弁護士の数は4万人を超えていますが、多くは大都市圏に本拠地を置いています。地方では女性弁護士の数が足りない現状。DVや離婚など、女性依頼者が女性に弁護を頼りたいなかでも断わらざるを得ないケースも。根深い地方の女性弁護士の課題を、アイドルから会社員を経て37歳で弁護士になった平松まゆきさんに聞きます。

【写真】カラフルな水玉衣装が初々しい!芸能界で活躍した当時の平松さん ほか(全6枚)

女性弁護士が感じる身近な恐怖

── 東鳩(現:東ハト)オールレーズンプリンセスコンテストグランプリを受賞し、12歳から芸能界で活躍した平松まゆきさん。その後、大学進学、会社員を経て、現在は故郷・大分県で弁護士として活躍されています。地方で女性弁護士として働いて感じることは?

平松さん:大分県は首都圏に比べて弁護士数が少なく、さらに女性弁護士の比率も低いため、(少数派の)女性弁護士の声はなかなか通りにくいと感じています。私は事務所だけでなく、大分県の弁護士会館でも相談を受けていますが、そこでの相談業務は防犯ベルも、いざというとき、手の届く範囲に電話もない、無人のフロアで長く行われており、密室状態でした。「もし何か起きたら?」と、ずっと不安や恐怖を感じていました。

トラブルを抱えている相談者のなかには、感情的に怒り出す人もいるんです。2016年、熊本県では女性弁護士がいきなり男性の相談者に殴られる事例もありました。とくにDVや離婚トラブルでは、弁護士が身の危険を感じることもしばしば。というのは、「うちの嫁に余計な知恵をつけやがって!」と、激昂した依頼者家族が乗り込んでくるケースもあるからです。

実際に日本各地で弁護士が襲われ、男性弁護士が刺殺されたりしています。依頼人は法律で守られるのに、弁護士は誰が守ってくれるのでしょうか?弁護士の全国組織である日本弁護士連合会が2023年に取りまとめた調査結果では、離婚・男女関係問題に関わる弁護士への業務妨害による被害は、女性弁護士においてより深刻と判明しました。

日本弁護士連合会でも法曹関係者に対する暴力や業務妨害に対して、強い非難と対策強化の声明を出していますが、セキュリティ対策費用の補助や男性弁護士が積極的にDV案件を共同受任するなどの議論は進んでおらず、現場での具体的な施策にはなかなか結びついていません。「身を守る手立てのない状況で依頼人と1対1で相談業務にあたるのは危険」と、私が10年間言い続けた結果、ようやく、何か起きれば迅速に対応できるよう、会館内の人がいるフロアで相談業務を行うことになりました。

── 女性弁護士の被害がいっそう深刻だという現実は、ジェンダー差別のあらわれですね。弁護士は人権意識が高く、弱者を助けるイメージを持っていたのですが、女性弁護士を守る動きについてははまだまだな印象を受けました。

平松さん:私も弁護士になる前は同じようなイメージを持っていたのですが、現実はだいぶ違います。相談時の女性弁護士の身の安全についても、最初は問題とすら認識してもらえず、大分弁護士会の議論にもあがりさえしませんでした。女性弁護士の悩みや困惑することについて、弁護士会でも気づいてもらえない場面は多々あります。残念ながら弁護士業界自体も、とくに女性弁護士の声に耳を傾けようという機運は、まだあまりないようです。

こうした危険と隣り合わせにある状態では自分の身を守れないと、「DV案件」を引き受けない女性弁護士も多いです。女性弁護士を求める依頼者は多数いるのに、環境が整っていないことで依頼を受任できない状態が放置され続ける現状は、誰の得にもなっていません。

女性の依頼者は女性弁護士を求め仕事が殺到

── 2025年時点で、人口1人あたりの弁護士数は東京都の614人に対して、大分県は6739人と約10倍の開きがあります。2026年の女性弁護士比率は東京、大阪、福岡など大都市圏では2割ですが、大分では13%の約20名です。

平松さん:出産や子育てで休む人もいるので、体感値では稼働している大分県の女性弁護士比率はもっと低く、その半分くらいに思えます。そもそも、大学に法学部がない地方もあり、地方では弁護士になる人が少ない構造的な問題もあります。弁護士は全国に4万人以上いますが、その約3分の2が東京や大阪、名古屋の大都市に集中しているんです。大分県の弁護士は約160名、みんな顔見知りです。

司法試験受験の勉強時には疲れて眠りこむ平松さん、机には栄養ドリンクが並ぶ

── 大都市と地方ではずいぶんと事情が異なるんですね。弁護士として活動されて10年、どのような依頼が多いのでしょうか?

平松さん:9割が女性からの依頼です。案件の半分は離婚で、DV、セクハラ、離婚、交通事故、遺産分割なども多いですね。DVや性被害案件でなくても、女性は女性弁護士に相談したい方がほとんどです。「(イメージで)男性弁護士は怖いので、女性がいい」と、よく言われます。私もなるべく引き受けたいのですが、県内の弁護士160名中、1割しかいない女性弁護士に依頼が集中するのでかなり忙しく、ときには断らざるを得ないケースもあります。

── DVやセクハラ、離婚関連では、心に傷を負っている依頼者も多いのでは?

平松さん:傷ついている人もいらっしゃるので、話をする際、言葉を選ぶようには心がけています。事件として成り立たない場合でも、話すだけで「気持ちが楽になった」と言って、帰っていかれる方もいます。「依頼者側に有利な判決にはならない」「判決が出ても実際には損害を取り戻す術がない」という案件でも、最初から「これはムリです」と、伝えないようにしています。

とはいえ、依頼者に期待だけさせてもいけないので、タイミングを見計らって、どうするべきかを話します。

弁護士は「人のケンカに首をつっこむ」仕事

── お話を聞いていて、平松さんからは誠実な印象を受けます。弁護士として活動して10年、正直なところ、いかがですか?

平松さん:私がというより、一般論として、弁護士は心身ともに大変な仕事だと思います。そもそも、弁護士は「人のケンカに首をつっこむ」仕事です。トラブルや裁判などの過酷な重圧が常にかかった精神状態にいる人たちと接することが多いため、私たちも精神的にしんどくなりがちです。困りごとやもめごとを抱えた人のつらい話を毎日、シャワーのように浴びるわけですから。

芸能界にいたころは「何か楽しいことをやろう!」と、周囲は希望に満ちた話ばかりでしたが、現在は正反対の世界。知的財産権やM&A分野などでは前向きなこともあるかもしれませんが、私たちのようなマチ弁(地域密着型の町の弁護士)は前向きなテーマの仕事はありませんし、私はそういう依頼を受けたことは一度もないです。実際、大分でも弁護士になったばかりの若手の数名が心を病んでやめて田舎に帰ったり、人生を考え直したりというケースが続きました。

── 大変な仕事ですが、お休みは?

平松さん:休むときはしっかり休むべきですが、長期休みはあまりとれないですね。昔から海外旅行が大好きなんですが、それも難しいです。というのも、毎日必ず電話をかけてくる依頼人が多いからです。この仕事を始めて海外旅行に行ったこともありますが、昨日電話してきた方が「どうなりましたか?」って、今日また電話してくるんです。

その方は、明日も明後日もきっとまた電話をかけてくるでしょう。でも、毎日電話をかけてくる気持ちも理解はできます。テレビドラマなどでは、法律事務所をあげてひとつの案件に取り組んで、日々、何か進捗があるように描かれていることが多いため、同じように私たちに期待する人もいるんです。

でも実際は、ひとりでつねに70件程度の案件を担当し、細切れの時間で少しずつ対応するので、毎日、変化があるものではありません。

── 弁護士が同時進行で、そんなに多くの案件を抱えるとは知りませんでした。平松さんは司法試験の勉強中、2度、深刻なうつ病になったそうですが、それ以降で気をつけていることは?

平松さん:多い人は、ひとりで同時に100件近く案件を抱える弁護士もいます。私の場合、土日は電話にも出ず、ひたすら心と身体を休めています。買い物にも行かず、家で寝るか映画を見まくるか…。宝くじにでもあたれば、アーリーリタイヤして海外旅行に行こうと夢見ていますが、まぁムリですね(笑)。

仕事を減らせばいいのかもしれませんが、大分県に20名ほどしかいない女性弁護士に対して、女性からの依頼が集中している現状です。もし私が仕事を減らしたら、そのぶん他の女性弁護士の負担が増えてしまうことになって顔向けできません。でも、これだけ多くの女性依頼者に求められ、悩んでいる人たちの力になれることにやりがいは感じます。今後も体調管理に留意しつつ、誠実に向き合っていきたいです。

取材・文:岡本聡子 写真:平松まゆき