそ、素材や自分と向き合うための指南書として、『お寺ごはん』、いかがでしょうか。
（オグマナオト）
