フットサルW杯の取材で、ナコーンラーチャシーマーに滞在している。バンコクから北東に２４０キロ離れたこの街でも、世界のサッカーに触れることはできる。

　金曜日の夜にテレビをザッピングしていると、UEFAヨーロッパリーグのゲームに行きあたった。同じチャンネルで、立て続けにフルタイムで放映していた。ザッピングを続けると、セリエA、ブンデスリーガ、ブラジル、アルゼンチンのリーグ戦のダイジェスト番組を探し当てた。もちろん、フットサルW杯は生放送である。ちょっと変わったところでは、ＭＬＳを観ることもできる。

　土曜日の午後にテレビを着けると、Ｊ１リーグが放映されていた。G大阪対広島戦だった。「先週のゲームか」と思ってチャンネルを替えると、見慣れた空間が飛び込んできた。国立競技場だった。画面右上には「ＬＩＶＥ」とある。清水対鹿島のナビスコカップ決勝だった。

　僕が泊まっているホテルは、通称コラートの中心からかなり外れている。タイでは当たり前のセブンイレブンも、15分ほど歩かないと見つけられない。ミネラルウォーターなどを買いに行く道のりで見つけるのは、レアル・マドリー、バルセロナ、チェルシー、マンチェスター・ユナイテッド、リバプールといったメガクラブの広告だ。
そういえば、ブンデスリーガのダイジェスト番組に挿入されていたＣＭで、ドルトムントの選手がタイ語で挨拶をしていた。そのままテレビを眺めていると、アーセナルが来夏にインドネシアツアーを行うとのニュースが流れた。
　
　世界経済の流れを読み取れば、ヨーロッパ各国のクラブが東南アジアへ目を向けるのは当然だ。人口が増加傾向にあり、経済成長が堅調な東南アジア各国は、今後の掘り起こしが期待できるマーケットだ。
　
　Ｊリーグも遅ればせながら、東南アジア進出を果たしている。経済分野の進出では韓国や中国に先んじられたが、サッカーはいまのところ日本がリードしている。
　
　とはいえ、競合するのはヨーロッパの名だたるクラブだ。試合中継というコンテンツの提供だけでは、早晩遅れをとるだろう。双方向の交流は不可欠で、チームや選手の行き来が望まれる。ＪＦＡによる指導者の派遣などで人的交流がはかられているものの、Ｊリーグの優勝チームが遠征をするといったような、分かりやすく見えやすいプログラムも作っていきたい。
　
　もっと分かりやすいのは選手の獲得だ。タイやインドネシアの代表選手がＪリーグでプレーすることになれば、同国内におけるＪリーグの認知度は確実に高まるはずだ。アジア枠があるので、チーム内バランスに悪影響が生じることはない。人件費を圧迫するとも考えにくい。デメリットはほぼないと思う。
　
　ザッピングで出会ったあるドラマで、タイの子役がレアルのユニフォームを着ていた。本当の意味で国外の人々に支持されるというのは、こういうことではないだろうか。アジアの市場を取り込むのではなく、溶け込む努力をすることが、日本サッカーの未来に寄与していくと思うのである。