12月21日に発売される2巻で、一応は完結する「わんおふ -one off-」。しかし、佐藤順一監督の頭の中には、すでに今後の構想も? 「アニメって、世界観や設定を作るのが一番大変で、(作業の)ボリュームもあるんですね。せっかくいろいろな世界観ができて、キャラクターたちも生まれているので、できればこの先も、ずっとずっといろいろな経験をさせてあげたいなという風に思っています。そのためにも、ぜひぜひ応援して頂けると嬉しいです。できたら、「たまゆら」と一緒に(笑)」(佐藤監督)

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「女子高生の日常×バイク」という斬新なテーマを題材にした、佐藤順一監督の最新OVA「わんおふ -one off-」。11月28日には、Blu-ray&DVDの1巻が発売されました。佐藤監督インタビューの後編では、キャスティングの経緯から、12月21日に発売される2巻の話。さらに、テレビアニメ「たまゆら」の2期についても伺ってきました!
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――「わんおふ」のメインキャラを演じている声優さんは、過去の佐藤監督の作品には、あまり出演されてない方が多いですね。皆さん、オーディションで選ばれたのですか?
佐藤 オーディションは、基本的に春乃だけですね。
――では、春乃役が後藤沙緒里さんに決まったポイントを教えて下さい。
佐藤 後藤さんは独特の空気が持ち味だと思うんですよね。柳腰というか、捕らえどころのない感じがあって。ゆるい雰囲気の人かなと思ってたんですけど、実際に(芝居を)聴いてみると芯があって。話してみても、少し気の強いところもあるじゃないですか。この強さがあれば大丈夫かなと思い、後藤さんにお願いしました。
――春乃の親友の小夜、杏里、利絵のキャスティングについては、どのように?
佐藤 今回は、パッケージなどの展開を考えても、(新人ではなく)ある程度、名前のあるキャストの方が良いだろうと思っていて。プロデューサーさんから、そういう声優さんの名前を挙げてもらい、その人が出ている作品やインターネットラジオなんかを片っ端から聴いていきました。
――まるで、アニラジファンですね(笑)。監督は「たまゆら」のときも、ラジオを参考にして声優の個性を把握したと仰っていましたが。
佐藤 ええ、「この子、面白いな〜」とか言いながら(笑)。春乃の周りの子は、そうやって決めていきましたね。
――シンシア役の小林ゆうさんも、すごくはまり役だと思うのですが。小林さんを指名した形ですか?
佐藤 はい。シンシアの場合、キャスティングの選択肢としては、すごく英語が流ちょうな人か、野放しに何かをやれる人のどちらかしかないんですね。小林さんは、英語もそこそこ発音できるという話もあったんですが、片言な感じで、好きなようにやってもらいました。野放し状態です(笑)。
――さすがの暴走ぶりでした。小林さんとのお仕事は、初めてですよね?
佐藤 実は、ある作品のパイロットフィルムで、一度だけお仕事したことがあって。小林さんの破壊力はそのときに思い知っていたわけです。それで、ぜひシンシアをとお願いしました。
――シンシアは、物語を動かすという意味でも、重要なキャラですよね。
佐藤 さっきお話しましたが、「メリーポピンズ」のイメージですね。自分と違う世界でいろんなものを見てきた人が、主人公を(外の世界に)引っ張ってくれる。でも、自分はそこに行けるのかな……という話にしたかったので、春乃を導くキャラクターとして、シンシアを用意したんです。でも、小林さんのシンシアは暴走が予想以上にすごくて、このままでは、物語がきれいに終われないなと(笑)。そこで、春乃とシンシアを繋ぐような人物が必要になったんです。
――緒方恵美さんが演じる2巻の新キャラクター影山が、その役割を担っているんですね。影山は、シナリオの段階では存在しなかったキャラということですが。
佐藤 (2巻収録の)3、4話に関しては、絵コンテの段階で、シナリオからのブラッシュアップがかなり加わっていて。その中で、出てきたキャラクターですね。
――キャスティングに関しては、杏里の飼い犬であるマロのことも気になります。前回の「たまゆら」に関するインタビューでは、儀武ゆう子さんには犬か猫をやってもらうつもりだったのが、メインキャラの麻音になったと仰っていましたが。今回は、そのまま犬役ですね。
佐藤 春乃の家のニワトリにしようって案もあったんですけどね(笑)。最初のプランではマロというキャラはいなかったのですが、黒星さんのデザインに、杏里の飼い犬として、可愛い絵が描かれていて。「これが、儀武さんで良いんじゃない?」と。
――その結果、儀武さんは犬の芝居のクオリティも高いと証明してしまう事態に。犬の鳴き声で歌ってますし(笑)。
佐藤 そうなんですよ。もう、(キャスト欄ではなく)SEのところに名前があっても良いくらいですね(笑)。
――SEといえば、先行放送の際、春乃が乗るジョルノのエンジン音に、本物のジョルノのエンジン音を使っていることが、バイク好きなファンの話題になっていました。やはり、そういったバイクの描写も、特にこだわった部分なのでしょうか?
佐藤 ホンダの実際のバイクが出てくるので、なるべく本物に近づけるために、すべてのバイクは実車の図面を元に3Dで描います。手描きはほんとどありません。音も、基本的に実車のものを録音して使ってます。僕には、どれも同じような音に聞こえるのですが(笑)。
――では、バイクに詳しいスタッフさんの存在が大きかったのでは?
佐藤 はい。チーフディレクターをやってくれた、きみや(しげる)さんは、大きなバイクに乗っているんですよ。あと、制作をやってくれた子やCGデザイナーさんもバイク乗りです。
――春乃がジョルノ、小夜がリトルカブなど、どのキャラが、どのバイクに乗っているのかという組み合わせは、バイクに詳しいスタッフさんの意見を参考に?
佐藤 ホンダの方から、ジョルノは推したいというリクエストがあったので、春乃はジョルノにしました。その他も「このあたりのバイクを出してもらえると嬉しいな」という希望はもらっていて。その中から誰にどんなバイクをというバリエーションは、きみやさんやCGデザイナーさんのアイデアという感じですね。(1巻に出てくる)モンキーには、分かる人には分かるマフラーがついてるんですけど。そういうマニアックなネタも、スタッフのアイデアです。
――バイクに乗ってる女の子が可愛く、楽しそうに見えるのもポイントだと思います。作画、演出面で気をつけたことを教えて下さい。
佐藤 ホンダの人に、バイクの一番の魅力ってなんですかと聞いたら、皆さん、身体で風を切って走ることなどと仰っていたので、それを見せたいと思いました。でも、実際に(見ていて)気持ち良い動きにすると、「これは60kmくらい出てるんじゃない?」って感じに見えるんですよ。(法定速度の)30km/hくらいのスピードで、その気持ち良さを出すのが、なかなか難しかったですね。
――バイクの描写とは関係ないのですが。春乃たちが学校に着いた後、スカートの下にはいてるジャージを脱ぐシーンが、1巻と2巻の両方にありますよね。これはファンサービスですか?
佐藤 それも大事かなと(笑)。さっきもお話したとおり、制服でバイクに乗るときは、ジャージとかを履かせて欲しいとホンダさんから言われていて。一方で制作側の人間からは、バイクを素敵なものに見せたいアニメで、制服の下にジャージって、どうなんだろうという意見も出て、議論していたんです。でも、ふと「ジャージを履いてたら、脱ぐシーンも作れますよね」って言ったら、「ああ、そうですね! じゃあ、ジャージで!」って(笑)。
――なるほど(笑)。「たまゆら〜hitotose〜」の頃から、監督のヒザ裏フェチ疑惑があったわけですが。今回、ジャージを脱ぐシーンで、まさにヒザ裏がフィーチャーされていたので、これは……と。
佐藤 いやいや、ジャージを脱がせるなら、他に方法はないって感じで。
――監督の趣味ではないと。
佐藤 ええ。演出上、どうしても必要なのでやりました(笑)。
――では、そういうことに……。ジャージを脱ぐ姿も可愛い春乃ですが、2巻では、1巻よりも少しだけ、精神面の成長というか、変化を感じました。
佐藤 1巻では、セリフにもあるように、自分で「なんかちっちゃい」と思っていて。最後、海に行ったところでシンシアに「ありがとう」と言うのも、自分ひとりではここまで来られなかったと決めつけた上での「ありがとう」なんですね。でも、2巻では(海までのツーリングを)やりとげた自分への自信のようなものが、少しは感じられたら良いなと思いました。
――2巻の展開は予想外でしたが、綺麗なエンディングを迎えています。でも、まだまだ描きたいことはありますよね?
佐藤 もちろん。まあ、60分の尺でキャラ全員を描くことは無理なので。「魅力的な子たちだな、もうちょっと見たいな」くらいのところで終わるのが、やり方としても正解でしょう。でも、実際には、まだまだ広げられる幅を持っていることは間違いないですね。
――2本のOVAからテレビアニメ化、さらに2期決定と続いた「たまゆら」という前例もあるので、同じ展開を期待しているファンも多いと思います。
佐藤 我々も続けられるのなら続けたいんですけど、こればっかりは……。
――1巻と2巻がどのくらい……ってことですよね。
佐藤 「たまゆら」であれば、「レッツバイ!」と言うところですけど(笑)。黒星さんのイラストには、日常の点描みたいなスケッチや表情集のような絵がいっぱい描かれていて。まだまだ使い切れてないので、それも拾っていきたいですし。今回、2巻分のアフレコをやってみて、それぞれの声優さんやキャラの持ち味も前より分かってきた。違う活かし方もあるなというのが見えているので、できれば、続けていきたいですね。
――僕としては、「わんおふ」と「たまゆら」を交互に作っていただけたら嬉しいです。最後に、「たまゆら」の2期についても、少し伺いたいのですが。先日の「たまゆら祭り」で2013年夏の放送予定と発表されましたが、その予定は変わることなく、順調に制作は進んでいるのでしょうか?
佐藤 夏というゴールは変わってないですね。時間はどんどん無くなっていますが(笑)。
――今回、OVAやテレビ1期よりも、広島県のもっと広い範囲が舞台になるという噂もあるのですが……。
佐藤 はい。竹原だけでなく、もう少しエリアを広げていきたいなと思っています。実際、新たにロケハンした場所もありますし、これから行こうと思っている場所もあります。
――僕は、広島県出身なので、どこが出てくるのか楽しみです。
佐藤 広島の皆さんの「たまゆら愛」がけっこう強いので、「ウチを出して!」という声を、いろいろと聞くのですが……。
――僕の出身地、因島もぜひ!(笑)。
佐藤 そうなんですか(笑)。できれば、ちょっとずつでも拾っていきたいんですけど、全部は難しいですよね。
――そうですよね……。舞台だけでなく、物語にも変化は出てくるのでしょうか?
佐藤 いろいろと出てきますよ。楓たちも進級して高校2年生になりますから。そうなると、少し将来を具体的に考える時期にはなってくる。それぞれの子に、ちょっとずつ変化は出てくるかなと思います。
――楽しみにしています。2期の放送が近づいたら、また、お話を聞かせてください!
(丸本大輔)