今シーズン開幕前の移籍市場で、インテルはほぼ静観を貫いた。「勝っているチームは動かさない」という鉄則を守ったと見ることもできるし、イタリアのクラブで史上初の3冠を達成した選手たちに敬意を表したと見ることもできる。

 しかし、“らしくない夏”を過ごしたインテルは、前半戦で選手層の薄さを露呈。クラブ・ワールドカップ終了後にはラファエル・ベニテスを解任するに至った。

 かつての指揮官ロベルト・マンチーニが監督を務めるマンチェスター・シティに放出したマリオ・バロテッリに代わるFWを獲得しなかっただけでなく、各ポ ジションの選手層を厚くするような即戦力の補充もなし。結果、“夏の主役”となったミランに、そのままリーグ戦でも主役を演じられてしまった。オーナーの マッシモ・モラッティにとっては看過しがたい事態と言えただろう。

 迎えた冬の移籍市場。モラッティ会長は攻めに転じた。まずは、ワルテル・サムエルの長期離脱で穴の空いた最終ラインにイタリア代表のアンドレア・ラノッ キアを獲得。共同保有のラノッキアを完全移籍で獲得することは既定路線だったが、出費増を覚悟でシーズン終了後に行う予定だった完全移籍を前倒しにした。 さらに、ディエゴ・ミリートの復調を待つ余裕はないとして、イタリア代表FWのジャンパオロ・パッツィーニをサンプドリアから獲得。その翌日には、モロッコ代表のウシーヌ・カルジャをジェノアから獲得した。

 モラッティの“ミラン追撃態勢”。本来であれば、この時点で、その体勢は整ったはずだったが、移籍マーケットの最終日にサプライズがもたらされた。1月に日本代表の左サイドバックとしてアジアカップを戦い、優勝を決めたばかりの長友佑都の獲得である。

 マーケット最終日の前日まで「長友のインテル入り」は全くと言っていいほど話題になっていなかった。サイドバックの人材が不足しているユヴェントスが両 サイドをこなせる長友に関心を寄せているとの情報は以前から上がっていたが、深く潜行していたインテルは最後の最後に浮上し、一気に交渉をまとめてマー ケットの終了期限間際で正式決定にこぎ着けたのだ。

 契約形態は「買い取りオプション付きのレンタル」で、この時点でインテルが支払ったのは50万ユーロ(約5500万円)のレンタル料のみ。シーズン終了 後にインテルが完全移籍での獲得を望めば、その時点でチェゼーナに600万ユーロ(約6億6000万円)に移籍金を支払うことになる。ただし、それはあく までインテルが希望すればの話。不要と見なせば、長友はチェゼーナに戻ることになる。

 長友獲得の交換要員としてチェゼーナに向かったダヴィデ・サントンも今シーズン終了までのレンタル移籍だが、こちらには買い取りオプションが設定されていない。インテルに強い愛着を持つサントンも、チェゼーナを“修行の場”と見ているようだ。

 ちなみに今回の移籍で長友本人の年俸は変更なし。チェゼーナと結んだ年俸60万ユーロ(約6600万円)の契約がそのまま適用されている。ただし、シー ズン終了後にインテルへの完全移籍となれば、その時点でインテルと新たな契約を結び、大幅な昇給を勝ち取ることになるはずだ。もっとも、現時点で長友に金 銭面のこだわりはないだろうが。

「世界一の左サイドバック」を目指す長友が望むのは、より高いレベルの環境に身を置き、タイトル争いの中で自分自身をあらゆる面で成長させること。その点 で、インテルは理想的なクラブと言えるだろう。もっとも、それが「良い経験だった」で終わってしまっては意味がない。タイトル獲得に貢献し、インテルに 600万ユーロの価値を見せつけること。インテルへの完全移籍を果たすことが、長友にとっての当面の目標となる。

[カルチョ2002|2011年3月号(2月11日発売)号掲載]



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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。ストリートファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、現在、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』と、サッカーくじtotoの予想サイト『totoONE』の編集長を兼任。『SOCCER GAME KING』ではグラビアページを担当。