クマは「相手を窒息死させるため」に顔面を攻撃し、鼻に噛みついてくる…一撃で「鼻が半分取れ」「眼球破裂」「顔の右側が消えた」《被害者たちの貴重証言》
クマの初手は左手が多い
今年5月、秋田県鹿角市(かづのし)の山中で痛ましい事故が起きた。タケノコを採るために山林に入った60代男性が行方不明になり、4日後に遺体で発見されたが、現場から搬送する際、警官2名がクマに襲われ重傷を負ってしまったのだ。亡くなった60代男性の友人であり、凄惨な現場の目撃者となった男性は、取材に対してこう証言した。
「血まみれの警官は、右の耳のあたりから顎までざっくりとクマの爪で割かれ、大きな傷口がありました。クマの初手は左手が多いのです。ですから、顔の右側をまともに爪でやられたのでしょう。目玉は飛び出してはいませんでしたが、鼻の半分は取れて位置が変わって捲れ上がってしまっていました」
この男性は、山菜やタケノコ、薬草の原材料などの採取を職業にしており、自然と向き合ってきた。男性にとってクマは身近な存在であり、これまで3度クマに襲われた経験を持つが、「クマは顔面を狙って攻撃してくるが、初手は左が多い」という。
顔の右側が消えた
言われてみると、これまで取材をした被害者を見る限り、主に顔面の右側を負傷しているケースが多かった。岩手でクマに襲われて重傷を負った80代男性もその一人だ。
「畑で作業をしていたところ、クマの姿が目に入りました。『どうするのかな』と思いましたが、クマは自分がいる方とは逆に2、3歩進みました。ところが、突如Uターンして襲いかかってきたのです。『こんちくしょう』という思いでカマを構えましたが、即座に払われてしまい、それこそ一瞬で倒されてしまいました。それから数秒の記憶はありません。
気づくと、目はかすんでいて、顔に手をやると血がベッタリ。その時点で自分の顔がどうなっているかわかりませんでしたが、タオルをあてたとき、顔がべコッとへっこんでいるのがわかりました。顔の右側に爪による傷が残っているのでおそらくひっかかれたんだと思います。顔の一部を失ったという感覚はありました。細かく言うと、鼻が右半分なくなっていました。
失ったのは鼻の一部だけではありませんでした。左耳の上半分も失っていました。おそらくクマに噛まれたんだと思います。クマは(左)手を出すと同時に、噛んできたのではないか」(被害に遭った80代男性)
クマは顔面を狙う
人間と対峙した際、クマは意図的に顔面を狙い、左手で攻撃するのか。3000頭以上のクマに遭遇し、9回襲われた経験があるNPO法人日本ツキノワグマ研究所理事長の米田一彦氏に聞くと、こう話した。
「こっちは逃げるので必死であり、(初手が)右か左かどうかは覚えていません」
米田氏によれば、「大学病院に搬送された重症者の外傷を調べた研究結果がある」という。秋田大学医学部付属病院の高度救命救急センターが発表した「クマによる外傷患者の後ろ向き疫学研究」がそれだ。
昨年度、クマによる人身被害が最も多かったのが秋田県だ。死者こそ出なかったものの70人が負傷し、そのうち重傷者20名が三次救急医療施設である秋田大学医学部付属病院高度救命救急センターに搬送された。同センターでクマ外傷の治療にあたる土田英臣医師が説明する。
「クマに関連した外傷は日本では重大な関心事です。そこで、2023年に高度救命救急センターに搬送された、クマによる外傷患者20名の外傷パターンや治療結果などを調査研究しました。
患者さんの平均年齢は74.5歳であり、男女比では65%が男性でした。負傷は5月から11月にかけて発生しており、屋外で農作業をしているときに襲われたケースのほか、散歩中や新聞配達、ゴルフ場で仕事中に襲われたというケースもありました。
体の部位別でみると、最も多いのが顔面であり、全体の90%を占めていました。具体的には鼻や目です。次いで、上半身の腕や肩などの上肢が70%、さらに頭部が60%、下半身のひざやももなどの下肢が40%でした」
クマが顔を狙う理由
20名のうち3名の患者が眼球破裂を負い、9名の患者が顔面骨折と診断された。クマはなぜ顔を狙うのか。前出の米田一彦氏は言う。
「クマが顔を攻撃するのは事実。クマは相手と争うとき、相手を抱き込み、鼻にかみついて窒息死させようとするのが基本です。これは相手が人間であろうと、同じクマであろうと同じです。クマに限らず、ライオンをはじめ肉食獣は相手の鼻を狙ってかむのが基本形なんです」
後編記事『クマは右手でハチミツをなめ、左手で敵と戦う…「クマの利き手は左」説は本当か…被害者の証言と傷跡から検証する』では引き続き、「クマは左利き」説を追う。