現地時間5月8日、マリナーズの恒例行事となった学校訪問でイチロー、岩隈久志、川崎宗則の日本人3選手が近隣の小学校を訪れた。

 目的は地域社会への貢献であり、禁止薬物の危険性や教育の重要性を子どもたちに訴えかけるもの。約500人の児童の前で3人を代表して川崎が英語であいさつを行なった。以下、川崎の英語でのあいさつだ。

“Hi all. My name is Munenori Kawasaki. Call me Mune. I'm from Japan. My English isn't good now. Because I'm Japanese.”

 わざわざ訳す必要もないだろう。中学1年生で習う初歩的な英語に過ぎない。発音も決してうまいとは言えず、もしかすれば米国の子どもたちは聞き取りにくかったかもしれない。それでも川崎は臆することなく、自らの言葉で語りかけた。「オレ、まだ英語がヘタなんだよ。だって日本人だから」。この言葉は子どもたちに大爆笑を誘い、川崎は彼らの心を完全につかんだ。

 今や多くの日本人選手がメジャーでプレイする時代になったことで、以前にはなかった壁もたちはだかるようになったと感じることがある。それが言葉の壁だ。

 日本人選手には必ずと言っていいほど専属の通訳が付く。15年前ならば、日本人選手はごくわずか。前例のない時代は通訳を付けることに違和感はなかったが、今季の日本人メジャーリーガーは開幕の時点で14選手。これはドミニカ、ベネズエラ、カナダに次いで4番目に多い。しかし、いまだに日本人選手には、ほぼ全員通訳が付いている。これはいかがなものか。

「僕らは野球をしに来ている。野球に集中するために通訳は必要」

 ある選手が言っていたように、これが一般的な言い分であろう。この気持ちは理解できるし、右も左もわからない移籍1年目の選手に通訳を付けるなとは言わない。しかし、いつまでたっても通訳を介しているのでは、真のコミュニケーションは成り立たない。事実、現場でよく耳にする首脳陣の声がある。

「通訳を通しているから、アイツの考えている真意がわからない」

 その一方で、選手たちからよく聞く言葉がある。

「自分の英語力では真意が伝えられない。だから通訳は必要です」

 コミュニケーションを最も必要とする両者から聞こえてくる、相反する言葉。昨今、日本人メジャーリーガーが苦しむ大きな要因がここにあるのではないだろうか。

 昔から日本で大成する外国人選手は、日本の文化を受け入れ、日本に馴染もうとする選手が圧倒的に多かった。そして彼らに共通していたのは、うまくなくても日本語でコミュニケーションを取ろうとした、その心だった。ウォーレン・クロマティ、タフィー・ローズ、オレステス・デストラーデ、アレックス・ラミレスらがそうだ。

 また、メジャーに移籍した日本人選手では田口壮がそうだった。彼には通訳がいなかった。監督、選手、メディアに対しても、自分の言葉で、英語で会話をしていた。その結果、特別扱いを受けることもなく、彼はセントルイスで本当に愛された。

 川崎も専属通訳は付けていない。

 選手としてのパフォーマンスはもちろん重要だが、日本人メジャーリーガーの新時代に向けてのキーポイントは、英語でのコミュニケーションだろう。だからこそ、川崎のこの言葉が心に残り、今後の彼の活躍をますます期待したくなった。

“My English isn't good now.”

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