「サイコパス」が多い10の職業と彼らが出世する訳
サイコパスは稀(まれ)ですが、他の人よりも権力に引きつけられ、権力を手に入れるのも上手です。したがって、権限のある地位の過剰な割合を占めています(画像:kai/PIXTA)
横暴に振る舞う上司、不正を繰り返す政治家、市民を抑圧する独裁者。この世界は腐敗した権力者で溢れている。
では、なぜ権力は腐敗するのだろうか。それは、悪人が権力に引き寄せられるからなのか。権力をもつと人は堕落してしまうのだろうか。あるいは、私たちは悪人に権力を与えがちなのだろうか。
今回、進化論や人類学、心理学など、さまざまな角度から権力の本質に迫る『なぜ悪人が上に立つのか:人間社会の不都合な権力構造』より、一部抜粋、編集のうえ、お届けする。
サイコパスと「最後通牒ゲーム」
ある調査で、日本の研究者たちが「最後通牒ゲーム」という単純な課題を設定した。
ルールは簡単だ。プレイヤーは100円を楽々手に入れることができる。2人のプレイヤーの一方がランダムに選ばれて提案者になる。もう一方のプレイヤーは応答者となる。提案者は100円の分割案を提示する。
ゲームの参加者が公平なら、50円ずつ分けることを提案するだろう。もし利己的なら、80円と20円、あるいは90円と10円といった分け方を提案するかもしれない。
だが、1つ条件がついている。もし応答者がその申し出を拒絶すれば、2人とも1円ももらえない。
このゲームは、私たちが生まれ持った公平性への願望と経済的な利己主義とを競わせるようにできている。
たとえば、もしあなたのパートナーが利己的で、95円と5円の分割を提案したら、平手打ちを食らわせたくなるかもしれないが、客観的に考えれば、その申し出を受けるほうが経済的な利益には適っている。そうすれば5円もらえ、申し出を拒めば1円も手に入らないからだ。
だが、私たちには利己的な行動を罰したいという本能的な願望があり、それが利己主義に優先することがよくある。実験を行うと、人々は70円/30円という分配を限界と見る傾向を示す。それ以上不公平だと、提案者と応答者はたいてい1円ももらえない結果になる。
このゲームをしている人々の精神病質の特性を評価したらどうなるか、と日本の研究者たちは思った。
サイコパスのほうが合理的で、不公平性を気に掛けないだろうか――自己利益に適うかぎりは?
善か悪か、公正か不正か、公平か不公平かという疑問から自分を切り離すことができるような、冷徹で計算高い爬虫類(はちゅうるい)の脳を、彼らは持っているのか?
調べてみると、まさにそういう結果になった。精神病質の度合いが高い人ほど、利益になるのであれば不公平な申し出であっても気にせずに受け容れた。
皮膚の電気伝導度で情動反応を調べられる
さらに詳しく調べるために、研究者たちは「皮膚伝導度反応」も測定した。奇妙なことに、私たちは情動を喚起されると、皮膚の電気伝導度が上がる。したがって科学者は、皮膚の伝導度を測定すれば、情動的反応をおおざっぱに捉えることができる。
日本の調査では、精神病質の特性がない人が公平な提案を受けると、皮膚電導度はあまり変化しなかった。ところが、彼らを餌食にしようとするヘビのような人間から不公平な提案を受けたときには、激しい情動が湧き起こった。彼らは動揺した。
一方、精神病質の特性が強い人は、提案が公平でも不公平でも、皮膚電導度には識別可能な違いが出なかった。彼らにはあまり影響がないようだった。
別の調査では、やはり同じ最後通牒ゲームをやらせたが、その間、参加者の脳を磁気共鳴画像診断装置(MRI)でスキャンした。その調査では、精神病質の傾向が強い参加者と弱い参加者の間であまり違いがなく、どちらも不公平な提案を同じ回数だけ拒絶した。
だが、その決定を下しているときに、脳の異なる部位が活性化していた。
正常な人々は、不公平な提案を受け容れるか拒絶するかを決めているときに、規範的意思決定――何が正しいか、何が間違っているかの判断――にかかわる脳領域の活動が最も盛んになった。その決定は道徳上のものであり、世の中はどうあるべきかについての情動的手掛かりと結びついていた。
だが、精神病質の検査の得点が高い人々では、この脳領域は比較的不活発なままだった。その代わりに、80円/20円の分割を提案されたとき、サイコパスではずば抜けている脳領域、すなわち怒りと関連した領域が活性化した。
彼らが動揺したのは、これは世の中があるべき姿ではないからではなく、自分にふさわしいと思っている結果が得られなかったのは、彼らに対する侮辱だと見なしたからだった。
これは微妙な違いに思えるかもしれないが、じつは重要な違いだ。しくじるサイコパスは、自分の怒りを制御できない。そして、暴力に訴えかねない。彼らは誰かに80円/20円の分割を提案されると、おそらくその申し出を拒絶し、相手の家を焼き払うだろう。
だが、成功するサイコパスは、その怒りを管理でき、しかも思いやりに突き動かされることがない。彼らの多くがこの組み合わせを使って、階級制の中で昇進していく。彼らはろくにためらいもしないで同僚を踏み台にし、出世する。血も涙もない爬虫類の脳の助けを借りて、スーツを着たヘビになる。
こうした特性のおかげで、ダークトライアドはキャリアに関する選別効果がある。権力に飢えた、ナルシシストでマキャヴェリストのサイコパスは、たとえば慈善活動などには、たいてい引きつけられることがない(ただし、餌食たちの間で目立たないようにするためであれば、話は別だが)。
サイコパスの多い10の職業
オックスフォード大学の研究専門の心理学者で、『サイコパス』の著者のケヴィン・ダットンによれば、サイコパスの多い職業を10挙げると、以下のようになるという。CEO、弁護士、テレビ/ラジオのパーソナリティ、セールスパーソン、外科医、ジャーナリスト、警察官、聖職者、シェフ、公務員。
別の調査の結果は、ダークトライアドの特質を持った人は支配的なリーダーシップ――他者を支配することを伴うリーダーシップ――を発揮できる機会が得られる地位、とりわけ金融やセールスや法律の分野での地位に強く引きつけられることを示している。
ダットンは自分のリストに政治家を含めていないが(おそらく、サンプルとなる数がかなり少ないからだろう)、首都ワシントンはアメリカのあらゆる地域のうちでサイコパスの割合が際立って高いという調査結果がある。
ダークトライアドの特性を持つ人の割合が特に大きい地域は、社会の中で影響力がとりわけ強い場所が多い。有害な人は、少数でも大きな影響を及ぼしうる。
少しずつ実態が浮かび上がってきた。サイコパスは稀だが、他の人よりも権力に引きつけられるし、権力を手に入れるのもうまい。したがって、権限のある地位の過剰な割合を占めている。
では、彼らはその権限で何をするのか? 彼らは他者のことなど気にも掛けずに昇進するとしたら、より大きな権力を手にしたときに、さらに人々を傷つけがちなのだろうか?
(翻訳:柴田裕之)
(ブライアン・クラース : ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン准教授)